アルバムレビュー：Saviors by Green Day

発売日: 2024年1月19日
ジャンル: ポップパンク、パンクロック、オルタナティヴロック

概要

『Saviors』は、Green Dayが2024年に発表した14作目のスタジオ・アルバムであり、デビュー30周年という節目を迎えたバンドが、“かつての自分たち”と再び向き合いながら、新しい時代へのメッセージを刻んだ回帰的かつ再定義的な作品である。

本作は『American Idiot』（2004）、『21st Century Breakdown』（2009）を手がけたロブ・カヴァロとの再タッグにより制作され、
制作陣・構成・アートワークのすべてにおいて、“王道Green Day”の復活を強く意識した内容となっている。

『Father of All…』（2020）の意図的脱力と挑発的軽薄さから一転、
『Saviors』では、ビリー・ジョーがかつてのポリティカルな視線と、パーソナルな傷跡の両方を取り戻し、エモーションを研ぎ澄ませた。
一方でメロディとフックは軽やかで、全編にわたって“Green Dayってこうだったよな”という安心感と、現代的な歪みの両立が際立つ。

パンデミック以降の社会混乱、アメリカの政治状況、ジェネレーションZ以降へのまなざし、そして自身の老いと記憶──
そうした要素が、“いつものGreen Day”の言葉とサウンドで軽やかに届けられる本作は、彼らの“成熟した初期衝動”の象徴とも言えるだろう。

全曲レビュー

1. The American Dream Is Killing Me

冒頭から“アメリカン・ドリーム”を真っ向から皮肉る、現代社会批評パンク。
『American Idiot』の時代から変わらない怒りと嘆きが、力強く、だが疲れを滲ませた声で語られる。

2. Look Ma, No Brains!

「見てよママ、俺には脳みそがない！」と叫ぶ、Green Dayらしいユーモアと皮肉に満ちたアップテンポパンク。
スリーコードとシャウト、衝動の王道。

3. Bobby Sox

ティーンの恋を描くポップパンク・ラブソング。
“Bobby Sox”という古風な言葉と、現代的で非ジェンダー的なリリックのミスマッチが面白い。
胸キュンとパンキッシュの共存。

4. One Eyed Bastard

ガレージロック調の軽快なリフとリズムに、悪ふざけが混じるファンク調パンク。
Green Dayの“スラッカー美学”とロックンロールの軽さを融合させた一曲。

5. Dilemma

アルバム中最も内省的でエモーショナルなトラック。
アルコール依存と自己嫌悪を扱いながら、サビでは力強く「I got a problem」と告白する勇気がにじむ。

6. 1981

ビリー・ジョーの青春時代を舞台にしたノスタルジック・パンク。
1981年という年に込められた、“Reagan以降”のアメリカの変化と、自分たちの始まりが交差する。

7. Goodnight Adeline

アコースティックに始まり、サビで広がるドラマティックな構成。
Green Day版“ラブレター・バラード”といえる切なさが響く。

8. Coma City

テンポを上げた疾走系。現代の都市生活を“昏睡都市”と呼び、
無関心と情報過多に疲れた心を撃つようなリリックが光る。

9. Corvette Summer

タイトルは映画のオマージュ。車と夏、思い出と裏切り──
ノスタルジーとスピード感が溶け合う青春パンクの快作。

10. Suzie Chapstick

ポップで皮肉たっぷりの一曲。
架空の女性キャラクターを主人公にした、社会と個人のすれ違いを描く風刺パンク。

11. Strange Days Are Here to Stay

「奇妙な日々は終わらない」──社会の歪みやパンデミック後の空気感を表現。
繰り返しのビートと退廃的なムードが印象的なナンバー。

12. Living in the ’20s

ロアリング・トゥエンティーズ（狂騒の20年代）と、現代の2020年代を重ねた比喩的トラック。
過去と現在の“熱狂と崩壊”を並列で描く知的な作風。

13. Father to a Son

Green Day史上まれに見る、父性と家族をテーマにした内省的バラード。
シンプルなアレンジとストレートな歌詞が胸に残る。

14. Saviors

アルバムタイトル曲。宗教や政治、“救世主願望”を皮肉りつつ、
「救世主なんていない、俺たちが変わるしかない」と結ぶ、Green Dayらしい反体制パンクの本懐。

15. Fancy Sauce

ボーナストラック的な遊び心満載の一曲。
タイトル通り“くだらなさ”を真剣に演奏しているような、ユーモアと脱力のグリーン・デイ節。

総評

『Saviors』は、Green Dayがあらゆる“過去の自分たち”と向き合いながら、再び“声を上げる理由”を見つけたアルバムである。

“救世主”を皮肉りつつ、自らも救われたいと願う。
怒りを取り戻しながらも、叫ぶ代わりに歌う。
そのバランス感覚は、かつての『American Idiot』の延長線であり、2020年代という疲弊した時代の“声なき声”をすくい取るような優しさと諦念を帯びている。

全体としてはポップパンクの快活さが主軸にあるが、リリックの深度とトピックの多様性においては、Green Dayの中でも最も“現在”を映したアルバムといえる。

彼らは“世界を変える”とはもう言わない。
だが、“生き続けるために鳴らすギター”の力だけは、今も信じているのだ。

制作の裏側

本作は、かつての名プロデューサー、ロブ・カヴァロとの14年ぶりの再会によって制作された。
録音はオークランドとロサンゼルスを拠点に行われ、90年代的な音作りと現代的なミキシングの融合が図られている。

また、ビリー・ジョーはインタビューで「これは“自分たちの姿を見直すためのアルバム”だった」と語っており、
本作をもって**“Green Day第4章”の幕が開いたともいえる。

『Saviors』は、救いを信じることができない時代に、それでもギターを持ち続ける人々のための音楽である。
パンクの魂は今も消えていない──それを、再び彼らが証明してくれた。