アルバムレビュー：Studio 1 by All Saints

発売日: 2006年11月13日
ジャンル: ポップ、R&B、ダンス・ポップ、エレクトロポップ

概要

『Studio 1』は、All Saintsが2006年に再結成後に発表した3枚目のスタジオ・アルバムであり、約6年ぶりの復帰作として大きな注目を集めた作品である。

2000年の『Saints & Sinners』を最後に解散していた彼女たちが、再びスタジオに集い、21世紀的な音楽の感性を吸収した形で提示したこのアルバムには、“再出発”と“過去との対話”が同居している。

収録曲には、シングル「Rock Steady」などのクラブ・チューンがありつつも、90年代から継承されるハーモニーや内省的なリリックが多く、グループとしてのアイデンティティは変わらず健在である。

ただし、商業的には前作ほどの成功を収めることはできず、チャートでの伸び悩みやレーベルとの契約問題もあり、リリース当時はやや過小評価された印象もある。

しかしながら、『Studio 1』は、成熟した女性たちが自身の声と経験で綴る“現代的R&Bポップ”として、今なお静かに再評価されつつあるアルバムでもある。

1. Rock Steady
アルバムを象徴する先行シングル。ダンスホール的リズムに乗せて、自信と軽快さを表現。再始動にふさわしいエネルギーが感じられる。

2. Chick Fit
軽快でグルーヴィーなR&Bナンバー。フェミニズム的な視点を盛り込んだリリックが、クールなビートと好相性を見せる。

3. On and On
恋愛のループ感をテーマにしたミディアム・テンポの楽曲。シンプルな構成ながら、ボーカルの繊細なレイヤーが映える。

4. Scar
失恋の痛みをストレートに歌い上げるバラード。ストリングスとピアノのアレンジが情感を増幅する、アルバムの中核的存在。

5. Not Eazy
感情のもつれと、それを超えようとする意志を描いたミディアム・トラック。グループの成熟した表現力が滲む。

6. Hell No
社会的メッセージ性を含んだアップビートなナンバー。反骨的なエネルギーがサウンドにも表れている。

7. One Me and U
最も90年代のAll Saintsらしいナンバー。ネオソウル的なコード進行と中庸なリズムが、ノスタルジックかつ新鮮。

8. Headlock
トリップホップ的要素を継承したアブストラクトな曲調。感情が閉じ込められたような世界観が魅力的。

9. Too Nasty
エレクトロ・ファンク的なグルーヴと、攻撃的なリリックが際立つ。従来の“クール”なイメージを更新する一曲。

10. In It to Win It
リズム中心の構成で、ダンスフロアを意識したアレンジ。挑戦的な歌詞が、グループの姿勢を象徴する。

11. Flashback
タイトル通り、過去への回帰を意識した構成。メロウで夢見心地なサウンドは、初期のファンにも響くはず。

12. Fundamental
アルバムの締めくくりにふさわしいメッセージソング。自己認識と成長、再出発をテーマにした感動的な余韻を残す。

『Studio 1』は、All Saintsの“復帰作”であり、“再定義作”でもある。

本作には、彼女たちが1990年代から培ってきた音楽性—ハーモニー、R&B、トリップホップ的センス—がベースとして息づいているが、それを2000年代的なエレクトロやヒップホップ、ダンスホールといった要素と巧みに融合してみせた。

特に注目すべきは、メンバーそれぞれの声がより“パーソナル”に響くようになったことである。年齢や経験を重ねたことによって生まれた深みやリアルさが、楽曲の細部から感じられるのだ。

ただし、その変化は一部のリスナーにとって“地味”に感じられたかもしれない。ポップ市場のトレンドからはやや距離を置いたサウンドだったため、当時のチャートアピールには限界があった。

しかし今あらためて聴くと、『Studio 1』はAll Saintsが“女性グループ”という枠組みを超えて、ひとつの成熟した音楽ユニットへと到達したことを物語る作品である。

このアルバム以降、All Saintsは再び沈黙に入るが、2016年に『Red Flag』で再び復活を果たす。

『Studio 1』は、グループにとって“復帰の第一章”として、やや控えめではあったが確実に重要な一歩であり、その後の成熟したサウンドへとつながる橋渡し的作品であった。

再評価されるべき、“静かなるフェーズ2の始まり”を刻んだ記録である。