1. 歌詞の概要
「Something’s Always Wrong(何かがいつもおかしい)」は、アメリカのフォーク/オルタナティヴ・ロックバンド、Toad the Wet Sprocketが1994年にリリースした4thアルバム『Dulcinea』からのセカンドシングルであり、バンドの代表的なヒット曲のひとつである。
そのタイトルが端的に示しているように、歌詞のテーマは“違和感”や“すれ違い”、あるいは“説明できない不穏さ”である。愛や信頼、現実への問いを静かに、しかし深く掘り下げていく、内省的なバラードとなっている。
表面的には「うまくいっているはずなのに、なぜか心に影が落ちる」という繰り返される状況を歌っているが、その背景には自己欺瞞、相互不理解、期待と現実のギャップといったテーマが静かに流れている。
この曲の感情は爆発しない。むしろ、静かなままに、日常の中に存在する“不安の影”を見つめるような姿勢が印象的である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Something’s Always Wrong」は、アルバム『Dulcinea』の中でも特にリリース直後から高い評価を受けた楽曲であり、Billboard Hot 100チャートでも上位にランクイン。Toad the Wet Sprocketの音楽性が広く受け入れられる契機となった1曲でもある。
アルバムタイトルの『Dulcinea』は、スペイン文学の名作『ドン・キホーテ』に登場する理想の女性「ドゥルシネア」にちなんでおり、「理想と現実」「憧れと幻滅」という二項対立が作品全体を貫いている。
この曲もまた、理想を追い求めようとする気持ちと、それが現実ではどうしてもうまくいかないことへの静かな嘆きがベースにある。
ヴォーカルのグレン・フィリップス(Glen Phillips)は、この曲について「人間関係において、明確な理由はないのに、なぜかいつもうまくいかない気がするという“肌感覚”を描いた」と語っている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Something’s Always Wrong」の印象的なフレーズを英語と日本語訳で紹介する。
“Another day I call and never speak”
「また今日も 電話をかけて何も言えなかった」
“And you would say nothing’s changed at all”
「君は言うだろうね、『何も変わっていないよ』って」
“And I can’t feel much hope for anything”
「僕はもう何に対しても 大きな希望なんて抱けない」
“If I won’t be there to catch you when you fall”
「もし君が倒れても 僕がそこにいられないなら」
“Something’s always wrong”
「何かがいつもおかしいんだ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Toad the Wet Sprocket – Something’s Always Wrong Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この楽曲に通底するのは、「関係が壊れる予感」と「自分自身の無力感」である。
「君は何も変わっていないと言うが、何かがおかしい」という感覚。それは確信ではなく、言葉にできない違和感として漂い続ける。そしてその違和感を言葉にすること自体が、さらに関係を悪化させるのではないかという“恐れ”が、この曲の空気感を支配している。
サビで繰り返される「Something’s always wrong」というフレーズは、決して絶望の叫びではなく、もっと慎ましい――けれど拭えない――違和感の吐露である。
それは誰かを責めるものでもなければ、自分を責めすぎるわけでもない。ただ「この状況の中で、どこにも居場所がない気がする」という静かな疎外感を歌っている。
また、「もし君が倒れても、僕がそこにいられないなら」というラインには、“役に立てないことへの罪悪感”や、“自分の無力さを突きつけられることへの怖れ”がにじむ。恋愛に限らず、友情、家族、あるいは自分自身との関係においても、似たような感情を抱いた経験のある人は多いだろう。
サウンドもまた、この感情の波を忠実に反映している。アコースティックを基調にしながらも、淡々と進行するリズムとメロディが、不安と諦めのあいだをたゆたうような余白を残している。
グレンの声は叫ばない。だからこそ、その抑えたトーンに、心の深い部分が共鳴する。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Name by Goo Goo Dolls
表面上は穏やかながら、過去の傷と自己認識への葛藤が描かれるバラード。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
罪と赦しを静かに、そして痛々しく歌い上げる90年代の名曲。 - Round Here by Counting Crows
都市の孤独と個人の内面を詩的に描き、情緒の濃淡を繊細に表現。 -
Let Her Cry by Hootie & the Blowfish
恋愛における距離感と諦め、そして静かな見守りをテーマにしたバラード。 -
Say Hello 2 Heaven by Temple of the Dog
喪失と祈りを主題にしたスピリチュアルなロックバラード。
6. “すべてが壊れるわけじゃない、けれど完璧でもない”
「Something’s Always Wrong」は、完璧な崩壊の瞬間ではなく、“ほころびがじわじわと広がっていく過程”を描いた楽曲である。
それは映画のクライマックスのような劇的なシーンではなく、日常の中にある小さな違和感、沈黙、すれ違い──つまり“現実に即した心の動き”を捉えた稀有な作品である。
Toad the Wet Sprocketは、この曲を通して、「関係はいつだって不完全だ」という真実を肯定も否定もせずに受け止めている。
そしてその受け止め方こそが、聴く者にとって救いになるのだ。
「Something’s Always Wrong」は、“違和感”とともに生きることを、そっと肯定してくれる、静かな共感の歌なのである。
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