Stealin’ by Uriah Heep(1973)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Stealin’(スティーリン)」は、Uriah Heep(ユーライア・ヒープ)が1973年に発表したアルバム『Sweet Freedom』に収録された楽曲であり、彼らの代表曲の一つとして広く知られている。リフ主体のシンプルな構成ながら、罪悪感、逃走、孤独、そして贖罪という普遍的なテーマを内包したロック・バラッドであり、哲学的な深みと物語性を兼ね備えた作品である。

歌詞の主人公は、タイトルの通り「盗みを働いて逃げ続ける男」だが、それは単なる犯罪者の歌ではない。この“盗む”という行為は、文字通りの罪以上に、人生や愛、自分自身の時間すら奪われていくような、存在の本質的な虚無感を象徴しているようにも見える。彼は何かから逃れようとしているが、結局逃げ切れず、どこへ行っても自分自身の影からは逃れられない。

「Stealin’」は、行動と感情、過去と現在、希望と諦めの狭間で揺れ動く**“罪深い人間の魂”を描いたブルース的叙情詩**なのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

1973年の『Sweet Freedom』は、Uriah Heepが大衆的な成功を視野に入れながらも、内省的かつ洗練された表現へとシフトしつつあった時期に制作されたアルバムである。「Stealin’」はその中でもひときわ異彩を放っており、ラジオフレンドリーでありながら深い精神性を湛えたバランス感覚が秀逸だ。

作詞はケン・ヘンズレーによるもので、彼の内省的かつ寓話的なリリックの特徴が色濃く出ている。彼自身、この曲について「自分の中にある逃れられない罪と、赦されたいという人間的欲求を描いた」と語っている。ギターのミック・ボックスによるミッドテンポのリフ、シンプルながら存在感のあるドラム、そしてデイヴィッド・バイロンのエモーショナルなヴォーカルが、それぞれの感情をしっかりと支えている。

この曲は特に北米市場で人気が高く、シングルとしてアメリカでもヒットし、ヒープのライブ・セットの中核としても長年親しまれてきた。聴衆とのコール&レスポンスを誘発するような反復的な構成は、ライブでこそ真価を発揮する。

3. 歌詞の抜粋と和訳

Stealin’, when I should have been buyin’
買うべきだったのに、俺は盗んでいた

All the time, I was crying
ずっと、心の中では泣いていたんだ

Stealin’, when I should have been dyin’
死ぬべきだったのに、俺はまた盗んでいた

Stealin’, now I wonder why
今になって、なぜそんなことをしていたのかと自問している

I’m runnin’ away from a dream
夢から逃げ出している俺

Runnin’ away from me
自分自身からも、逃げているんだ

(参照元:Lyrics.com – Stealin’)

このサビの繰り返しには、過去の過ちとそれを認めることへの苦悩、そして逃げながらも赦しを渇望する心が剥き出しにされている。

4. 歌詞の考察

「Stealin’」の歌詞は、表面上は逃亡する男の物語のように読める。しかしその実態は、自己と向き合うことから逃げる全人類的な心の闘争とも言える。盗む行為そのものは結果にすぎず、問題はむしろ、なぜ自分がそうせざるを得なかったのか、そしてなぜ繰り返してしまうのかという根本的な問いにある。

また、“cryin’”“dyin’”“buyin’”といった韻の繰り返しが人生の選択肢のように並べられ、それぞれの道を外れ続ける主人公の無軌道さと哀れさを強調している。そうして辿り着いたのは、誰もいない場所で「なぜ?」と問う孤独な自問の場なのだ。

しかし、この曲には不思議な“救い”の気配もある。それは、彼が「なぜ?」と問うことができたことにある。自分の過ちを客観視できた瞬間、そこにはもはや破滅だけでなく、再生の可能性も存在している。だからこの曲は、ただの告白や懺悔ではなく、浄化のプロセスとしてのロックでもあるのだ。

音楽的にも、ミッドテンポの揺れを持ったリズムにより、歌詞の“葛藤”が反映されており、感情の起伏を緩やかに、しかし確実に伝えてくる。ギターもキーボードも過剰に鳴らされることはなく、バイロンの声が語る“罪の重さ”を際立たせるために、すべてが内向的に構築されている

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Simple Man by Lynyrd Skynyrd
     過ちと贖罪、そして人生の意味を静かに問いかける南部のバラード。
  • Riders on the Storm by The Doors
     嵐の中を彷徨う孤独な男の旅。心理的深淵を音にした名作。
  • The Needle and the Damage Done by Neil Young
     破滅に向かう人間の繊細な記録。静かな衝撃力を持つ短編。
  • Heaven and Hell by Black Sabbath
     善悪、希望と絶望の間で揺れる人間の矛盾を描いたダーク・メタル叙情詩。
  • Out in the Fields by Gary Moore & Phil Lynott
     戦争と内なる分断をテーマにした感情の二重性が光るハードロックの名曲。

6. “罪と再生を歌うロックの祈り”

「Stealin’」は、Uriah Heepのカタログの中でも特に人間の弱さと向き合った作品であり、同時に**“ロックとは懺悔と再生のための儀式である”**という、ある種の真理を体現した一曲でもある。

この曲を聴くとき、リスナーは“逃げる誰か”ではなく、“逃げたい自分”と対峙することになる。失敗し、裏切り、過ちを繰り返しながら、それでもなお赦しを求め、再び歩き出そうとする意志。そのすべてが「Stealin’」には詰まっている。

ロックは怒りや激情の表現手段であるだけでなく、ときにこうした魂の弱音と向き合うための静かな祈りにもなり得る。
「Stealin’」は、そのことを静かに、だが確実に証明している。

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