
発売日: 1994年4月8日
ジャンル: パンク・ロック、メロディック・ハードコア
インディーズ史上最大の成功——The Offspringが世界を制したパンク・アンセム
1994年、The Offspringは3rdアルバム『Smash』をリリースし、一夜にしてパンク・シーンのトップに躍り出た。本作は、インディーズ・レーベル(Epitaph Records)からリリースされたアルバムとして史上最も売れた作品であり、全世界で1100万枚以上を売り上げるという驚異的な記録を樹立した。
当時のロックシーンは、Nirvanaを筆頭とするグランジが主流だったが、その裏でカリフォルニアのパンク・シーンが活性化していた。The Offspringは、その波を最大限に活かし、ハードコア・パンクのスピード感とメロディアスなフックを融合させることで、メインストリームにインパクトを与えた。
本作は、疾走感あふれるパンク・チューンと、社会批判的な歌詞、さらにはユーモアが絶妙に混ざり合った作品であり、90年代のパンク・ロック・リバイバルを牽引することとなった。Green Dayの『Dookie』と並び、1990年代のポップ・パンクの方向性を決定づけたアルバムである。
全曲レビュー
1. Time to Relax
ラジオDJ風のナレーションが流れるイントロ。次に来る爆発的なエネルギーへの前振りとして機能する。
2. Nitro (Youth Energy)
アルバムの幕開けにふさわしい、疾走感あふれるパンク・ナンバー。タイトル通り、若者の反抗心とエネルギーを象徴する楽曲であり、イントロのギターリフから一気にテンションが上がる。
3. Bad Habit
車の運転中の怒りをテーマにした、攻撃的な歌詞が特徴的。途中で「You stupid, dumbshit, goddamn motherfucker!」と叫ぶパートがあり、ライブでは観客と一体になって盛り上がる名曲。
4. Gotta Get Away
ヘヴィなグルーヴと、不穏なムードを持つ楽曲。精神的なストレスや社会からのプレッシャーを描いた歌詞が特徴的で、他の曲よりもダークな雰囲気を持つ。
5. Genocide
典型的なThe Offspringのパンク・サウンドに、政治的なメッセージを込めた楽曲。不平等や社会の腐敗を描いたシリアスなリリックが印象的。
6. Something to Believe In
シンガロングしやすいコーラスと、エネルギッシュなギターリフが光る一曲。社会への不信感やアイデンティティの模索をテーマにした楽曲で、パンクの本質的なメッセージを持っている。
7. Come Out and Play
本作の最大のヒット曲のひとつで、特徴的なミドル・イースタン風のギターリフと、「You gotta keep ‘em separated!」というフレーズがキャッチーな一曲。歌詞は、ギャングの暴力や若者の犯罪問題について歌っており、社会的なテーマをポップなメロディに乗せるThe Offspringらしいスタイルが確立された楽曲。
8. Self Esteem
アルバムの中でも最もエモーショナルで、バンドの代表曲となった名曲。自己評価の低い男性が恋愛で振り回される姿を描いた歌詞は、90年代の若者に強く共感された。スローでグルーヴィーなビートと、シンガロングしやすいサビが特徴的で、今なおライブの定番曲となっている。
9. It’ll Be a Long Time
政治的な歌詞と、メロディアスなパンク・サウンドが融合した楽曲。戦争や社会の矛盾に対する皮肉が込められている。
10. Killboy Powerhead
Didjitsのカバー曲。原曲よりもスピード感が増し、The Offspring流のハードコア・パンク的なアレンジが施されている。
11. What Happened to You?
スカ・パンク的な軽快なリズムが特徴的な楽曲。アルバムの中では異色の存在で、The Offspringの遊び心が感じられる一曲。
12. So Alone
1分半にも満たないショート・チューンで、パンク・ロックの衝動を詰め込んだような楽曲。
13. Not the One
社会のルールに反抗する若者の姿を描いた楽曲で、自己アイデンティティの確立をテーマにしている。
14. Smash
アルバムのタイトル曲であり、ダークな雰囲気を持つ。曲の終盤には、「I’m not a trendy asshole(俺は流行りのバカじゃない)」というフレーズが登場し、バンドの反骨精神を象徴している。
総評
『Smash』は、The Offspringの出世作であり、90年代のパンク・ロックを象徴するアルバムのひとつである。Green Dayの『Dookie』とともに、カリフォルニア・パンクのメインストリーム進出を決定づけ、のちのBlink-182やSum 41といったバンドにも多大な影響を与えた。
本作は、単なるポップ・パンクではなく、ハードコア・パンクの激しさとメロディアスなフックを融合させ、社会批判とユーモアを絶妙なバランスで取り入れた作品となっている。
The Offspringは、次作『Ixnay on the Hombre』(1997年)や『Americana』(1998年)でさらなる成功を収めるが、『Smash』こそが彼らのキャリアの原点であり、最も純粋なパンク・ロックの衝動を感じさせるアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Green Day – Dookie(1994年)
同じく90年代のポップ・パンクを代表する名盤。 - Bad Religion – No Control(1989年)
メロディック・ハードコアのルーツを知るなら必聴。 - NOFX – Punk in Drublic(1994年)
90年代のカリフォルニア・パンクの名作。 - Rancid – …And Out Come the Wolves(1995年)
スカ・パンクとストリートパンクを融合させた名盤。 - Pennywise – About Time(1995年)
よりストレートなパンク・ロックを求めるならおすすめ。
『Smash』は、90年代パンク・ロックの金字塔であり、今なお色褪せない名盤である。
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