
発売日: 2016年12月24日(デジタル)、2017年1月13日(フィジカル)
ジャンル: ヒップホップ、ハードコアヒップホップ
- 怒りと革命の深化――Run the Jewelsの頂点を極めた作品
- 全曲レビュー
- 1. Down (feat. Joi)
- 2. Talk to Me
- 3. Legend Has It
- 4. Call Ticketron
- 5. Hey Kids (Bumaye) [feat. Danny Brown]
- 6. Stay Gold
- 7. Don’t Get Captured
- 8. Thieves! (Screamed the Ghost) [feat. Tunde Adebimpe]
- 9. 2100 [feat. BOOTS]
- 10. Panther Like a Panther (Miracle Mix) [feat. Trina]
- 11. Everybody Stay Calm
- 12. Oh Mama
- 13. Thursday in the Danger Room (feat. Kamasi Washington)
- 14. A Report to the Shareholders / Kill Your Masters
- 総評
- おすすめアルバム
怒りと革命の深化――Run the Jewelsの頂点を極めた作品
2016年にリリースされた『Run the Jewels 3』は、Run the Jewelsのキャリアの中で最も完成度の高い作品として評価されている。本作では、デビュー作『Run the Jewels』(2013年)、その進化形である『Run the Jewels 2』(2014年)を経て、より緻密でスケールの大きなプロダクションと、より深い社会的・政治的メッセージが融合している。
本作は、警察暴力、社会的不平等、権力への反抗、友情と連帯、そして個人的な葛藤をテーマにしており、Killer MikeとEl-Pのフロウとリリックがさらに磨き上げられている。El-Pのプロダクションはインダストリアルな要素とサイケデリックな雰囲気を持ちつつ、前2作よりもメロディアスなアプローチが増している。
アルバムのリリース時期は、アメリカがドナルド・トランプ政権の発足を迎える混乱期にあたり、本作はその社会状況とも強く結びついている。まさに、Run the Jewelsが「単なる音楽ユニット」ではなく、「現代の革命の象徴」になった瞬間を記録した作品だ。
全曲レビュー
1. Down (feat. Joi)
アルバムの幕開けを飾る静かで内省的な楽曲。過去の困難や苦悩を振り返りながら、Run the Jewelsとしての歩みを語る。Joiのソウルフルなボーカルが美しく、前作までの流れを引き継ぐ形でスタートする。
2. Talk to Me
Killer Mikeが「Born black, that’s a felony」(黒人として生まれた、それだけで罪)とラップする強烈なラインで始まる楽曲。トランプ政権やアメリカ社会の不正を激しく批判し、重厚なビートが緊張感を高める。
3. Legend Has It
クラップ音とシンセが絡み合うダイナミックなトラック。Run the Jewelsの自己神話化を象徴する曲で、「俺たちは伝説になった」というテーマが貫かれている。2018年に映画『ブラックパンサー』の予告編に使用され、一気に知名度が上がった。
4. Call Ticketron
サイケデリックなビートが特徴的なトラック。Run the Jewelsが成功を手にした現在でも、社会の矛盾や問題に対して声を上げ続けることを宣言する。
5. Hey Kids (Bumaye) [feat. Danny Brown]
狂気じみたDanny Brownのヴァースが炸裂する楽曲。資本主義の欺瞞や貧困問題を痛烈に批判しながらも、攻撃的なエネルギーが前面に出ている。
6. Stay Gold
Run the Jewelsの持つヒップホップの美学を描いた楽曲。「Stay Gold」というフレーズは、Robert Frostの詩や『アウトサイダー』の影響を受けたもの。
7. Don’t Get Captured
警察暴力や監視社会をテーマにしたダークな楽曲。実験的なプロダクションが印象的で、社会問題を風刺するストーリーテリングが光る。
8. Thieves! (Screamed the Ghost) [feat. Tunde Adebimpe]
TV on the RadioのTunde Adebimpeを迎えた、幽玄的な雰囲気の楽曲。アメリカ社会の暴動と、それを抑圧する体制の矛盾を描く。
9. 2100 [feat. BOOTS]
希望と絶望の狭間にあるトラック。2016年の大統領選挙後に制作され、「世界は終わるかもしれないが、それでも前に進むしかない」というメッセージが込められている。
10. Panther Like a Panther (Miracle Mix) [feat. Trina]
Run the Jewelsの攻撃性と、フロリダのラッパーTrinaの力強いヴァースが合わさった一曲。エネルギッシュなビートが特徴的。
11. Everybody Stay Calm
ミリタリービートとともに、不安定な社会情勢を描写するトラック。Run the Jewelsのリリックはますます鋭さを増している。
12. Oh Mama
シンプルなビートに乗せて、Run the Jewelsのパーソナリティを強調した楽曲。2018年に『リック・アンド・モーティ』のコラボMVが公開され、話題となった。
13. Thursday in the Danger Room (feat. Kamasi Washington)
ジャズ・サックス奏者Kamasi Washingtonを迎えた、アルバム屈指のエモーショナルな楽曲。死別や喪失をテーマにしたリリックが胸を打つ。
14. A Report to the Shareholders / Kill Your Masters
アルバムのラストを飾る壮絶なトラック。資本主義の欺瞞、政府の腐敗、人種差別への怒りが爆発する。ザック・デ・ラ・ロッチャ(Rage Against the Machine)のヴァースが、アルバムを締めくくる革命の叫びとなる。
総評
『Run the Jewels 3』は、Run the Jewelsのキャリアの中で最も完成された作品であり、社会批判と音楽的進化を極限まで高めたアルバムだ。政治的なメッセージと個人的な葛藤が交錯し、圧倒的な攻撃性と感情的な深みを兼ね備えた一枚となっている。
Killer MikeとEl-Pのラップは、これまで以上に鋭く、El-Pのプロダクションはインダストリアルな要素とジャズ的なアプローチを融合させ、より洗練されたものとなった。本作は、ヒップホップの枠を超えてロックやジャズ、エレクトロニカのリスナーにも強く訴えかける内容となっている。
Run the Jewelsが「アンダーグラウンドのヒーロー」から、「時代を代表するアーティスト」へと完全に移行した瞬間を記録したアルバムであり、現代の政治的ヒップホップの最高峰ともいえる作品だ。
おすすめアルバム
- Run the Jewels – Run the Jewels 4 (2020)
- より政治的で怒りを増した最新作。
- Kanye West – My Beautiful Dark Twisted Fantasy (2010)
- 豪華なプロダクションとストーリーテリングが共通する傑作。
- Public Enemy – Fear of a Black Planet (1990)
- 政治的メッセージとハードなビートの融合。
- Rage Against the Machine – The Battle of Los Angeles (1999)
- 反体制の精神を継承するならこの一枚。
- Danny Brown – Atrocity Exhibition (2016)
- 実験的ヒップホップと鋭いリリックが光る。
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- 実験的ヒップホップと鋭いリリックが光る。
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