発売日: 2023年3月31日
ジャンル: インディーポップ、ドリームポップ
概要
『Sofa Kings』は、オーストラリア・シドニー出身のインディーポップデュオ、Royel Otisが2023年にリリースした2作目のEPであり、彼らのユニークなポップセンスとドリーミーなサウンドをさらに洗練させた作品である。
Royel Otisは、Royel MaddellとOtis Pavlovicによるユニット。
両者はソフトなヴォーカルとキャッチーなメロディを核に、ギター主体のインディーポップにドリームポップの要素を加えたスタイルを築き上げている。
彼らの音楽は、The StrokesやMac DeMarcoの影響を受けつつも、より柔らかく甘い質感を持っているのが特徴である。
『Sofa Kings』は、そんな彼らのスタイルがより明確になった作品であり、都会の孤独、恋愛のもどかしさ、青春の気だるさといったテーマを、軽やかで心地よいサウンドに乗せて描き出している。
リリース後、オーストラリア国内外のインディーリスナーを中心に大きな注目を集め、Royel Otisという名前を確かなものにした一作となった。
全曲レビュー
1. Kool Aid
イントロから広がるドリーミーなギターリフが印象的なオープニングトラック。
甘さと少しの苦味を含んだメロディが、アルバム全体の空気を象徴している。
2. Heading For The Door
軽快なギターリフと、逃避願望を綴ったリリックが絶妙に絡み合う。
どこかThe Strokes的なカジュアルさも感じさせる一曲である。
3. Oysters In My Pocket
奇妙なタイトルとは裏腹に、恋愛のときめきと不安をポップに描いたナンバー。
Royelの柔らかいボーカルが、物語性をさらに引き立てている。
4. Sofa King
EPのタイトルにもなっている中心曲。
脱力感とロマンティックなセンチメントが共存する、不思議な魅力を持つ一曲である。
ユーモラスなリリックにも注目したい。
5. Motels
ロードムービーのような感傷と、淡いノスタルジアを湛えたナンバー。
柔らかなコーラスとアコースティックギターが、旅情を誘う。
6. Going Kokomo
タイトル通り、ビーチ・ボーイズの「Kokomo」へのオマージュを感じさせる、トロピカルなインディーポップ。
軽やかなサウンドの裏に、わずかな寂しさが滲むバランス感覚が光る。
総評
『Sofa Kings』は、Royel Otisがインディーポップ界において確固たるポジションを築く礎となった作品である。
彼らの音楽は、決して派手ではない。
しかし、控えめなギターリフ、脱力したヴォーカル、少し気だるいリリックが絶妙に組み合わさることで、他のどのバンドとも違う「ほろ苦い幸福感」を生み出している。
本作では、特にリリックにおいて都会的な疎外感や、若さ特有の無力感が描かれているが、サウンド自体はあくまで軽やかであり、リスナーを優しく包み込む。
そのため、『Sofa Kings』は、深刻すぎず、かといって浅くもない、絶妙な距離感で感情に寄り添う作品となっているのだ。
Mac DeMarco的なルーズさ、Dayglow的なカラフルさ、そしてThe Strokes的なタイトさ。
それらを巧みに融合しながら、Royel Otisは「今、この瞬間」を優しく切り取ることに成功している。
本作は、リラックスしたい午後、ぼんやりと過ごしたい夜にぴったり寄り添ってくれるだろう。
おすすめアルバム(5枚)
- Mac DeMarco『Salad Days』
脱力感とメロウなポップセンスが共通している。 - Dayglow『Fuzzybrain』
明るさとセンチメンタルが同居するドリームポップ。 - Beach Fossils『Clash the Truth』
緩やかなインディーロックと内省的なリリックが響き合う。 - The Strokes『Room on Fire』
都会的なクールネスとポップなキャッチーさを兼ね備える。 - Real Estate『Days』
淡く滲むようなノスタルジーとドリーミーなギターサウンド。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Sofa Kings』は、シドニー郊外のスタジオでセルフプロデュースにより制作された。
制作中、彼らは「リラックスして自然に生まれるものを重視した」と語っており、あえて完璧を追い求めず、荒削りな部分をそのまま作品に活かす手法が取られた。
使用されたギターには、ヴィンテージのFender JazzmasterやTelecasterが中心に使われ、独特の丸みを帯びたクリーントーンが本作の柔らかな質感を形作っている。
また、ドラムは生演奏のテイクを極力編集せず収録することで、全体にわずかな「揺らぎ」を残し、人間的な温もりを醸し出すことに成功している。
こうして完成した『Sofa Kings』は、過剰に作り込まれたポップとは一線を画す、素朴でありながらも洗練された空気感を持つ作品となったのである。
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