アルバムレビュー:Songs from the Bardo by Laurie Anderson, Tenzin Choegyal & Jesse Paris Smith

※本記事は生成AIを活用して作成されています。


発売日: 2021年4月23日

ジャンル: アンビエント、スポークン・ワード、実験音楽、ドローン、チベット仏教音楽

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概要

Songs from the Bardoは、ローリー・アンダーソン、テンジン・チョーギャル、ジェシー・パリス・スミスの連名で発表された作品であり、単なるコラボレーション・アルバムという枠を大きく超えた、儀式性と音響芸術が結びついたコンセプチュアルな作品である。本作の核にあるのは、チベット死者の書として広く知られる『バルド・トェドル』の思想、すなわち「死と再生のあわい」に関する精神的・詩的世界である。タイトルにある“Bardo”とは、チベット仏教において生と死、あるいは死から次の生へと至る移行の中間状態を指す語であり、本作はその概念を、朗読、声明、ドローン、環境音、ミニマルな旋律、そして瞑想的な持続音によって立体化している。

ローリー・アンダーソンのキャリアにおいて本作は、1980年代のアヴァンポップやマルチメディア作品で示した言語感覚や電子音響への探究が、より深い精神性と追悼の表現へと接続された作品として位置づけられる。彼女はもともと、物語、テクノロジー、パフォーマンス、身体、死生観といったテーマを横断してきたアーティストであり、本作ではその語りの技法が、かつてないほど静かで、内省的で、儀式的な方向へ向かっている。一方でテンジン・チョーギャルは、チベットの伝統声楽やリン(長い金属管楽器)を想起させる持続的な響き、倍音を帯びた発声、祈りとしての音楽性を担い、作品に宗教的な重力を与えている。さらにジェシー・パリス・スミスは、全体のコンセプトの組み上げと、音の余白を活かしたプロダクション面において重要な役割を果たしている。

本作はコロナ禍という世界的な喪失の時代に発表されたこともあり、「死」を恐怖や終末としてではなく、通過、変容、理解のプロセスとして捉え直す芸術作品として強い意味を持った。音楽的にはニューエイジやアンビエントの系譜にも接しているが、ブライアン・イーノ以降の環境音楽的発想よりもさらに儀式性が強く、またスポークン・ワード作品としても、ビート詩やパフォーマンス・ポエトリーとは異なる、導師的・通過儀礼的な性格を持つ。加えて、ギャヴィン・ブライアーズやメレディス・モンク、あるいはデヴィッド・シルヴィアン周辺の瞑想的な音響作品と並べて語りうる側面もあるが、本作の独自性は、宗教的テクストへの接近を単なる引用に終わらせず、音響そのものを“あわいの空間”として構築している点にある。

後続の音楽シーンへの影響という観点では、本作はポップ市場を直接更新した作品ではない。しかし、アンビエント、ヒーリング、スピリチュアル・ジャズ、ドローン、サウンド・アートの交差領域において、「祈り」「追悼」「移行状態」を音楽作品としてどう表現しうるかという実践例として重要である。近年の実験音楽が、単なる抽象性やテクスチャーの追求だけではなく、儀式・共同体・癒やし・死生観と結びついていく流れの中で、本作はきわめて象徴的な位置を占めている。

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全曲レビュー

1. Bardo Begins

冒頭曲であるこのトラックは、アルバム全体の入口として機能する。ここで重要なのは、一般的な意味での「導入曲」ではなく、聴き手を別の心理的空間へと移行させる“閾(しきい)”として設計されている点である。ドローンの持続、低く漂う気配のような音像、そしてローリー・アンダーソンの語り口は、物語を説明するのではなく、すでに何かが始まっている場へ聴き手を招き入れる。旋律は明確な輪郭を持たず、拍節感も希薄であるため、時間の進行が曖昧になる。この曖昧さこそが“バルド”の概念を音として表している。

歌詞的には明快なストーリーよりも、語りの断片と観念の提示が中心であり、「死後の世界」をセンセーショナルに描くのではなく、知覚の変化そのものに焦点が当てられている。ここでのアンダーソンの声は感情を煽るものではなく、むしろ案内人のように淡々としている。その冷静さが、かえって死や喪失を過剰なドラマから切り離し、精神的な観照へと向かわせる。

2. The Formless Depths

タイトルどおり、この曲は“形なき深み”を音に置き換えたようなトラックである。テンジン・チョーギャルの発声が空間に広がり、音程というよりも倍音のうねりとして知覚される場面が印象的だ。西洋的な和声進行を期待すると肩透かしを受けるが、本作ではその“不定形さ”が重要である。聴き手は楽曲を追うというより、音の層に包まれ、その中で知覚が変化していくのを感じることになる。

