1. 歌詞の概要
「Put Me Thru」は、**Anderson .Paak(アンダーソン・パーク)**が2016年にリリースした傑作アルバム『Malibu』に収録された、ファンキーでスウィンギーなグルーヴと、複雑な恋愛模様を描いたユーモラスかつシニカルな楽曲である。
タイトルの「Put Me Thru(俺にひどいことをしてくれるなよ)」という言葉が示す通り、この曲は恋人に振り回され続ける男のぼやきをベースに展開される。
彼女の理不尽さや気まぐれに対して、「なんでそんなに苦しめるんだよ」と文句を言いつつも、結局は彼女に惹かれてしまうという、どうしようもない関係性が描かれている。
しかしそれを悲劇的に語るのではなく、ファンクとゴスペルを交えた軽快なビートと洒落の効いたリリックで描くことで、苦笑いと共感が同居する“愛すべき愚かさ”の物語となっているのが本曲の最大の魅力である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Malibu』は、Anderson .Paakが本格的に世界的な注目を集めるきっかけとなった作品であり、「Put Me Thru」はその中でも比較的短く、シンプルでポップなトラックだが、アルバム全体の感情的バランスを保つ重要なピースである。
この楽曲のプロダクションには、PaakのバックバンドThe Free Nationalsが参加し、オールドスクール・ファンクやソウル、さらに教会音楽的なゴスペル要素を織り交ぜた生演奏感の強いサウンドに仕上げられている。
特に、ゴスペル風のコーラスと手拍子が「苦しみ」を“儀式化”し、恋に傷つくことすら祝福されるようなパロディ的構造をつくり出している。
また、.Paak本人も本曲について「失恋ではなく、“恋の泥沼”の最中の男の叫び」だと語っており、それゆえにこの曲はどこか爽快で、前向きですらある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Why you gotta be so cold, girl?
なんでそんなに冷たいんだよ、ベイビー?Why you gotta put me thru it?
なんでそんな仕打ちをするんだよ?I thought I was your man
俺は君の男だと思ってたのにさAnd now you got me feelin’ stupid
今じゃ俺、ただのバカみたいじゃないか(Put me thru, put me thru, put me thru…)
(苦しめて、苦しめて、苦しめて…)
出典:Genius.com – Anderson .Paak – Put Me Thru
このリフレインのような“put me thru”の繰り返しが、恋愛における堂々巡りや、やめたいのにやめられない心情を見事に体現している。
文句を言いつつも、どこか「またやられるだろうな」と悟っている、皮肉混じりの自己認識がにじむフレーズだ。
4. 歌詞の考察
「Put Me Thru」は、恋愛関係における“理不尽なまでの忍耐”と“感情的依存”を、笑いとリズムに昇華した楽曲である。
本曲の主人公は、明らかに彼女に振り回されている。
それに対して怒りをあらわにするのではなく、“しょうがないなぁ”という苦笑いと、どこか諦めの感情で向き合っている。
それが「I thought I was your man」というラインに象徴されており、彼女の態度に困惑しながらも、まだ“彼氏”でありたい自分の姿が垣間見える。
また、「Put me thru」という語感自体に、どこかリズミカルでユーモラスな響きがあり、“痛み”すらグルーヴに変えていくのがこの曲の最大の魔力である。
ゴスペル風のコーラスは、まるで恋に苦しむ者たちの聖歌隊のように、愚かで美しい愛の物語を祝福している。
さらに、この曲の魅力は、恋愛における“非対称性”のリアリズムにある。
自分がどれだけ与えても、相手がそれに応えてくれるとは限らない。
でも、それでもやめられない――このどうしようもない感情こそ、多くの人が知っている“恋愛の真実”なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Cranes in the Sky by Solange
心の空虚を埋めようとする試みの中にある、静かな苦しみと誠実さ。 - Uptown Funk by Mark Ronson feat. Bruno Mars
ファンクを現代に再解釈し、踊れるグルーヴで感情を昇華させた代表曲。 - Leave the Door Open by Silk Sonic(Bruno Mars & Anderson .Paak)
懐かしいソウルをベースに、恋人を誘う洒落っ気満点の名バラード。 - What’s Going On by Marvin Gaye
個人的な葛藤を社会的文脈と結びつけたソウルの金字塔。感情の深さとメッセージ性を併せ持つ。
6. 恋愛はバカげていて、美しい ― “Put Me Thru”という愛の皮肉
「Put Me Thru」は、恋の痛みを笑ってやり過ごすための、ファンクの魔法である。
悲しいのに、どこか楽しい。
怒っているのに、また会いたくなる。
そうした矛盾と人間臭さを、音楽として包み込み、踊れる喜劇に変えるのがAnderson .Paakの真骨頂だ。
**「Put Me Thru」**は、
“もうこりごり”と言いながらも、
なぜかその愛を手放せないすべての人のための、ユーモラスなラブアンセムである。
そのバカバカしさこそ、恋のリアル。
そして、それを歌にできることこそ、音楽の強さなのだ。
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