1. 歌詞の概要
「September Again(セプテンバー・アゲイン)」は、Nation of Language(ネイション・オブ・ランゲージ)が2021年にリリースした2ndアルバム『A Way Forward』に収録された楽曲であり、「繰り返される季節」と「変わらない自分」のあいだで揺れる、内省と郷愁のうたである。
タイトルの「September Again」は、「また9月が来た」という非常にシンプルで日常的な表現だが、その裏には時間の円環性、進んでいるはずの人生の停滞感、そして過去の感情が再浮上する瞬間といった、複雑で詩的な意味合いが込められている。
歌詞に描かれるのは、過去の誰か、あるいはかつての自分との「すれ違い」や「未解決の記憶」。秋という季節の持つメランコリックで美しい静けさのなかで、それが淡々と、しかし確かに蘇ってくる。
この曲は、感情を大きく動かすわけではなく、心の深部にある“消化されない記憶”をそっと撫でるように響いてくる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「September Again」は、Nation of Languageが初期から大切にしてきた「ノスタルジア」と「不確かな自己認識」というテーマを、最も洗練された形で体現している楽曲である。
フロントマンのイアン・デヴァニーは、毎年秋が来るたびに感じる「変わっていない自分」に戸惑う感覚をベースにしてこの曲を書いたと語っており、
「季節は変わっていくのに、自分の中で“何かが止まっている”ように感じたことはないか?」という普遍的な問いが、この曲の核にある。
音楽的には、クラウトロック由来のミニマルなリズムに、オーロラのように広がるシンセが絡み合い、静かな高揚とメランコリーの同居するサウンドスケープが特徴である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I was watching a change in the light
And I just stood there
Waiting for it all to feel right
光の変化をただ眺めながら
僕はその場に立ち尽くしていた
すべてが“正しい”と感じられる瞬間を待ちながら
September again
And I’m looking at you like it’s the first time
また9月が来て
君を初めて見るような気持ちで見つめている
I see the shape of your mouth
But I can’t hear the words
君の口の形は見えるのに
その言葉は聞こえない
And now I’m just living
On something unsaid
そして僕は今も
語られなかった何かの上で生きている
歌詞引用元:Genius – Nation of Language “September Again”
4. 歌詞の考察
「September Again」は、“季節の記憶”と“言葉にならなかった感情”が折り重なっていく静かな情景詩である。
「君を初めて見るような気持ち」とは、関係性の再構築を願う気持ちかもしれないし、もう失われた何かを“追体験”しているだけかもしれない。
この曲に登場する「君」は具体的な人物である必要すらなく、かつての自分自身、未熟な感情、もしくは一度失った理想像である可能性もある。
特に、「I see the shape of your mouth / But I can’t hear the words(口の動きは見えるのに、言葉は聞こえない)」というラインは、コミュニケーションの不全や、時間がもたらす距離感を象徴しており、
“あのとき伝えられなかったこと”が、今になっても語られないまま残っているという切実な残響がある。
さらに、「And now I’m just living on something unsaid(語られなかった何かの上で生きている)」という一節には、言葉にしなかった感情が人生の一部になってしまうという、苦しくも美しい認識がにじむ。
まさにこれは、記憶と時間に対する詩的な抵抗であり、沈黙と共に生きることの肯定でもあるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Seasons (Waiting On You) by Future Islands
季節の移り変わりに投影される未練と、再出発の予感を描いたエモーショナルな一曲。 - Pink Moon by Nick Drake
秋の夜にふと聴きたくなる、短くも儚い存在への気づきの歌。 - Someone Great by LCD Soundsystem
言葉にできなかった喪失と、それを抱えたまま生きる現代人の心象風景を描いた名曲。 -
Love Comes Close by Cold Cave
冷たいビートに乗せて、愛と記憶が交錯する一瞬を描き出すニューウェーブ・ポップ。 -
Motion Picture Soundtrack by Radiohead
感情がゆっくりと死んでいくような、終焉と諦念のバラード。
6. “繰り返される季節”が語る、変わらない感情の在処
「September Again」は、秋の訪れとともに蘇る“変わらなかった感情”を、限りなく静かに、しかし明確に描いた楽曲である。
Nation of Languageはこの曲で、「人生は前に進んでいるはずなのに、心のどこかでは同じ場所に立ち尽くしている自分がいる」という感覚を、
音と詞の交差点で見事に可視化している。
それは、時間の残酷さでもあり、同時に、記憶が色あせずにそこにあるということの救いでもある。
「September Again」は、あなたの中で“まだ終わっていない何か”に静かに寄り添うための楽曲である。
季節がまた巡ってきたことに気づいたとき、それは過去のあなたと今のあなたがふとすれ違う瞬間かもしれない。
Nation of Languageは、その一瞬を忘れないように、そっと音にして残してくれているのだ。
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