発売日: 1995年8月21日
ジャンル: ポップ、ティーン・ポップ、アダルト・コンテンポラリー、UKボーイズ・ポップ
概要
『Said and Done』は、アイルランド出身のボーイズグループ、ボーイゾーンが1995年にリリースしたデビュー・アルバムであり、90年代UK・アイルランドにおけるボーイバンド・ムーブメントの先駆けとなった作品である。
当時、アイルランドでは“アイドル不在”の時代が続いていたが、ルイス・ウォルシュによって結成されたボーイゾーンは、その空白を埋める形で登場し、
「Love Me for a Reason」や「Key to My Life」などのヒットシングルで、瞬く間に若年層を中心とした熱狂的な支持を獲得した。
アルバム『Said and Done』は、ポップ・バラードと軽快なミディアム・ナンバーを軸に構成されており、甘いハーモニーと感情的なボーカルが中心。
アメリカのボーイズグループ（New Kids on the BlockやBoyz II Men）とUKポップの折衷的スタイルが特徴で、
特にローナン・キーティングのリードボーカルがグループのアイデンティティを確立する鍵となっている。
発売と同時に全英アルバムチャート1位を獲得し、以降のウエストライフやBlueなどの成功へとつながる、“90年代UKボーイバンド黄金期”の出発点として位置づけられる重要作である。
全曲レビュー
1. Together
グループのテーマソングとも言えるオープニング。仲間との絆や一体感を明るく描いた曲で、コンサートでも盛り上がる定番ナンバー。
2. Coming Home Now
シングルカットもされた軽快なミディアム・ポップ。帰郷や再会をテーマにした、ややノスタルジックな雰囲気を持つ楽曲。
3. Love Me for a Reason
アルバム最大のヒット曲。オスマンズによる1974年のヒットのカバーで、原曲の懐かしさを残しつつ、90年代的な甘さとハーモニーでアレンジされている。
「理由があって愛してほしい」というリリックが若い女性層に刺さった。
4. Oh Carol
スウィング感のある陽気なポップソング。恋する“キャロル”へのラブレターのような一曲で、グループの無邪気な側面が出ている。
5. When All Is Said and Done
アルバムタイトルに近い名バラード。愛の終わりと感謝が重なるリリックで、メンバーの成熟した歌唱が印象的。
6. So Good
洗練されたミディアム・テンポのラブソング。グループの“ソフト・アーバン”路線を象徴するようなプロダクション。
7. Can’t Stop Me
ダンサブルで意志の強さを感じさせるポップ・チューン。アルバム中では珍しい“自立”を歌う一曲。
8. I’ll Be There
誓いを込めたバラード。クラシカルなストリングスとピアノが情感を高め、結婚式ソングとしても人気。
9. Key to My Life
自作曲であり、シングルとしても成功を収めた重要曲。若き日の恋と決意を詰め込んだ、メンバーたちの“原点”とも言えるナンバー。
10. If You Were Mine
スムースなミディアム・バラード。恋愛の“もしも”をテーマにした典型的ボーイバンド・ソング。
11. Arms of Mary
フォーク・ポップグループSutherland Brothersの名曲をボーイバンド風にアレンジ。原曲の郷愁感を残しつつ、よりポップな響きに。
12. Believe in Me
アルバム終盤に配置された自信と信頼のバラード。恋人に対する「僕を信じてほしい」という素直な想いが綴られている。
13. Father and Son（UK盤ボーナストラック）
キャット・スティーヴンスの名バラードのカバー。ローナン・キーティングの繊細な歌唱が光る、世代を超えた対話を描いた感動作。
総評
『Said and Done』は、ボーイゾーンというグループの出発点であり、
同時に“90年代UKボーイズポップ”のひな形を完成させた重要作である。
ポップ・バラードとライトなダンス・ナンバーのバランス、スウィートでクリーンなイメージ戦略、そしてメンバーの歌唱力に支えられたハーモニー構成──
それらがすべて、“安心して恋できるボーイズグループ”というポジショニングを成功させた。
音楽的には決して革新的ではないが、それゆえに“時代の空気”をまっすぐにパッケージしており、今聴いても“1995年の空気感”がそのまま蘇るような作品でもある。
バラードの表現力は後続のウエストライフへ、ポップ性はS Club 7やFiveへと引き継がれ、まさに“UKポップの転換点”を刻んだアルバムである。
おすすめアルバム（5枚）
- Westlife『Westlife』
バラード中心の構成とボーイズ・ハーモニーが、ボーイゾーンの正統後継といえる存在。 - Take That『Everything Changes』
ダンスとバラードのバランス、ステージパフォーマンス含めたUKボーイバンドの基礎。 - Backstreet Boys『Backstreet’s Back』
より洗練されたポップR&B路線のアメリカ版。国は違えど共通点多数。 - A1『The A List』
2000年代UKポップ路線を引き継いだグループ。ボーイゾーンの影響が色濃い。 - Boyz II Men『II』
ハーモニーと感情表現の極致を極めたUSソウルボーイズの金字塔。影響源として外せない。
後続作品とのつながり
『Said and Done』を出発点に、ボーイゾーンはより成熟したアダルト・コンテンポラリー路線へと進化していく。
2作目『A Different Beat』では、よりセルフ・ライティングに比重を置き、サウンドも一段洗練される。
しかし、その原点には常に、この“素直で甘い”デビュー作があり、
『Said and Done』こそが、ボーイゾーンという物語の最初の一章──その名の通り、「すべてが言葉になり、成し遂げられた瞬間」なのである。
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