
発売日: 2016年4月1日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、エレクトロニカ、アートロック
新たな音像への変革——Autoluxの大胆な進化
2016年にリリースされたAutoluxの3rdアルバムPussy’s Deadは、バンドの音楽性が大きく変化した作品だ。過去2作のシューゲイズ的なフィードバック・ノイズやポストパンクの影響を残しつつも、本作ではエレクトロニカやヒップホップ的なリズム構造が前面に押し出されている。
本作のプロデューサーには、Run the Jewelsのプロダクションで知られるBoots(BeyoncéのLemonadeにも関与)が起用され、Autoluxのサウンドにエレクトロニックな要素とヒップホップ由来のグルーヴが注入された。結果として、彼らの持つ独自の浮遊感とミステリアスなムードはそのままに、新たなリズム感とダークなアトモスフィアが加わった。
全曲レビュー
1. Selectallcopy
ドラムマシンのようなリズムと、低音の効いたシンセが印象的なオープニングトラック。ヴォーカルは歪みのかかったエフェクトが施され、冷ややかな質感が際立つ。これまでのAutoluxとは異なるアプローチが明確に打ち出されている。
2. Soft Scene
エレクトロニックなビートと浮遊感のあるギターが交錯する。ダークなベースラインが楽曲を牽引し、オルタナティブとトリップホップの中間的なサウンドを生み出している。
3. Hamster Suite
囁くようなボーカルとアンビエントなシンセが特徴のトラック。ミニマルな構成ながらも、音の隙間が独特の緊張感を生んでいる。
4. Junk for Code
ドリーミーなメロディとメカニカルなリズムが組み合わさり、未来的なサウンドスケープを作り上げる。ドラムは生演奏ながらもプログラム的な精密さを持っており、Autoluxの新たな方向性を象徴する一曲。
5. Brainwasher
ダーティなベースと実験的なビートが特徴の楽曲。インダストリアルな質感を持ちながらも、ポップなメロディラインが重なり、不穏ながらも中毒性のあるサウンドになっている。
6. Listen to the Order
静寂とノイズのバランスが際立つトラック。囁くようなボーカルと、幽玄なギターが交錯し、映画的なムードを醸し出している。
7. Reappearing
シンプルなリフの反復と、ミニマルなドラムが印象的な楽曲。リズムの緻密な構築が際立ち、控えめながらもグルーヴのあるトラックに仕上がっている。
8. Change My Head
トリップホップ的なビートが基盤にあり、ぼんやりとしたシンセと絡み合う。楽曲全体に漂うミステリアスなムードが魅力的で、アルバムの中でも特に浮遊感が強い。
9. Becker
エフェクトのかかったギターと、レトロフューチャー的なサウンドデザインが特徴的。メカニカルなビートが繰り返され、オルタナティブな要素とエレクトロニックな要素が絶妙に融合している。
10. Anonymous
アルバムを締めくくるダークでメロディアスな楽曲。静謐なパートからノイズの渦へと変化し、Autoluxらしい美学が集約されたフィナーレを迎える。
総評
Pussy’s Deadは、Autoluxが新たな音楽性を開拓したアルバムだ。従来のシューゲイズ的アプローチに代わり、エレクトロニックな質感やヒップホップ的なリズムが導入され、ダークでミニマルなサウンドが強調されている。
プロダクションの洗練度が増し、ビートやベースラインがより精密にコントロールされることで、従来のAutoluxの持つ浮遊感とは異なる、アーバンでクールなサウンドスケープが生み出された。My Bloody ValentineやSonic Youthの影響から脱却し、より現代的で多層的な音楽性へと進化した本作は、エレクトロニカやトリップホップ的要素を求めるリスナーにとって、新たなAutoluxの魅力を発見できる作品となっている。
おすすめアルバム
- Massive Attack – Mezzanine (1998)
ダークなトリップホップとエレクトロニカの融合が、Pussy’s Deadの雰囲気と共鳴する。 - Nine Inch Nails – Year Zero (2007)
インダストリアルな質感とミニマルなアレンジが、Autoluxの進化したサウンドとリンクする。 - Portishead – Third (2008)
ローファイなテクスチャーと不穏なムードを持つ、トリップホップの名盤。 - FKA twigs – LP1 (2014)
ミニマルで精密なビートと、実験的なサウンドデザインがAutoluxの新たな側面と共通する。 - Radiohead – The King of Limbs (2011)
エレクトロニックなリズムとアートロック的なアプローチが、Pussy’s Deadの音楽性と重なる。
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