She’s a Good Girl by Sleeper（1997）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.10

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “良い子”という幻想を脱ぎ捨てるとき
- 関連記事:

1. 歌詞の概要

「She’s a Good Girl」は、Sleeperが1997年にリリースしたサード・アルバム『Pleased to Meet You』に収録された楽曲であり、バンドのキャリア後期においてより複雑で深みのある視点を取り入れた代表作の一つである。

この曲の主人公は、“良い子”と評される女性。しかし、その「良さ」は他人によって押しつけられた価値観であり、彼女自身の真の欲望や感情は常に抑圧されてきた。タイトルの“She’s a Good Girl”というフレーズには、皮肉と不満、そして一種の怒りが込められている。
彼女は「従順な女の子」として、社会や恋人の期待に応えようとしてきたが、その仮面の下には、自分自身の声を探し求める女性の姿が静かに燃えている。

この楽曲は、まさに「抑圧された自己を解放するまでの物語」であり、90年代後半という時代の空気と、女性として生きることへの問いを深く内包している。
それは個人的でありながらも、同時に時代的で社会的な告発としても響くのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

「She’s a Good Girl」は、Sleeperの音楽的成熟とルイーズ・ウィナーのリリックの深化を示す楽曲である。彼女たちは『Smart』『The It Girl』でブリットポップのポップ性やフックの強さを体現してきたが、3作目となる『Pleased to Meet You』では、より内省的でダークなテーマが増えていく。

この曲で語られる“Good Girl”という言葉は、単なる誉め言葉ではなく、ジェンダー的役割への風刺として扱われている。
“良い子”とは、誰の基準によって定義されるのか。
そして、“良い子でいること”が、どれほどの自己犠牲を伴っているのか――それがこの曲の根底にある問いかけである。

また、当時のルイーズ・ウィナーはソングライターとしての自信を深めると同時に、メディアや音楽業界の中で女性が置かれる立場にも敏感になっており、この曲にはそうした背景が濃く反映されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

She’s a good girl, she does what she’s told
彼女は“いい子”だよ、言われたことはちゃんと守る

この一節で、この曲の主人公がどのような枠の中に閉じ込められているかがすぐに分かる。「いい子」とは、従順であること。それは褒め言葉のようでいて、女性の自由を奪う構造の一部としても機能している。

Never questions, never lies
決して疑問を抱かないし、嘘もつかない

ここでは“理想の女性像”が提示されるが、それがどれだけ非現実的で、窮屈なものであるかが、皮肉と共に浮き彫りにされる。

But I can see the cracks begin to show
でも私は、亀裂が見え始めてるの

主人公の心にはすでに“従順な女の子”でいることへの疑念が芽生えている。
彼女は崩れ始めている。そしてその崩壊は、破壊ではなく、自由への第一歩として描かれている。

※歌詞引用元：Genius – She’s a Good Girl Lyrics

4. 歌詞の考察

この曲のテーマは、「社会的に期待される女性像」と「自分らしさ」の対立である。
主人公は“良い子”として生きてきた。しかしその「良さ」は、自ら選び取ったものではない。家族、恋人、社会から押しつけられた“型”にすぎない。
そのことに気づいたとき、彼女は初めて「本当の自分」を探し始める。

「She’s a Good Girl」は、そうした女性の内なる目覚めのプロセスを描いた楽曲であり、自己解放の物語でもある。
ルイーズ・ウィナーは、この主人公に特別な力や劇的な変化を与えない。代わりに、**じわじわと生まれてくる違和感や、日常の中の小さな“目覚め”**を丁寧に描き出している。
そのリアリズムが、この曲をただの“フェミニズム・ポップ”にとどめない深みを与えている。

また、この曲の魅力は、怒りや抗議だけでなく、複雑な共感と切なさが同居している点にもある。
誰かに合わせてばかりいた過去を完全に否定するのではなく、「あの頃の私も、精一杯だったんだよね」と、そっと抱きしめるような余韻があるのだ。