この曲のテーマは、自己の境界がほどけていく感覚にある。死を「消滅」としてではなく、「形が失われる移行」として捉える思想が、音響面でも徹底されている。ローリーの朗読が言葉の意味を提示する一方、テンジンの声は意味以前の身体感覚へ訴えかける。この二重構造によって、本作は知的理解と感覚的没入の両方を成立させている。

3. At the End of Time

この曲では、時間という概念そのものが主題化される。通常のポップソングにおいて、時間は拍や展開の中で前進していくものだが、本作では時間が円環的、あるいは停止したものとして扱われる。持続する音のなかで微細な変化が起こり、聴き手は進行ではなく滞留を経験する。これはアンビエントの語法に近いが、ここでは単なる背景音楽ではなく、時間意識そのものを揺さぶる装置として機能している。

歌詞や語りが示唆するのは、死後における直線的な時間の崩壊である。「終わり」が必ずしも断絶を意味しないこと、むしろ時間から解放される感覚こそが“終わりの先”なのだという思想が読み取れる。音数は少ないが、静寂の扱いが巧みで、音が鳴っていない瞬間ですら意味を持つ構成になっている。

4. Praise

アルバムの中でも比較的、祈りとしての性格が前面に出たトラックである。タイトルの“Praise”は賛美を意味するが、この曲は宗教音楽的な高揚を直接的に再現するのではなく、賛美という行為の内面的な振動を描いている。テンジン・チョーギャルの声が聖歌的な役割を果たし、その上をアンダーソンの声が地上的な視点から横切っていく構図が興味深い。

この曲の重要な点は、賛美が単なる救済への確信ではなく、不確実性の中でなお声を発する行為として表現されていることだ。死と喪失の只中でなお祈るという態度が、静かな切実さを伴って立ち上がる。宗教的背景を共有しないリスナーにとっても、この曲は「言葉では収まりきらない経験に対して、音がどう応答できるか」という普遍的な問いとして聴くことができる。

5. The Looking Glass

このトラックでは“鏡”のイメージが中心にあり、自己認識や死後の自己との対面がテーマとして浮かび上がる。鏡は単に反射の装置ではなく、こちら側とあちら側、生者と死者、現実と幻視を隔てる膜として機能する。サウンドは前半よりもやや輪郭があり、細かな電子音や持続音が、像の揺らぎを思わせる。

歌詞的には、自己を見ることと自己を失うことが矛盾せず同時に起こる、という逆説が示唆される。これはバルドの思想において重要な、恐れや幻影が自らの心の投影であるという認識とも重なる。ローリー・アンダーソンはこうした抽象的な主題を、説明ではなく語りのトーンと間によって伝える。聴き手は“理解する”というより、“気づかされる”感覚に近い受容を促される。

6. The Great Liberation Through Hearing

タイトルは『バルド・トェドル』の英語的な理解とも響き合うものであり、本作の思想的中心に最も近いトラックの一つといえる。聴くことによって解放へ至る、という考えは、まさにこのアルバム全体の方法論そのものである。音楽を娯楽や感情表現としてだけでなく、通過儀礼の媒介として用いる本作において、この曲は理論と実践が一致する瞬間を示している。

サウンド面では、朗読、詠唱、ドローンが最も均衡よく配置されている。テンジンの声は宗教的実在感を担い、アンダーソンの声は現代的な思索の視点を持ち込み、ジェシー・パリス・スミスの構成はその両者を過不足なく結びつける。歌詞のテーマは、恐怖に巻き込まれず、音と言葉を手がかりに自意識を見つめ直すことにある。聴覚が救済の回路になるという発想は、音楽メディアとしてのアルバムという形式そのものへの深い自己言及でもある。

7. Tell Me About Death

本作の中では比較的ストレートなタイトルを持つこの曲は、死をめぐる沈黙そのものに切り込む。多くの文化圏で死はタブー視され、比喩や婉曲表現で包まれがちだが、この曲は「死について語ってほしい」という直接的な要求を掲げる。しかし、そこで提示されるのは百科事典的な答えではなく、死を語ることの難しさと、それでも言葉を求める人間の切実さである。

ローリー・アンダーソンの語りはここで特に際立つ。彼女の声には、知識人のような明晰さと、喪失を経験した者の温度が同居している。音楽的には極端な盛り上がりを避け、むしろ言葉の重みを支えるための最小限の構成が選ばれている。死をテーマにしながら悲壮感へ傾きすぎないのは、本作が死を“説明不能な終わり”ではなく、“意識の変容を通じて向き合う対象”として扱っているからである。

8. The Lotus Born

終盤に置かれたこのトラックは、バルドの闇や曖昧さを経た先にある変容の気配を表している。蓮は仏教的文脈において、泥中から清らかな花を咲かせる象徴としてよく用いられるが、この曲もまた、苦難や混沌を否定するのではなく、それを通過した先に立ち現れる明澄さを示している。音色は依然としてミニマルであるものの、前半の不穏さに比べれば、わずかに開けた視界が感じられる。

歌詞のテーマは再生や覚醒に近いが、そこに安易なハッピーエンドはない。本作が優れているのは、救済を劇的な解決として描かず、認識の変化として静かに示す点にある。この曲でもテンジン・チョーギャルの声が重要で、意味を超えた祈りの響きが、言葉では届かない領域を担っている。

9. Awakening

アルバム終結へ向かう流れの中で、“目覚め”を主題にしたこの曲はきわめて象徴的である。ただし、ここでの目覚めは日常への帰還ではなく、生と死のあわいを通過した者が新たな視座を得ることを意味している。音響的には前曲の流れを受け継ぎながら、やや空間が明るく感じられる構成で、微細な音の配置が意識の輪郭を徐々に取り戻すような印象を与える。

歌詞的には、死の体験を終着点ではなく学びとして捉える視点がうかがえる。これは宗教的教義の押しつけというより、死を想像することが今ここでの生の質を変えるという、哲学的な提案として受け取るべきだろう。ローリー・アンダーソンが長年追究してきた「語りによって知覚を変える」手法が、もっとも静かで深い形で結実している。

10. Epilogue / Returning Light

※終曲に相当する役割を持つセクションとして聴ける部分

アルバムの最後は、明確な結論や劇的なカタルシスを与えるのではなく、むしろ“戻ること”と“変わってしまっていること”を同時に感じさせる余韻によって閉じられる。ここで重要なのは、バルドが非日常の神秘体験として終わるのではなく、再び生の側へと反照してくる点である。聴き手はアルバムを聴き終えたあと、以前と同じ現実に戻るが、その現実の聴こえ方がわずかに変化している。この構造自体が、本作の最も洗練された表現といえる。

終曲的なこの部分では、言葉の比重が少し下がり、音そのものの余韻が支配的になる。語られた内容を整理するのではなく、聴取体験全体を沈殿させるような終わり方であり、それゆえに鑑賞後の沈黙までが作品の一部となる。アルバムという形式を超え、インスタレーションや儀礼空間に近い体験を残す締めくくりである。

総評

Songs from the Bardoは、ローリー・アンダーソンの言語芸術、テンジン・チョーギャルの祈りの声、ジェシー・パリス・スミスの構成感覚が高度に結びついた、現代の実験音楽の中でもきわめて特異な作品である。その魅力は、音楽としての親しみやすさやメロディの強さではなく、音が精神的空間を形成し、聴くという行為そのものを変容のプロセスへ変えていく点にある。

本作の全体的なテーマは、死、移行、知覚の変容、祈り、そして再生である。ただしそれらは、ドラマティックな物語として描かれるのではなく、持続音、余白、朗読、倍音、静寂といった要素の中に分散し、聴き手自身がその意味を体験的に組み立てるよう設計されている。そのため、一般的なソングライティングの快感を求めるリスナーには難解に感じられる可能性がある一方、アンビエント、スポークン・ワード、宗教音楽、ドローン、サウンド・アートに関心を持つリスナーにとっては、非常に深い体験をもたらす。

また本作は、死や喪失をセンチメンタルに消費することなく、それでも冷たく抽象化しすぎることもない。その絶妙な距離感が、作品に独特の品格を与えている。ローリー・アンダーソンのキャリアを追ってきたリスナーにとっては、彼女の表現がより内省的かつ精神的な領域へ到達した重要作として聴けるだろうし、現代アンビエントや瞑想音楽の文脈から本作に触れるリスナーにとっても、音楽が癒やしを超えて“通過儀礼”になりうることを示す作品として大きな示唆を与える。

おすすめアルバム

1. Laurie Anderson – Big Science

ローリー・アンダーソンの代表作。ミニマルな反復、スポークン・ワード、テクノロジーと身体の関係が鮮明に表れた作品で、本作の語りの原点を知るうえで重要である。

2. Meredith Monk – Dolmen Music

声を意味伝達の手段ではなく、身体と儀礼の音響として扱った前衛 vocal 作品。Songs from the Bardoにおける祈りと発声の身体性に通じる。

3. Brian Eno – Apollo: Atmospheres and Soundtracks

アンビエントの古典として知られる作品。空間性と静けさの構築に優れ、本作の“時間の伸縮した感覚”を別の角度から理解する手がかりになる。

4. Julianna Barwick – The Magic Place

多重録音された声によって、宗教音楽にも似た浮遊感と浄化作用を生み出した作品。歌詞の明確さよりも、声そのものの霊性に焦点を当てる点で共鳴する。

5. David Sylvian & Holger Czukay – Plight & Premonition

ドローン、環境音、抽象的なサウンドスケープを通じて、音の中に精神的空間を生み出した名作。Songs from the Bardoの瞑想的で境界の曖昧な音響世界が好みであれば高い関連性を持つ。

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