Simple Song by Passenger(2017)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Simple Song」は、Passenger(マイク・ローゼンバーグ)が2017年にリリースしたアルバム『The Boy Who Cried Wolf』に収録された楽曲で、タイトル通り非常にシンプルな構成と語り口でありながら、人生の複雑さと美しさを見つめ直すような深い味わいを持った作品です。

この曲の核心には、「人生は複雑だけど、歌はシンプルでいい」という逆説的なテーマが込められています。愛や後悔、希望、喪失、孤独といった人生の普遍的な感情を、Passengerはあえて飾らない言葉とメロディで綴り、それによってむしろ本質的な感情の輪郭がよりはっきりと浮かび上がるのです。

歌詞はストーリーテリングというよりも、人生を歩んでいくなかで出会う小さな断片的な出来事や感情を、穏やかなギターのアルペジオに乗せて語りかけるような形で進みます。結果としてこの曲は、リスナー一人ひとりの経験と静かに共鳴するような、包容力のあるバラードに仕上がっています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Passengerは「Let Her Go」の大ヒット以降も、自身の音楽スタイルを大きく変えることなく、親密な弾き語りと素朴なストーリーテリングを貫いてきたシンガーソングライターです。彼の曲の多くは、商業的な派手さよりも、日常の中にある美しさや人間の不完全さを丁寧に掬い上げることを目的としています。

「Simple Song」もまた、その美学が如実に表れた作品です。アルバム『The Boy Who Cried Wolf』は、前作『Young as the Morning Old as the Sea』と比べてよりローファイで、個人的なテーマに重きを置いており、本作ではPassengerが自分自身の内面と向き合う姿勢が強く打ち出されています。

インタビューなどで本人は「この曲は、音楽そのものについての歌でもある」と語っており、音楽が持つ癒しの力、感情の代弁者としての役割、そしてそのシンプルな美しさに対する敬意が込められていると言えるでしょう。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius – Passenger / Simple Song

“Here’s a simple song / Won’t take long”
「これはシンプルな歌/長くはかからないよ」

“It’s not much to look at / But it’s all that I’ve got”
「見た目は大したことないけど/これが僕のすべてさ」

“In my soul I believe / That we’re not alone”
「心の奥で信じてる/僕たちは独りじゃないって」

“It’s not clever or smart / But it touches my heart”
「賢くもないし/頭のいい歌でもないけど/僕の心には響いてる」

“And it’s better than silence / When the silence is long”
「長い沈黙よりもましさ/それがこの歌の意味なんだ」

このように、歌詞は終始控えめで柔らかな口調で綴られていますが、そのなかに自分の不完全さを肯定し、それでも誰かとつながりたいという願いが込められており、非常に人間的な温もりを感じさせます。

4. 歌詞の考察

「Simple Song」が訴えかけるのは、**“言葉にできない感情に寄り添う音楽の力”**です。この歌には複雑な比喩や技巧的な韻は登場しませんが、そのシンプルさこそが、リスナーにとってはまるで静かな風が心を撫でるような安らぎをもたらします。

「長い沈黙よりも、この歌の方がましだ」というフレーズは、音楽が単なる娯楽ではなく、人と人との距離を埋める大切な存在であることを示しています。特に、孤独や悲しみを感じている時、誰かの派手な言葉よりも、こうした素朴な歌が胸に響く瞬間がある。Passengerは、それを本能的に理解しているソングライターなのです。

また、彼が「この歌は見た目は大したことない」と語るその姿勢からは、芸術における謙虚さと、それでもなお「誰かの役に立てたら」という誠実な思いが伝わってきます。

この歌は、彼自身のために書かれた癒しの手紙でありながら、同時にリスナー一人ひとりへの贈り物でもあります。完璧じゃなくてもいい。豪華じゃなくてもいい。ほんの少しの気持ちが誰かの心を温めることがある——そのメッセージは、日々に疲れた私たちにそっと寄り添ってくれるのです。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “The Stable Song” by Gregory Alan Isakov
     シンプルな構成と静かな語り口で、深い感情を描いたフォークソング。

  • “Society” by Eddie Vedder
     複雑な社会の中で自分らしく生きることの難しさと尊さを歌った曲。

  • “All I Want” by Kodaline
     失恋と再生を素朴なメロディとリリックで描いた感動的なバラード。

  • “Only Love” by Ben Howard
     愛の本質と感情のゆらぎを、抑えた語りと音で綴るナンバー。

  • “Budapest” by George Ezra
     ミニマルなアレンジの中に、ユーモアと人間味があふれるラブソング。

6. “歌うこと”そのものへの讃歌としての価値

「Simple Song」は、その名の通り“シンプル”ですが、決して“浅い”わけではありません。むしろその逆で、シンプルだからこそ辿り着ける感情の真実があります。
それは、装飾を捨て、技巧を捨ててなお、ただ「歌う」という行為に価値があるのだというメッセージです。

音楽に何を求めるのか、という問いに対して、Passengerはこう答えているように思えます――
「完璧なサウンドよりも、心がこもった一節のほうが人を救うことがある」と。


「Simple Song」は、飾らないメロディと語りの中に、人生の痛みと希望を優しく閉じ込めた癒しの歌。Passengerが見せるのは、シンプルであることの強さ、そして歌うことが人をつなぐという静かな真実である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました