
発売日: 2013年9月17日(公式版)
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、グランジ・リバイバル
概要
『Stop the Bleeding』は、Spongeが2013年にリリースした7枚目のスタジオ・アルバムであり、バンドの20年以上にわたるキャリアを総括しつつ、現代におけるロックの在り方を再定義するような重厚な作品である。
このアルバムは、2013年のVans Warped Tourで先行販売され、その後正式にリリースされた。
前作『Galore Galore』から6年ぶりのアルバムとなるが、単なる復帰作ではなく、グランジ、ガレージ、パワーポップ、ポスト・パンクといったSpongeの持ち味が緻密にブレンドされた、円熟と爆発が同居する仕上がりとなっている。
タイトル「Stop the Bleeding(出血を止めろ)」には、社会や個人の崩壊、破滅的な状況からの“応急処置”的な意味合いと、それでも立ち上がろうとする意志が込められている。
そしてその音楽は、傷だらけの美しさと、未だ燻る激情をもって、リスナーに突き刺さる。
全曲レビュー
1. Star
力強くアルバムを開くリードトラック。
ハードなギターリフと高揚感あるメロディは、Spongeの“変わらぬ核”を印象づける。
2. Destroy the Boy
攻撃性とユーモアを兼ね備えたパンク色の強いナンバー。
「少年を壊せ」というフレーズには、成長・自己崩壊・通過儀礼といったテーマが複雑に絡む。
3. Dare to Breathe
メロディアスなバラード調のトラック。
“呼吸することすら勇気が要る”現代における、不安と再生のメタファーとして機能する。
4. Fade From View
グランジ・リバイバル的なサウンドが前面に出た楽曲。
不在感や存在の希薄さを描いたリリックが、重いリフと共に響く。
5. Dance Floor
ダンサブルなビートとシニカルな歌詞の対比が光るパワーポップ風ナンバー。
シンプルながら、耳に残るフックが巧妙。
6. Time in a Bottle
Jim Croceの名曲を大胆にカバー。
原曲の叙情性に、Spongeらしい荒さとダークなトーンを加え、全く別の解釈に仕上げている。
7. What Were You Doing Outside
都会的で少し冷たい質感を持つ一曲。
サウンドにポストパンク的なクールさがあり、アルバム中でも異色の存在感を放つ。
8. Life’s Bitter Pills
アルバム中盤のハイライト。
人生の苦味を“薬”として受け入れる諦念と、それでも生きるという決意が歌われる。
9. Star (Reprise)
冒頭曲の再構成。
より内省的でスロウに仕立て直され、アルバムに循環構造的な感覚を与える。
10. Before the End
終末感と郷愁を同時に漂わせる、バンドの成熟を感じさせる楽曲。
過去の痛みと、それでも未来を見つめようとするラスト直前の決意表明。
11. Stop the Bleeding
タイトル曲。
強烈なビートと怒りに満ちたボーカルが、現実の“出血”に対抗する手段としての音楽を鳴らす。
アルバムの核であり、Spongeの現在地を最も強く示す楽曲。
総評
『Stop the Bleeding』は、単なる“懐かしの90年代バンドの復帰作”ではなく、今なお変化し続けるSpongeの“生存宣言”である。
デトロイト発のグランジ/オルタナティヴ・ロックバンドとして、浮き沈みを経験した彼らは、この作品で“過去を再現する”のではなく、“過去の燃え殻から再構築する”という強い意思を見せている。
その結果として、音楽はよりヘヴィで、よりメロディアスに、より深い人間的重みを帯びることとなった。
ヴォーカルのVinnie Dombroskiはここでも中心的存在であり、かつての若さに任せたシャウトではなく、成熟した語り手として、人生の痛みや矛盾をじっくりと描き出す。
アルバム全体は、一つひとつの曲が“傷”でありながら、それらが集まってひとつの“癒えない物語”を織りなしている。
それはまさに、「止血しながら歌う」ような、ロックの本質に限りなく近い表現なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Filter / The Trouble with Angels
90年代出身バンドの再構築的作品。内省と攻撃性のバランスが近い。 - Local H / Hallelujah! I’m a Bum
社会風刺と都市感覚が共鳴する、エッジの効いたロック。 - Helmet / Monochrome
ポストグランジの中核としての強度と暗さ。Spongeの後期サウンドと共通点あり。 - Silverchair / Young Modern
グランジから進化したバンドによる、“変化と再生”を描いた意欲作。 - Smashing Pumpkins / Oceania
ベテランバンドによるメランコリックでスケール感のある復帰作。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Stop the Bleeding』は、Spongeが自身のレーベルThree One Three Recordsを通じてリリースした作品であり、制作から流通までを完全にセルフ・マネジメントする形で進行された。
2013年のWarped Tourに合わせて先行販売されたこのアルバムは、バンドの現場主義的な精神と、ファンとの直接的な関係性を重視するスタイルの象徴でもある。
プロダクションにはローカルなスタジオを用い、録音もシンプルでライヴ感のあるセッティングで行われた。
サウンドは意図的に荒さを残し、“生きている”音を封じ込めることを最優先している。
Spongeにとって本作は、単なるリリースではなく、“生き残るための作品”だった。
その誠実さこそが、本作の最大の魅力である。
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