1. 歌詞の概要
「Stray Cat Strut」は、Stray Catsが1981年にリリースした楽曲であり、彼らのデビューアルバム『Stray Cats』に収録されたのち、1982年にはアメリカ版アルバム『Built for Speed』にも再収録され、全米ヒットチャートでも上位に食い込むなど、バンドを代表する一曲として知られている。タイトルの「Strut」は「堂々と歩く」「見せびらかすように歩く」といった意味で、「Stray Cat Strut」はまさに“野良猫の自信満々な歩き方”を描写した曲と言える。
歌詞では、自分を“stray cat”(野良猫)にたとえ、街を気ままに歩き、時には女性をナンパし、犬には喧嘩を売り、警察にも一目置かれるというクールで自由なライフスタイルを描いている。社会の枠には収まらないアウトサイダー的な存在であることを誇りに思い、自分のルールで生きることこそが「かっこいい」という価値観が一貫して表現されている。
この曲は、まさにロカビリー・スピリットそのものを体現する歌詞とサウンドを持ち、Stray Catsの美学を最も端的に伝える作品の一つとして今なお愛され続けている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Stray Catsは、1980年代初頭にアメリカからイギリスに渡って活動を始めたロカビリーバンドである。当時のイギリスではパンクムーブメントの余波として、原点回帰的なサウンドが注目されつつあり、Stray Catsの音楽性は新鮮に受け入れられた。とりわけ「Stray Cat Strut」は、彼らの音楽とファッション、そして“アウトサイダーとしての生き様”を象徴するナンバーとして、バンドの世界観を決定づけた楽曲である。
この曲のリリース当時、主流はすでにポップやニューウェーブに移行していたが、Stray Catsは1950年代のロックンロールとジャズ、カントリーなどをルーツとしたロカビリーの精神を、当時の若者文化にマッチさせる形で蘇らせた。フロントマンのブライアン・セッツァーによるジャジーでメロディアスなギターワークと、粘りのあるウォーキングベース、そしてスウィング感のあるドラムのコンビネーションは、まさに新旧融合の成功例であり、音楽ファンだけでなくファッション界からも注目された。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Stray Cat Strut」の印象的な一節を抜粋し、日本語訳とともに紹介する。
引用元:Genius Lyrics
Black and orange stray cat sittin’ on a fence
黒とオレンジの野良猫がフェンスに座ってる
Ain’t got enough dough to pay the rent
家賃を払う金はないけど
I’m flat broke but I don’t care
文無しでも気にしない
I strut right by with my tail in the air
尻尾をピンと立てて、堂々と歩いてく
I’m a cat, I’m a real gone cat
俺は猫さ、イカした野良猫さ
I’m a feelin’ Casanova, hey man, that’s that
気分はカサノヴァ、な?これが俺なんだよ
Get a shoe thrown at me from a mean old man
意地悪な年寄りに靴を投げられたって
Get my dinner from a garbage can
ゴミ箱から晩飯を見つけるだけさ
4. 歌詞の考察
この楽曲の歌詞は、自己肯定感にあふれた“アウトサイダー”の宣言とも言える。社会的には落ちぶれていても、自分の生き方に誇りを持ち、誰にも媚びず、どんな環境でも楽しくやっている。これは単に不良っぽさを表現しているのではなく、「自由であること」の魅力を音楽的に具現化したものと捉えることができる。
「I’m flat broke but I don’t care」という一節は、現代社会の物質主義や安定志向とは真逆の価値観を象徴している。金がなくても、自由に街を歩き回り、恋をして、生きていく。それが“stray cat”の流儀だというわけだ。この姿勢は、パンクの精神とも通じる部分がありながら、Stray Cats特有のスウィングする軽やかさとユーモアによって、より親しみやすく描かれている。
また、“get my dinner from a garbage can”というラインには、ストリートでの生活のリアリティを滲ませながらも、それを悲壮感ではなく誇らしげに語るところに、この曲の独自性がある。まるで「自由であることはリスクが伴うが、それこそが生きる価値だ」と言わんばかりの潔さが、この歌詞には息づいている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Blue Suede Shoes by Carl Perkins
ロカビリーの草分け的存在による不朽の名曲。個人のスタイルを守ることへのこだわりというテーマが「Stray Cat Strut」と共通する。 - Stray Cat Blues by The Rolling Stones
タイトルにも“Stray Cat”が含まれ、アウトサイダー的な視点から世界を見る姿勢が近い。よりブルージーなサウンドだが、精神性は似ている。 - Race With The Devil by Gene Vincent
怒涛のビートと不良っぽさが同居する名ロカビリーソング。ギターとボーカルのテンションはStray Catsにも大きな影響を与えている。 - Rock This Town by Stray Cats
同バンドの代表曲。よりパーティー感の強い楽曲だが、自由な生き様という根底のテーマは同じ。 - Brand New Cadillac by Vince Taylor(後にThe Clashもカバー)
車と自由のイメージが重なる、スピード感あふれるロックンロール。Stray Catsのルーツ的存在。
6. 「野良猫」というイメージの定着とその影響
「Stray Cat Strut」は、単なるヒットソングにとどまらず、「野良猫=自由人」というイメージを世界中に浸透させるきっかけとなった。野良猫という言葉には通常、社会の外にいる存在というネガティブな響きがあるが、この曲によってそれは“型破りで自由な生き方の象徴”というポジティブな意味合いを持つようになった。
Stray Catsのアイコン的な存在感は、その音楽スタイルだけでなく、ファッションやアティチュードにおいても後の世代に多大な影響を与えている。たとえば2000年代以降のロカビリー・リバイバルやネオ・スウィングのムーブメント、さらにはロックファッションにおけるリーゼント、レザージャケット、スリムパンツといったスタイルにも、その影が色濃く残っている。
とりわけ「Stray Cat Strut」は、音楽ジャンルを超えて「自分の信じるスタイルを貫く」ことの美学を教えてくれる楽曲であり、現在においてもなお、そのメッセージ性は色褪せていない。Stray Catsが提示した“野良猫”の生き方は、多くの人々にとっての理想像として、今もどこかでしなやかに歩き続けているのだ。
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