発売日: 2003年6月5日
ジャンル: ヘヴィメタル、オルタナティブメタル
『St. Anger』は、Metallicaの8作目のスタジオアルバムであり、バンドの歴史の中でも特異な位置づけにある作品である。前作『Reload』から6年ぶりにリリースされたこのアルバムは、バンドが様々な内外の困難を経て制作されたもので、その結果、Metallicaの新たな一面が顕著に表れている。
制作当時、ジェイソン・ニューステッド(ベース)がバンドを脱退し、ジェームズ・ヘットフィールド(ボーカル&ギター)がリハビリのため一時活動を休止するなど、Metallicaは過去最大の危機に直面していた。そうした中で、プロデューサーのボブ・ロックが暫定的にベースを担当し、バンドは自己再発見をテーマにこのアルバムを制作した。
『St. Anger』のサウンドは、これまでの作品とは大きく異なる。ギターソロを排除し、サウンドは意図的に粗削りに仕上げられており、スネアドラムの特徴的な響き(”スナップ感のある金属音”)がアルバム全体を特徴付けている。また、歌詞は内面の葛藤や怒りをテーマにし、ヘットフィールドの個人的な感情がストレートに表現されている。賛否両論を呼びながらも、このアルバムはMetallicaの挑戦と再生の物語を象徴している。
1. Frantic
アルバムの幕開けを飾るエネルギッシュなトラックで、「My lifestyle determines my deathstyle」というフレーズが象徴的。怒りと混乱を反映した歌詞と、テンポの速い演奏が印象的だ。
2. St. Anger
タイトル曲であり、アルバムのテーマを象徴する楽曲。抑えきれない怒りがストレートに表現され、荒々しい演奏がその感情を際立たせている。シンプルでキャッチーなリフと繰り返されるコーラスが耳に残る。
3. Some Kind of Monster
8分を超える大作で、内面的な葛藤や自己破壊を描いている。リフの反復が楽曲に不穏な雰囲気を与え、スローで重厚な展開がアルバムの中でも異彩を放つ。
4. Dirty Window
自己批判と不安をテーマにした楽曲。リズムセクションが楽曲を牽引し、粗削りな演奏とヘットフィールドの激しいボーカルが印象的だ。
5. Invisible Kid
歌詞には、見過ごされがちな孤独な存在をテーマにした内容が込められている。長尺でありながらも単調なリフが続き、反復的な構造が楽曲全体に独特のテンションを生んでいる。
6. My World
個人のアイデンティティや自己主張をテーマにした楽曲。攻撃的なリフと挑発的な歌詞が、アルバム全体の流れを加速させる。
7. Shoot Me Again
内面的な怒りや復讐心をテーマにした楽曲で、感情的な歌詞と不安定な構造が特徴。タイトル通り、痛みを受け入れつつも立ち向かおうとする姿勢が表れている。
8. Sweet Amber
アルバムの中でもキャッチーな楽曲の一つで、欺瞞や欲望をテーマにした内容が歌詞に込められている。リズムの変化が楽曲に躍動感を与えている。
9. The Unnamed Feeling
アルバムの中で最もエモーショナルなトラックで、不安や恐怖をテーマにしている。歌詞には繊細な感情が込められ、楽曲構成もドラマチックに仕上がっている。
10. Purify
荒々しいリフと直情的な歌詞が特徴的な楽曲。自己浄化と再生をテーマにした内容がアルバム全体のテーマと一致している。
11. All Within My Hands
アルバムを締めくくる長尺の楽曲で、支配欲と自己破壊を描いている。ラストの叫びが非常に印象的で、アルバム全体を象徴するかのような激しい感情が表現されている。
アルバム総評
『St. Anger』は、Metallicaが試みた最も実験的で挑戦的な作品の一つである。従来のファンが期待するギターソロや洗練されたプロダクションを排除し、感情の荒波をそのまま音楽に変えたこのアルバムは、バンドの再生と成長を象徴している。評価は分かれるものの、このアルバムの生々しいエネルギーと意欲的な試みは、Metallicaの多面的な魅力を示している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Korn by Korn
ニュー・メタルの草分け的作品で、感情的な歌詞とヘヴィなサウンドが『St. Anger』と共鳴する。
Lateralus by Tool
複雑な構成と内省的なテーマが特徴で、『St. Anger』の実験精神と共通点がある。
Undertow by Tool
ヘヴィで感情的な楽曲が揃ったアルバムで、『St. Anger』の暗いテーマに共感できる。
Issues by Korn
感情の不安定さを描いたアルバムで、『St. Anger』の激しい内面的な表現を好むリスナーにおすすめ。
The Downward Spiral by Nine Inch Nails
破壊的なテーマと実験的なサウンドが特徴で、『St. Anger』の荒々しさとリンクする。
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