Share the Land by The Guess Who(1970)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Share the Land」は、1970年にカナダのロックバンドThe Guess Whoが発表した楽曲であり、同年リリースのアルバム『Share the Land』の表題曲でもある。この楽曲の歌詞は、社会的な理想主義に満ちており、人々が土地や資源、生活を分かち合うユートピア的な未来像を描いている。タイトルの“Share the Land”とは、文字通り「土地を分かち合う」という意味であり、個人主義から共同体意識へと向かう価値観の転換を示している。

冒頭の問いかけ—“Have you been around? Have you done your share of comin’ down?”—から始まり、現実の厳しさを知る者たちに向けて、新しい時代の到来を告げるような内容となっている。「いつか、僕たちは共に住み、土地を分かち合い、平和のうちに生きるだろう」と歌うこの楽曲は、単なる空想ではなく、理想と行動を結びつける呼びかけでもある。

当時、アメリカ社会はベトナム戦争、黒人差別、公民権運動、経済格差など多くの問題を抱えており、「Share the Land」はそのような分断された社会に対して、連帯と平等を訴えるプロテストソングとしても読み取ることができる。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Share the Land」は、ランディ・バックマンが脱退した後のThe Guess Whoが最初に発表したアルバムの表題曲であり、1970年代初頭のバンドの方向性を象徴する重要な楽曲である。バックマンに代わってカート・ウィンターとグレッグ・レシャインがギターに加わり、新しいラインナップとなったことで、サウンドもより多様性を増し、社会的なテーマへの関心も一層顕著になった。

当時のアメリカではカウンターカルチャーがピークを迎えており、ヒッピー運動の影響で「共有」「自然回帰」「平和共存」といった思想が若者の間に広まっていた。The Guess Whoはカナダのバンドでありながら、この国際的な時代精神をしっかりと捉え、「Share the Land」を通してその理想を音楽として体現している。

作詞・作曲を手がけたのはバンドのフロントマンであるバートン・カミングスで、彼はこの曲を「すべての人にとっての未来のビジョン」として語っている。カミングスの豊かなヴォーカルと、ソウルフルなコーラスワークが重なり合うことで、曲は単なる理想論にとどまらず、聞く者の心を鼓舞するような高揚感を持っている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Share the Land」の印象的な一節を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

Have you been around?
あちこち回ってきたのか?

Have you done your share of comin’ down?
落ち込むような経験もしてきたのか?

On different things you know you’ve seen me
いろんなことで俺を見てきただろう

Share the land and you’ll be free
土地を分かち合えば、きっと自由になれる

Maybe I’ll be there to shake your hand
その時には、俺がお前と握手するかもしれない

Maybe I’ll be there to share the land
俺もそこにいて、一緒にこの土地を分かち合うかもしれない

引用元:Genius Lyrics – Share the Land

4. 歌詞の考察

「Share the Land」は、個人の目線と社会全体の未来を結びつける構造を持っている。最初は、聴き手に対して「人生の困難を経験したか」と問いかけることで共感を引き出し、そこから「分かち合い」というテーマに導いていく。

注目すべきは、理想的な社会の姿を押しつけるのではなく、「もしかしたらそこに僕もいるかもしれない」「君と握手するかもしれない」といった柔らかい語り口で描かれている点である。この控えめで開かれた表現が、逆に力強いメッセージとして響く。

“Share the land and you’ll be free”という一節には、自由とは所有や競争ではなく、共有と連帯によって得られるという信念が込められている。この思想は、1970年代のカウンターカルチャーの精神と強く結びついており、音楽を通じて社会変革を促そうとする姿勢が明確に表れている。

また、曲全体を通して感じられる温かさと希望は、プロテストソングでありながらも人間の善意や可能性を信じるメッセージへと昇華されている。暴力や怒りではなく、優しさと連帯による未来像を描いたこの曲は、当時としては非常にユニークな立ち位置にあったと言える。

※歌詞引用元:Genius Lyrics – Share the Land

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Get Together by The Youngbloods
    「愛し合おう、今この瞬間に」というメッセージを持つヒッピー文化の象徴的楽曲。平和と共有の精神が「Share the Land」と通じる。
  • Teach Your Children by Crosby, Stills, Nash & Young
    次世代に希望と理想を託す優しいフォーク・ロック。共同体意識と教育の重要性を歌う。
  • Imagine by John Lennon
    理想社会を描く世界的名曲。「国も宗教もない世界で人は分かち合う」というテーマは本楽曲と同様の理想主義に貫かれている。
  • Woodstock by Crosby, Stills, Nash & Young
    ウッドストックという象徴的な場所を舞台に、帰属と理想の地への帰還を歌った名曲。共同体というテーマが共通。

6. 時代と共鳴したユートピアのメッセージ

「Share the Land」は、1970年代初頭という時代において、社会的理想を歌い上げた極めて珍しいヒット曲である。アメリカのラジオチャートでは最高10位を記録し、カナダ国内ではThe Guess Whoの評価をさらに高めることとなった。

当時、ロックミュージックは政治的メッセージを含むことが一般的になりつつあったが、怒りや抗議に満ちたプロテストソングが主流であった中で、「Share the Land」はポジティブな理想と優しさで未来を描くという点で異彩を放っていた。

また、この曲はカナダ出身のThe Guess Whoが、アメリカ社会の内部にまで響くメッセージを届けることに成功した一例でもある。土地という概念は、先住民の権利や社会的不平等とも密接に関わるものであり、その“分かち合い”という主張は現在においても重要な意味を持っている。

音楽を通じて社会を変える——その信念が最も明確に表現されたのが、この「Share the Land」であり、The Guess Whoの精神的ピークともいえる名曲である。

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