
― 黒人音楽・ポップ・ロックの垣根を壊したマスターピースを掘り下げる
本日は、1984年にリリースされ、Princeの代表作かつ80年代ポップ・カルチャーの象徴とも言えるアルバム『Purple Rain』をテーマに深掘りしていきます。R&B、ファンク、ポップス、ロックといったジャンルの垣根を自在に乗り越えたPrinceの音楽は、どのようにして世界を魅了し、時代を変えたのか。その歴史的意義と革新性について、大いに語っていきたいと思います。
今回お話をうかがうのは、ニューヨーク・ブロンクス出身で、90年代ヒップホップやR&Bを中心に音楽シーンの社会的・文化的文脈を掘り下げてきた**Marcus Steele(マーカス・スティール)さん。そして、70年代のクラシックロック黄金期をリアルタイムで体験し、ロックのレジェンドやヴィンテージ機材に精通するDavid Richardson(デイビッド・リチャードソン)**さんのお二人です。プリンスの音楽をそれぞれの視点から解説いただきたいと思います。どうぞお楽しみください。
歴史的背景とPrinceの衝撃
インタビュアー:
さっそくですが、『Purple Rain』リリース当時の音楽業界や社会的な雰囲気を、まず簡単に振り返ってみたいと思います。1980年代前半というとMTVの台頭が大きく、音楽と映像が密接に結びつき始めた時代でしたよね。そういった背景の中で「Prince」という存在がどれほどの衝撃を与えたのか、お聞かせいただけますか?
Marcus(マーカス):
いやあ、80年代前半って、MTVが登場して急に「ビジュアル」へのアプローチが音楽界で重要視されはじめた時代でした。マイケル・ジャクソンが『Thriller』で世界を席巻して、黒人アーティストのMTV露出が増え始めた矢先に、Princeが独自のスタイルとサウンドで一気に注目を集めたんですよ。特に彼のファッションはエキセントリックかつセクシー、そして音楽的にもファンク、R&B、ポップ、そして時にはロックのギターソロまで何でも取り込んでいて、もう「Prince=唯一無二」だった。僕がティーンエイジャーのときに初めて聴いた瞬間、「うわ、こりゃすごい奴が出てきたぞ」と震えたのを覚えてます。
David(デイビッド):
私の場合は、やはりロック目線でPrinceを観ていました。80年代に入るとディスコの衰退とともに、ハードロックやヘヴィメタルが新たに息を吹き返していた時期でもあった。そんな中でPrinceは、ジミ・ヘンドリックスを彷彿とさせるギタープレイや、ド派手なステージアクションを武器に「黒人音楽とロックの垣根」を大胆に飛び越えていった印象が強いですね。今までのファンクやR&Bシーンではタブー視されがちだった「ギターのヒーロー的存在感」を、Princeはあっさりと自分のものにしてしまったわけです。それが『Purple Rain』リリースの頃には、もう誰もが認める“時代を象徴するスター”になっていた。
ジャンルを超えた音楽性
インタビュアー:
まさにPrinceは、黒人音楽、ポップ、ロックなどの境界を軽々とまたいでしまったアーティストだと思います。『Purple Rain』という作品の中でも、その「ジャンルレス」な姿勢が顕著ですが、お二人が特に注目する曲や特徴はありますか?
Marcus(マーカス):
僕がまず印象的なのは「When Doves Cry」ですね。ドラムマシンの硬質なリズムとシンセサウンド、そこにファンクの要素が混ざり合いつつ、ギターも鋭いフレーズを刻む――でもベースラインがない! これが当時、かなり斬新でした。普通はファンクなら特に「ベースを前面に出す」のがセオリー。でもPrinceはあえてベースをほとんど入れずに、スカスカの空間を作って、逆にヴォーカルやギターをグッと立たせるという手法を選んでる。これだけで「この人、何だか常識外のアプローチをしてるな」と思ったもんです。
David(デイビッド):
私は「Let’s Go Crazy」の冒頭に流れる説教のようなモノローグに続いて、一気に沸騰するロックンロールの盛り上がりに度肝を抜かれました。あれは教会音楽やゴスペルの要素さえ感じさせるし、そこにロックのエネルギーが融合している。極め付けは曲終盤のギターソロですよ。強烈なディストーションを効かせながらも、メロディアスで、そこにはファンクのグルーヴ感も混ざっていて、「一体どのジャンルなんだ?」と。結局、Princeは「自分がやりたいことを全部やってしまう」という大胆さで、結果的に全てのジャンルを掌握してしまったといえますね。
アルバム制作の舞台裏
インタビュアー:
では、『Purple Rain』がどのように作り上げられたか、その制作背景について話していただけますか。映画「パープル・レイン」との相乗効果もあって大成功を収めましたが、その裏側にはどんなドラマがあったのでしょう?
