発売日: 1992年11月9日
ジャンル: アンビエントテクノ、IDM(インテリジェントダンスミュージック)
Aphex Twin(Richard D. James)のデビューアルバム『Selected Ambient Works 85–92』は、エレクトロニックミュージック史における革新的な作品であり、アンビエントテクノの分野における重要な金字塔として知られている。このアルバムは、テクノのリズムをベースにしながらも、ドリーミーで感情的なサウンドスケープを展開し、アンビエントとダンスミュージックの境界線を曖昧にする内容となっている。
アルバムタイトルが示すように、1985年から1992年の間に制作された楽曲が収録されており、Aphex Twinの初期の創作活動を集大成した内容となっている。アナログシンセサイザーやドラムマシンを駆使したトラックは、当時としては斬新でありながらも、どこかノスタルジックな響きを持つ。複雑なリズムとメロディーが調和したこのアルバムは、後のIDMやエレクトロニカの方向性を大きく形作った。
トラック解説
1. Xtal
アルバムの幕開けを飾るドリーミーなトラック。柔らかなビートとエコーのかかったボーカルサンプルが、幻想的な雰囲気を作り出している。静かに始まりながらも、徐々にリズムが前面に出てくる構成が印象的。
2. Tha
10分近くに及ぶアンビエントテクノの名曲。ミニマルなビートと深みのあるシンセが、静かな夜の風景を思わせる。リズムのゆるやかな進行が瞑想的な感覚を引き起こす。
3. Pulsewidth
よりリズミカルで明るいトラック。軽快なビートと躍動感のあるメロディーが、ダンスフロアでの使用を意識させつつも、どこか内省的な雰囲気を持つ。
4. Ageispolis
滑らかなベースラインと広がりのあるシンセサウンドが特徴のトラック。名前が示唆するように、ギリシャ神話的な壮大さと神秘性を感じさせる。
5. i
短く静謐なインタールード的なトラック。ピアノのようなサウンドが幻想的な空気を作り出し、アルバム全体の緩急を強調する。
6. Green Calx
リズムが複雑に絡み合う実験的な楽曲。ノイズの要素が強く、Aphex Twinのエクスペリメンタルな側面を強調している。
7. Heliosphan
アルバムの中でも特にメロディアスな楽曲。シンプルながらも心を掴むメロディーラインと、リズミカルな構成が美しいバランスを保っている。
8. We Are the Music Makers
映画『ウィリー・ウォンカとチョコレート工場』のセリフサンプルを取り入れた、ユニークなトラック。懐かしさと未来感が入り混じった音作りが印象的。
9. Schottkey 7th Path
ミニマルでアンビエントなトラック。深くうねるベースラインと、控えめながらも緻密に設計されたリズムが特徴的。
10. Ptolemy
ダークで躍動感のある楽曲。名前が暗示するように、宇宙や数学的なテーマが込められているような音作りが興味深い。
11. Hedphelym
不穏な雰囲気が漂うトラック。ノイズとシンセが混ざり合い、サイケデリックでディストピア的な世界観を作り出している。
12. Delphium
軽快なリズムとシンプルなメロディーが絡み合う。どこかゲーム音楽的な要素も感じられ、リスナーを引き込むトラック。
13. Actium
アルバムのフィナーレを飾る壮大な楽曲。ドラムマシンの複雑なビートとメロディアスなシンセサウンドが、終わりと新しい始まりを同時に感じさせる。
アルバム総評
『Selected Ambient Works 85–92』は、Aphex Twinの音楽的才能を余すことなく詰め込んだ傑作であり、エレクトロニックミュージックの世界を拡張する重要な作品である。リズムとメロディーの巧妙なバランス、そしてアンビエントとテクノの融合は、このアルバムを唯一無二のものとしている。特に「Xtal」や「Heliosphan」は、エレクトロニカファンにとってのクラシックとして広く愛されている。30年以上経った今でも、このアルバムの影響力は衰えることなく、未来を見据えた音楽の可能性を提示し続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Music Has the Right to Children by Boards of Canada
アンビエントとノスタルジーを融合した名盤で、『Selected Ambient Works 85–92』のファンに響く要素が多い。
Tri Repetae by Autechre
ミニマルで実験的なIDM作品で、Aphex Twinのエクスペリメンタルな側面と共鳴する。
Ambient 1: Music for Airports by Brian Eno
アンビエントの先駆け的作品で、Aphex Twinがアンビエントを発展させた流れを感じられる。
Endtroducing….. by DJ Shadow
サンプリングを駆使した革新的なアルバムで、Aphex Twinの音楽的探求と通じる。
Geogaddi by Boards of Canada
ミステリアスで幻想的なサウンドが特徴で、『Selected Ambient Works 85–92』の深遠な雰囲気に近い。
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