アルバムレビュー：Strange Brotherhood by New Model Army

発売日: 1998年5月
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アート・ロック、ポストパンク

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Strange Brotherhood』は、New Model Armyが1998年に発表した7作目のスタジオ・アルバムであり、彼らにとって初めて自らのレーベル（Attack Attack Records）からリリースされた作品でもある。
タイトルの「奇妙な兄弟団」は、バンドとそのファンとの特異な絆、すなわち“アウトサイダー同士の連帯”を象徴しており、音楽的にもテーマ的にも極めて私的でありながら普遍的な作品となっている。

前作『The Love of Hopeless Causes』で提示された力強いロック・サウンドは、本作でさらに多様化。
エレクトロニクス、ストリングス、ホーンセクションといった要素が加わることで、壮大なスケール感と繊細な感情表現の両立が実現されている。

また、バンドの創設以来初めて共同プロデューサーとしてマイク・グレッグと共同制作を行い、サウンドの厚みと洗練が格段に向上。
リリック面では、ジャスティン・サリヴァンがより個人的・内省的な視点を強めており、社会や政治から一歩距離を置きながらも、「信念」や「愛」といった根本的なテーマを見つめ直している。

全曲レビュー

1. Wonderful Way to Go

冒頭を飾るのは、前作から引き継がれた形で再録された壮大な楽曲。
死と終末をテーマにしながらも、それが必ずしも絶望ではなく、“尊厳ある終わり方”を想起させる詩的なナンバー。
ストリングスの重ね方が映画音楽のような深みを演出する。

2. Whites of Their Eyes

攻撃的なギターとダークなトーンが特徴の、現代的な戦争と監視社会への警鐘。
「敵の白目が見える距離まで近づけ」という戦場の格言をタイトルに持ち、恐怖と人間性の境界を問う。
重厚なリズムと断片的なリリックが印象的。

3. Aimless Desire

本作の中核を成す一曲で、人間の“衝動”と“目的なき欲望”をテーマとしたメランコリックなトラック。
シンプルなコード進行の中に、ジャスティン・サリヴァンの語るような歌声が感情の深みを与える。
美しさと虚無が混ざり合う、静かなる名曲。

4. Over the Wire

タイトルは監視や拘束を思わせるが、内容はむしろ距離と繋がりをテーマにしている。
“ワイヤーの向こう側”にいる誰かとの心の交信という視点が、インターネット時代の孤独と共鳴する。
穏やかなテンポにのせた繊細な描写が光る。

5. Queen of My Heart

皮肉とユーモアを交えたラブソング。
あえてステレオタイプなタイトルに対し、歌詞は複雑でアイロニカル。
感情の奥底にある不器用さや不安を露呈しつつ、それでも「愛したい」という誠実さが滲む。

6. Gigabyte Wars

デジタル時代への痛烈な風刺。
「ギガバイトの戦争」というタイトルが象徴するように、情報の飽和と人間性の希薄化を描き出す。
エレクトロニックな音使いと硬質なビートが印象的で、バンドの進化を感じさせる楽曲。

7. Killing

短くも鋭い、怒りと悲しみが交差するナンバー。
暴力の構造、報復の連鎖、そしてその中にいる人間の脆さを詩的に掘り下げる。
ギターの緊張感とボーカルの抑制が、逆に強烈な印象を残す。

8. No Pain

タイトルに反して、痛みの存在を強烈に意識させるトラック。
“痛みのない状態”への渇望が、空虚さとして描かれており、麻痺と自覚のあいだを揺れ動くような構成が特徴。
浮遊するギターとミニマルなリズムが、深い内面世界を喚起する。

9. Headlights

旅と喪失、過去との和解をテーマにしたスローナンバー。
“ヘッドライトに照らされた瞬間の真実”という比喩が、人生の転機や記憶の断片を静かに浮かび上がらせる。
映像的な歌詞と緻密なサウンドスケープが相まって、映画の一場面のような余韻を残す。

10. Big Blue

自然、空、宇宙といった大きな存在に触れることで、個のちっぽけさと美しさを感じさせる曲。
「ビッグ・ブルー」は、無限への畏怖と安心を同時に感じさせる象徴である。
アルバム終盤の穏やかなクライマックス。

11. Long Goodbye

別れと終焉のテーマを真正面から捉えた感傷的なトラック。
「長い別れ」の中にある静かな希望と痛みの共存が美しく、ストリングスとピアノの織りなす音像が涙腺を刺激する。
エモーショナルなラストトラックにふさわしい名曲。

総評

『Strange Brotherhood』は、New Model Armyが音楽的・思想的にひとつの成熟を迎えたことを示す、極めて内省的かつ洗練された作品である。
本作では、政治や社会の大きな構造を批判する声は影をひそめ、代わりに「痛み」「孤独」「再生」「愛」など、より私的で普遍的な主題が全面に出てくる。

サウンド面でも、これまでのギター主導のロックから一歩進み、ストリングスやホーン、電子音などを大胆に導入することで、音の広がりと奥行きを手に入れた。
それはバンドの“奇妙な兄弟団”という名のとおり、どこにも属せない人々が、孤独と痛みを共有しながらつながっていくための音楽だった。

このアルバムは、New Model Armyの“静かな野心”と“深い人間理解”が交差する、聴くたびに新たな発見がある作品である。
ポリティカル・ロックのその先へと踏み出した彼らの姿勢が、最も美しく記録された一枚なのだ。