1. 歌詞の概要
「Run to the Water」は、アメリカのロックバンドLiveが2000年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバム『The Distance to Here』に収録された楽曲であり、同作のセカンドシングルとしてもリリースされた。
この楽曲は、愛、赦し、再生といったスピリチュアルなテーマを詩的かつドラマティックに描いた名バラードであり、Liveが持つ宗教的・哲学的な要素と、感情のリアリズムとが絶妙なバランスで交錯している。
タイトルの「Run to the Water（その水のもとへ走れ）」は、象徴的な表現であり、“水”は癒し、浄化、誕生、真理を象徴するものとして用いられている。
この水に向かって走るという行為は、現実の苦しみや矛盾から逃げることではなく、むしろそれを超えて“本来あるべき場所へ戻る”ための運動であり、個人的な救済と、魂の回復への願いを象徴している。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲が制作された1999年から2000年にかけて、Liveはキャリアの成熟期を迎えていた。前作『Secret Samadhi』（1997年）ではダークで難解なトーンが支配的だったが、次作『The Distance to Here』では、より光のある、明快で普遍的なスピリチュアリティを取り戻そうとする姿勢が明確に打ち出されている。
「Run to the Water」は、その中でも特に“赦し”と“再生”にフォーカスした楽曲であり、ボーカルのエド・コワルチック（Ed Kowalczyk）はこの曲について、「世界がどれだけ混乱していても、人は内なる聖域を見つけてそこに還ることができる。その象徴が“水”だ」と語っている。
サウンド面では、ストリングスのように流麗なギターリフと、エドの祈りにも似たボーカルが印象的で、楽曲が持つ宗教的、宇宙的な広がりを強調している。特に終盤の盛り上がりは、精神的な“目覚め”の瞬間を感じさせるような解放感に満ちている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Run to the Water」の印象的なフレーズを英語と日本語訳で紹介する。
“Run to the water and find me there”
「水のもとへ走ってきて そこに僕はいる」
“Burnt to the core but not broken”
「芯まで焼かれても 決して壊れたりはしない」
“We’ll dance like no one’s watching”
「誰も見ていないかのように 僕たちは踊るだろう」
“This world is burning but the world keeps turning”
「この世界は燃えている でもそれでも回り続けている」
“Love will lead us, she will lead us”
「愛が僕たちを導いてくれる 彼女が僕たちを導いてくれる」
歌詞全文はこちらで確認可能：
Live – Run to the Water Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Run to the Water」は、その美しいメロディとともに、深く詩的で寓話的な構造を持っている。
“水”というモチーフは古来から浄化、再生、命の象徴とされてきたが、この楽曲ではそれが“魂の帰還”や“愛の源泉”として機能している。
主人公は「燃え尽きているが壊れていない」状態にあり、これは過去の傷や経験、社会からの摩耗を経た後でも、まだ希望を失っていないという内なる強さの象徴である。
また、「Love will lead us」というリフレインが象徴するように、ここで歌われる“救済”は他人によるものではなく、愛そのものが主体として導く存在になっている。愛が人格化され、「she」と呼ばれることによって、それは単なる感情ではなく、生命を導く神聖な力として位置づけられている。
「この世界は燃えているが、それでも回っている」というフレーズは、終末観的でありながらも、同時に希望的でもある。矛盾するものが同時に存在するという現実を受け入れ、その中でも生きていくという選択──それこそが「水へ向かって走る」という行為の意味なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Lightning Crashes by Live
生と死の神秘を扱ったバンド最大の代表曲。スピリチュアルなトーンと救済のテーマが共鳴する。 - The Dolphin’s Cry by Live
自然との一体感、愛と魂の共鳴を描いた詩的なバラードで、「Run to the Water」と地続きの世界観を持つ。 - With Arms Wide Open by Creed
新しい命と向き合う父親の心情を描いたバラードで、愛と信仰が交差する感覚が近い。 -
3 Libras by A Perfect Circle
繊細な感情と内面的な葛藤を描いた曲で、“聖性”と“壊れやすさ”の混在が「Run to the Water」と重なる。 -
Colorblind by Counting Crows
傷つきながらも再生しようとする心の揺らぎを、美しく描いたミニマルな名曲。
6. “水のもとへ走る”という祈りの形
「Run to the Water」は、Liveが持つ精神性とロックバンドとしてのスケール感が、もっとも調和した瞬間のひとつである。
それは単なるバラードではなく、魂を洗い流すための“祈りの歌”であり、聴く者それぞれの内側にある“水”を呼び覚ますような力を持っている。
この曲が語る“救い”とは、誰かに施されるものではなく、自ら走っていくこと、自らの意志でたどり着くこと──その過程にこそあるのだ。
水はすべてを抱擁する。痛みも怒りも、希望も愛も、すべてを沈め、再び浮かび上がらせる。
「Run to the Water」は、混沌とした世界の中で、なおも自分自身を信じることができるように、静かに、しかし力強く語りかけてくる。
“君が求めているものは、すでにその中にある”──そう囁くように、永遠に響き続ける歌である。
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