Marcus(マーカス):
Princeは当時、The Revolutionというバンドを率いていたわけですが、スタジオでのレコーディングだけじゃなく、ライヴ録音やリハーサルテイクを重ねて、その上にオーバーダブするという独特の方法で音源を作っていたそうです。「I Would Die 4 U」や「Baby I’m a Star」なんかはコンサート音源をベースにしている部分もあるって聞いたことがあります。ライヴの熱狂とスタジオの完成度をうまくミックスして“唯一無二”のサウンドを作っているんです。
それから映画の方は、Prince自身がある種の“自伝的ストーリー”としてアイデアを出し、監督やプロデューサーと何度も議論して作り上げたと聞いています。若くして成功を求めながらも家庭の問題やバンド内の軋轢を抱える主人公――それが「ザ・キッド」というキャラクターで、あれはもうPrinceそのものですよね。音楽だけじゃなく、映画やファッションなどビジュアル面でも強いリーダーシップを発揮していたのがPrinceらしい。
David(デイビッド):
確かに映像とセットで『Purple Rain』を理解すると、より面白いですよね。あと、あのアルバムを象徴する曲「Purple Rain」は、ほぼライヴの一発録りがベースと言われている。ミネアポリスのファースト・アベニューというクラブでのチャリティ・コンサートの音源を使って、コーラスやストリングスなど必要なパートを後からオーバーダブしているそうです。スタジオ録音では表現しきれない「空気感」と「感情の爆発」を、なんとか作品に閉じ込めようとしていたのが伝わってきますよね。実際、あのドラマチックなエンディングはライヴならではの盛り上がりがあって、ロック・バラードとしてはもう完璧じゃないでしょうか。
Purple Rainのライブ・パフォーマンス
インタビュアー:
いま「ライヴ」というキーワードが出ましたが、Princeといえば派手な衣装や官能的なステージング、そして圧倒的なギタープレイが有名です。映画「パープル・レイン」のクライマックスでも圧巻のステージが描かれていますが、実際にライブではどんな感じだったのでしょう?
Marcus(マーカス):
プリンスのライブは、あれはもう一種の“儀式”ですよ。セクシーさやファンクのグルーヴと同時に、あの人は正真正銘の“ミュージシャン”でもあるから、ギターでシャウトするし、踊りながらキーボードを弾いたりもする。ステージ上での一挙手一投足がすでにパフォーマンスになっていて、しかもバンドを手のひらで転がすような仕切り方がまた上手い。The Revolution時代もそうだし、その後のNPG(New Power Generation)時代なんかは、さらにジャム要素が強くなっていたと思います。
「Purple Rain」はやはりライブでの“締め”にふさわしい曲。大合唱が起きるし、あの泣きのギターソロでは観客が自然に手を挙げたり、ライトを振ったりしてね。ライヴ映像を観ると、ほんと鳥肌が立ちます。
David(デイビッド):
私もロンドンで一度だけPrinceのライヴを観る機会があったんですが、いわゆる“ロックのライブ”とはまた違う独特の熱狂がありました。ファンクのビートで踊らせつつ、いきなりギターソロでロック色を前面に出してくる。オーディエンスもポップスやR&B、ロックのファンが入り混じっているから、客層自体が多様なんです。でも一度始まると、みんなが一体となって“プリンス教”に引きずり込まれる感じ(笑)。「Purple Rain」はその頂点を象徴する楽曲でしたね。
現代への影響と今後の評価
インタビュアー:
アルバム『Purple Rain』は、80年代のみならず今でも色あせない魅力を持ち、多くのアーティストに影響を与え続けています。改めて、その影響力についてお二人のお考えをお聞かせください。また今後、Princeのレガシーはどのように評価されていくと思いますか?
Marcus(マーカス):
Princeがいたからこそ、ジャンルを超えたコラボレーションやクロスオーバーが「当たり前」のムーブメントになった部分は大きいと思います。たとえば、のちにヒップホップとロックが合体したり、R&B歌手がロック・フェスに出演するケースが増えたりしたのも、Princeの先駆的なモデルがあったからでしょう。さらに、性別や人種、セクシャリティの表現などでも、Princeの“ジェンダーレスなイメージ”はポップス界における一種の革命だったんじゃないかと。現代のアーティストたちが自由に自己表現できる道を切り開いたとも言えますね。
David(デイビッド):
私もPrinceのレガシーは非常に大きいと思いますよ。技術的な話をすると、ギター・サウンドの多様な使い方をR&Bやポップスの文脈で確立した功績は計り知れない。ジミ・ヘンドリックス以来、黒人アーティストが「ギターのアイコン」になるのは非常に稀なケースでしたから。さらに、作曲・編曲・プロデュース・演奏まですべてをコントロールできる“マルチ・アーティスト”のロールモデルを体現していた点も見逃せません。今ではBedroom Producerが当たり前になりましたが、その“すべてを自分で操る”姿勢を最初にメジャーなレベルで実践したのがPrinceと言ってもいいでしょう。
今後も、音楽史におけるPrinceの存在はますます再評価されると思います。作品のリマスターや未発表音源のリリースも続いていますし、それをきっかけに新世代のリスナーが「昔の音楽なんだろうけど、新鮮に聴こえる」と興味を持ってくれるはずです。きっと、何十年先でも“枠を超える”アーティストの代表として語り継がれるでしょうね。
インタビュアーのラップアップ
インタビュアー:
本日は、Princeの『Purple Rain』について、マーカスさんとデイビッドさんに熱い語りを披露していただきました。80年代という時代の追い風とMTVの影響、そこにPrinceならではの独自性と革新的なサウンドが合わさり、時代を超越した“音楽革命”が起きた――そんな印象が改めて強く残りました。
『Purple Rain』は、黒人音楽・ポップ・ロックの垣根を壊し、“アーティストとしての完全なる自己実現”を遂げた作品と言えるでしょう。映画とアルバムが一体となったメディア・ミックス戦略やライブの圧倒的な存在感も含め、Princeはまさに多面的な才能を全開にしてシーンを牽引しました。
読者の皆さんは、Princeの『Purple Rain』をどのように感じていますか? もしまだしっかり聴いたことがないという方は、ぜひこの機会にアルバムと映画をあわせて体験し、彼が生み出した80年代の音楽革命を肌で味わってみてください。
「あなたにとっての『Purple Rain』はどんな衝撃をもたらしましたか?」
ぜひ思い出や感想をシェアしていただけると嬉しいです。次回もどうぞお楽しみに。
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