イントロダクション
汗の飛沫と埃を巻き上げるバーストビート、マーシャルから噴き出す轟音。
サウスロンドン・ブリクストンで結成された Shame は、1970年代パンクの暴力性を現代へアップデートし、ダンサブルなグルーヴとニヒルなウィットで観客を焚きつける五人組である。
デビュー作『Songs of Praise』でUKギターロック復権の狼煙を上げ、続く『Drunk Tank Pink』『Food for Worms』ではエモーションとアンサンブルを肥大化させ、“壁に穴を空ける衝動”と“繊細な自己観察”を同居させた。
アーティストの背景と歴史
2014年、10代の幼馴染だったチャーリー・ステン(Vo)、ショーン・キャッペン(Gt)、エディ・グリーン(Gt)、ジョシュ・フィンティ(Ba)、チャーリー・フォーブズ(Dr)がオフィス街の公営スタジオ〈ブリクストンWindmill〉で意気投合。
Sten の荒削りなシャウトと双頭ギターの斜めリフ、硬質なリズム隊は瞬く間にライブハウスを沸騰させ、2017年のシングル「Concrete」でBBC 6Musicのローテーションを獲得。
2018年、『Songs of Praise』が全英アルバムチャートトップ40入りし、モッズ再興・ポストパンクリバイバルの筆頭格へ。
パンデミック下で閉じ込められた彼らは自室の蛍光灯と落書きだらけの壁に囲まれ、2021年の2作目『Drunk Tank Pink』を制作。
2023年、『Food for Worms』でステージダイヴとメランコリアをさらに膨張させ、欧米フェスの虫食い状タイムテーブルを赤く塗り替えた。
音楽スタイルと影響
Shame のサウンドはパブロック由来の直線ビートに、The Fall 的ノイズ・ファンク、Fugazi 的ストップ&ゴーを混在させる。
ギターはオクターブリフとノイジーなトレモロを交互に投げ込み、ベースはコード弾きを多用して中域の壁を築く。
チャーリー・ステンのボーカルは説教にも似た語り口からフルスロットルの絶叫までレンジが広く、歌詞は社会風刺と自己嫌悪が紙一重で綴られる。
影響源として彼らは Parquet Courts の脱臼グルーヴ、Iceage の暗黒ロマン、Blur 前期のブリットポップ皮肉を公言しつつ、南ロンドンDIYシーンの先輩 Fat White Family の毒気を呼吸してきた。
代表曲の解説
Concrete
硬質な二拍三連ビートがジグザグに駆け抜ける。
〈君が好きだと叫んでも壁に吸われるだけ〉という空虚を反復し、サビで一気に轟音が落下する快感はライヴの定番だ。
Snow Day
『Drunk Tank Pink』収録。
マスロック的カッティングとディレイギターが凍える街路を描き、チャーリーの独白が「孤独は豪雪の騒音」と呟く。
終盤でリズムが倍速化し、雪解けの洪水のように高揚が爆発する。
Fingers of Steel
3作目の先行シングル。
ザクザク刻むリフとコーラス付きベースが踊り、〈鋼鉄の指で胸を掻きむしる〉という比喩が彼ら流のセルフセラピーを物語る。
Adderall
同アルバムのスロウナンバー。
薬物依存を扱い、ハーモニクスと控えめなシンセパッドで不穏な静けさを演出。
ステージ照明が赤から青へ転じ、聴衆を不安と陶酔へ引きずり込む。
アルバムごとの進化
年 | 作品 | 主な特徴 |
---|---|---|
2018 | Songs of Praise | 鋭利なポストパンク&青春の汗。ライヴ一発録りの粗さも魅力 |
2021 | Drunk Tank Pink | ポリリズムと変拍子を導入し、内省と不眠をテーマ化 |
2023 | Food for Worms | バンドアンサンブルが肉厚化。友情と喪失を壮大なノイズで包む |
影響を受けたアーティストと音楽
- The Fall/Gang of Four:反復リフと政治毒舌
- Fugazi:ストップ&ゴーのダイナミクス
- Blur(’93-’95):労働者階級の諧謔精神
-
Sleaford Mods:罵詈雑言を詩へ昇華する語り口
シーンへの波及
Shame の成功は、南ロンドン〈Windmill〉周辺のポストパンク温床を世界へ可視化し、black midi や Squid、Goat Girl など同時代バンドの国際評価を底上げ。
また、観客との物理的距離をゼロにする“ノーバリア・ステージ”がUKライヴハウスのトレンドとなった。
オリジナル要素
- “連続ブレイクダウン”
曲中に1小節だけ無音を複数挿入し、観客が飛び跳ねるタイミングを操るステージ術。 -
歌詞投げ込みZine
新曲リリースごとにコラージュ詩集を無料配布し、ファンの赤ペン書き込みで再加工されるインタラクティヴ企画。 -
路上ゲリラ・バスキング
ツアー先の午後に突如歩道でセットを敢行し、通行人映像を翌日のライヴでVJ素材として使用。
まとめ
Shame は、パブの煙とスマホのブルーライトを同時に吸い込みながら、現代ロンドンの焦燥とユーモアをギターの残響に刻む。
彼らの音は、目を背けたい日常と向き合うための轟音であり、孤独な夜を踊り切るためのドラムロールでもある。
次章で彼らがどんな“恥(Shame)”をさらけ出し、どんなカタルシスを提供するのか――耳を塞がず、楽しみに待ち受けたい。
コメント