1. 歌詞の概要
「Riptide（リップタイド）」は、Candleboxが2016年にリリースした5枚目のスタジオ・アルバム『Disappearing in Airports』に収録された楽曲であり、アルバムの中でもひときわ内省的で、深い精神的揺らぎと再生の意志がにじむ1曲である。
“Riptide”とは海で発生する強い離岸流を意味する言葉で、知らぬ間に自分を沖へと引きずり込んでいくような、抗いがたい力の象徴である。この曲では、そうした自然の現象をメタファーとして用いながら、自己の無力さ、愛や希望にしがみつく衝動、そしてそこからの覚醒が描かれている。
歌詞の語り手は、ある種の“感情の潮流”に飲み込まれ、もがきながらも、それでも立ち上がろうとする人物であり、その姿はリスナー自身が直面する喪失や不安、再出発の心情と重なる。
2. 歌詞のバックグラウンド
Candleboxにとって『Disappearing in Airports』は、バンド再構築の過程と共に、変化と喪失、そして進化をテーマに据えたアルバムであり、「Riptide」はその核のひとつをなす楽曲といえる。
この時期のケヴィン・マーティンは、キャリアの浮き沈みだけでなく、社会的な混乱や個人的な葛藤とも向き合っており、「Riptide」はそうした**人生の不可避な“引力”**に抗いながら、それでも歩もうとする姿勢が滲んでいる曲である。
タイトルが示す通り、これは波に流されることを否定するのではなく、いったん飲まれてから浮上することの意味を探ろうとする歌なのだ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Riptide」の印象的なフレーズを抜粋し、英語と日本語訳を併記する（出典：Genius Lyrics）：
Caught in the riptide / I can’t breathe
But I’m trying, I’m trying to believe
「引き波に飲まれて 息ができない
でも信じようとしてる まだ諦めてはいない」
You said that love would save us
But I’m drowning in your sea
「君は“愛が救ってくれる”って言ったけど
今、君の海で俺は溺れている」
I’m not afraid to let it pull me down
Just don’t let me go
「このまま沈んでもいい
でも、どうか俺を見捨てないでくれ」
この言葉から伝わるのは、自己放棄に近い疲弊と、それでもまだ誰かに手を伸ばす人間の本能である。語り手は海に飲まれながら、そこにある痛みすらも受け入れようとしている。
4. 歌詞の考察
「Riptide」は、愛と希望がもたらす救いと絶望、その両方を感情の潮流のようにゆっくりと押し寄せる楽曲構成で描き出す名曲である。グランジの荒々しい怒りや抵抗とは異なり、この曲ではむしろ降伏、沈黙、そして受容が中心的テーマとなっている。
特に興味深いのは、「飲まれてもいい」と言いながら「でも見捨てないでくれ」と願う、矛盾に満ちた感情の重層性だ。Candleboxはここで、単に「這い上がる強さ」ではなく、「沈むことを受け入れる強さ」を描いている。これは、成熟したロックバンドだからこそ表現できる、傷ついたままでも前を向こうとする姿勢の表れでもある。
また、音楽的にもこの曲は秀逸で、穏やかでありながら緊張感のあるギターと、マーティンの柔らかくも深いボーカルが、まるで波のうねりのように抑揚をつけながら感情を運んでくる。特に終盤に向けての高まりは、聴く者に**“感情の出口”をそっと開いてくれるようなカタルシス**をもたらす。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Like a Stone by Audioslave
失われたものへの祈りと、孤独の中での希望を描くソウルフルなロックバラード。 - Black by Pearl Jam
愛の記憶と喪失の痛みを詩的に綴った90年代グランジの名曲。 - The World I Know by Collective Soul
変化する世界のなかで、自分を見つめ直す静かで強いメッセージ。 - Bother by Stone Sour
自己への葛藤と希望を、鋭く繊細に描き出した内省的なロックソング。 - Hear You Me by Jimmy Eat World
別れの後に残された愛と祈りを、やさしく包み込むように歌った叙情作。
6. “流されることも、抗うことも、どちらも人間らしい”
「Riptide」は、流されながらも生きようとする人のための歌である。沈むことは恥ではない、飲まれてしまう瞬間があってもいい。大切なのは、そこから再び浮上する勇気を持つこと——この曲は、そのことを静かに教えてくれる。
現代は、誰もが“情報”や“他人の期待”という名のリップタイドに飲み込まれがちな時代だ。そんなとき、「Riptide」は、抗うことに疲れた心に優しく寄り添い、“ただ感じること”を肯定してくれる。Candleboxの成熟と人間理解の深さが結晶したこの楽曲は、沈黙の中にこそ強さがあるということを、今この時代に静かに響かせている。
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