発売日: 2012年11月5日
ジャンル: ポップ・ロック、シンフォニック・ポップ、ダンス・ポップ
概要
『Take the Crown』は、Robbie Williamsが2012年に発表した9枚目のスタジオ・アルバムであり、「王座を取り戻す」ことを宣言した復権作である。
前作『Reality Killed the Video Star』では内省的な側面が強調されたが、本作では一転して、チャートを意識したエネルギッシュなポップ・アルバムとして仕上げられている。
タイトルの“王冠を取れ”というフレーズは、ソロ活動への完全回帰と、英国ポップ界における絶対的存在感を取り戻すというRobbieの野心をあらわしている。
制作はJacknife Lee(U2、Snow Patrol)がプロデュースを担当し、音楽的にはきらびやかなアリーナ・ポップと、バラードによる感情の起伏がバランスよく配置されている。
シングル「Candy」は英国チャートで1位を獲得し、Take That再合流後のソロ復帰としても大きな話題を呼んだ。
結果として、本作は“ポップ・スターRobbie Williams”の完全復活を告げるアルバムとなった。
全曲レビュー
1. Be a Boy
「“君はもう若くない”って言われた。でも信じている――僕はまだ行ける」と歌う、アルバムのマニフェスト的ナンバー。
シンセが煌めく中で、Robbieのポジティブなエネルギーが炸裂する。
2. Gospel
賛美歌的なタイトルとは裏腹に、モダンで力強いポップ・ロック。
内なる救済と外向的な自信が交差し、ライブ映えするサウンドが印象的。
3. Candy
キャッチーなホーンと軽快なビートが耳に残る、Robbie節全開のポップ・チューン。
共作者はGary Barlow。自己中で魅力的な女性をテーマにしたユーモア溢れるリリックと、中毒性の高いメロディが光る。
UKチャート1位獲得曲。
4. Different
感傷的なピアノ・バラードで、「君のためなら僕は変わる」と歌う真摯なラブソング。
Robbieのバラード力が発揮された一曲で、エモーショナルなストリングスが包み込む。
5. Shit on the Radio
タイトルからして挑発的だが、メディアに対する皮肉と自己言及が交差する楽曲。
「ラジオで流れているのはゴミばかり、でも俺もそのひとつ」という自虐的笑いとアイロニーが絶妙。
6. All That I Want
ミニマルなアレンジで、囁くように歌われるスロウ・ナンバー。
「欲しいのは、君のただの存在だけ」――Robbieの繊細さがにじむ内省的な一曲。
7. Hunting for You
ストリングスとビートが融合した壮大なミディアム・バラード。
「人生を彷徨う旅路の中で、君を探している」という普遍的なラブ・ソング。
8. Into the Silence
静寂に包まれた心の空間を描くシンフォニック・ポップ。
Trevor Horn的な重厚さを感じさせる壮麗なアレンジと、希望を感じさせるリフレインが心を打つ。
9. Hey Wow Yeah Yeah
本作中もっともテンションの高いアッパー・トラック。
スタジアム・ロック的ビートと“ヘイ・ワウ!”の反復がアドレナリンを誘う。アンセミックでパワフルなライブ仕様曲。
10. Not Like the Others
“普通じゃない自分”を肯定する、アウトサイダーのためのポップ・アンセム。
ややエレクトロ調のグルーヴと自己肯定的リリックが特徴。
11. Losers (feat. Lissie)
アコースティックな質感のデュエット・ソング。
“負け犬だって美しい”というメッセージが、温かくも切ないハーモニーで歌われる。
アルバムのエンディングにふさわしい余韻を残す。
総評
『Take the Crown』は、Robbie Williamsが**“過去の不安や葛藤に一度ピリオドを打ち、ポップの頂点に再び立つことを選んだ”勝者のアルバムである。
制作陣も演奏も全てが“ヒットを生む”ことを明確に狙った構成だが、その中でもRobbieの魅力=ユーモア、自嘲、そしてエモーション**は損なわれていない。
“自分らしさ”を諦めずに“ポップ・アイコン”としての責務を果たす――それはある意味、成熟した表現者としての矜持とも言える。
このアルバムにおけるRobbieは、もう過去の亡霊には囚われていない。
彼は王冠を被ることを恐れず、その重さすら**「エンターテインメント」に昇華**しているのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- 『The Truth About Love』 / P!nk(2012)
同時代のチャートポップと感情のバランス感覚が類似。 - 『Progress』 / Take That(2010)
Robbieの一時再加入作で、本作の前章とも言えるダイナミックな作品。 - 『The 20/20 Experience』 / Justin Timberlake(2013)
ポップ界における“王者的カムバック”という意味で共鳴。 - 『A Million Lights』 / Cheryl(2012)
英国ポップシーンにおける同時代的な音楽的文脈。 - 『Battle Born』 / The Killers(2012)
スタジアム感、エモーション、英雄譚的構成で精神的に接点が多い。
ビジュアルとアートワーク
ゴールドの背景に彫像のような横顔で写るRobbie――そのアートワークは、まるで“王の帰還”を彫刻として記録したかのような構図である。
タイトルと連動し、明確に“王冠”=王者の復活を演出するビジュアルであり、そこには過去の不安も迷いも脱ぎ捨てた、自己信頼の視線がある。
『Take the Crown』は、Robbie Williamsの“再出発”ではなく、“王としての再登場”。
その姿は、あくまで堂々としていて、何よりも楽しそうなのだ。
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