発売日: 2020年8月28日
ジャンル: インディーポップ、オルタナティブロック、アートポップ
概要
『Rookery』は、ドイツ・ハム出身のインディーバンド、Giant Rooksが2020年にリリースしたデビュー・フルアルバムであり、彼らの国際的なブレイクへの足がかりとなった作品である。
これまでEP単位で精力的に活動してきたGiant Rooksは、本作において、洗練されたポップセンスとオルタナティブロックの冒険心を高次元で融合させた。
『Rookery』では、バンド特有のリズム感、鮮やかなメロディライン、そして緻密に練られたサウンドプロダクションが見事に噛み合い、躍動感と内省を兼ね備えた豊かな音楽世界が築かれている。
タイトルの”Rookery”は、「ミヤマガラスの群生地」という意味を持ち、仲間とともに築き上げる営み、集合体としての生命力、そして若さの衝動と不安を象徴している。
Giant Rooksはこのアルバムで、個人的な感情と普遍的なテーマをリンクさせながら、繊細かつダイナミックな表現に挑んだのである。
全曲レビュー
1. The Birth of Worlds
アルバムの壮大な幕開けを飾るイントロダクション。
荘厳なサウンドスケープと浮遊感のあるメロディが、リスナーを引き込む。
2. Watershed
疾走感のあるリードシングル。
自己変革の瞬間を力強いビートと透明感のあるボーカルで描いている。
特にサビの開放感は、バンドの真骨頂とも言えるだろう。
3. Very Soon You’ll See
焦燥感と希望が交錯するナンバー。
ミニマルなイントロから徐々に展開していくドラマティックな構成が印象的。
4. Rainfalls
静かなイントロから、リズミカルなパーカッションが印象的な一曲へと発展。
リリックには、内省と自然への憧憬が滲んでいる。
5. Misinterpretations
誤解と自己探求をテーマにした、浮遊感のあるポップソング。
シンセとギターが織り成す広がりのあるサウンドが心地よい。
6. Wild Stare
EP時代からの代表曲のひとつ。
若さの爆発的なエネルギーと、ほんの少しの不安が絶妙に同居している。
サビでの高揚感はライブでのキラーチューンとしても機能している。
7. Head by Head
静と動を巧みに使い分けた、陰影の濃い楽曲。
抑制されたヴァースと解放感あふれるサビのコントラストが鮮やかだ。
8. What I Know Is All Quicksand
知識や確信すらも不安定であることを歌う、哲学的なテーマのナンバー。
リズムの緩急が独特で、聴き手の感覚を心地よく揺さぶる。
9. Heat Up
恋愛と情熱をテーマにした、アップテンポなポップロック。
熱量を感じさせつつも、どこか翳りのあるサウンドが印象的。
10. All We Are
希望と連帯感を歌い上げる、感動的なバラード。
ストリングスが静かに広がり、アルバムの中盤に優しい余白をもたらす。
11. Tom’s Diner (Cover)
スザンヌ・ヴェガの名曲を、現代的な感覚で大胆にカバー。
オリジナルへのリスペクトを保ちつつ、Giant Rooksらしい浮遊感を加えている。
12. Rookery
タイトル曲にして、アルバムのエモーショナルな核。
夢破れた若者たちの祈りと絶望、そして微かな希望を、壮大なスケールで描いている。
アルバムのフィナーレを飾るにふさわしい、深い余韻を残す名曲である。
総評
『Rookery』は、Giant Rooksが若さと不安、希望と迷いを抱えながらも、誠実に音楽と向き合った結果生まれた、見事なデビューアルバムである。
この作品の魅力は、何よりその「広がり」にある。
サウンドのレンジ、リリックのテーマ、メロディのスケール感――いずれもが、デビュー作とは思えない成熟と野心をたたえている。
それでいて、どこか素朴さや脆さを失わないところに、Giant Rooksというバンドの本質がある。
彼らは、完璧なポップソングを書こうとするのではなく、不完全な感情を、ありのまま音楽に昇華しようとする。
だからこそ、『Rookery』には、リスナー一人ひとりの物語に寄り添うだけの柔らかさと強さが宿っている。
『Rookery』は、人生の岐路に立つすべての人に向けた、若くも成熟した希望のアンセムなのである。
おすすめアルバム(5枚)
- Nothing But Thieves『Broken Machine』
オルタナティブロックとポップセンスを高次元で融合させた傑作。 - Blossoms『Blossoms』
鮮やかなメロディと青春感を併せ持つインディーポップ。 - Alt-J『An Awesome Wave』
ジャンルを越境する独創性と繊細な感情表現。 - The 1975『I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it』
ポップとアートの間を軽やかに行き来するバンドの代表作。 - Vampire Weekend『Father of the Bride』
豊かな音楽性と軽やかなリリックが魅力のインディーポップ大作。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Rookery』は、バンドメンバー自身が中心となってセルフプロデュースで制作された。
レコーディングはベルリンを拠点に行われ、アナログ機材と最新のデジタル技術をバランスよく取り入れることで、温かみとモダンな感触が共存するサウンドを実現している。
バンドは制作初期から「完璧を目指すより、誠実さを重視する」という姿勢を貫き、曲作りにおいても「リスナーに寄り添うこと」を最優先に考えたという。
このアプローチが、『Rookery』に漂う親密さとスケール感の両立を可能にしたのである。
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