Promises by Def Leppard（1999）楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Promises」は、Def Leppardが1999年にリリースしたアルバム『Euphoria』からの先行シングルであり、バンドが再び“黄金期のサウンド”へと回帰したことを示す代表的な楽曲である。歌詞のテーマは「裏切られた約束」と「信じることの痛み」。恋愛関係において口にされる甘い言葉や誓いが、結局は守られずに崩れ去ってしまうという苦い現実を描いている。
「Promises」は単なる失恋ソングではなく、愛を信じることそのものが持つ危うさを告白するような内容であり、タイトルが示す「約束」が持つ二面性――希望と裏切り――を強調している。サウンドはキャッチーかつ力強く、シンガロング可能なコーラスが楽曲全体を高揚させ、歌詞の切実さと対比する構造になっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

1990年代のDef Leppardは、グランジやオルタナティヴ・ロックの台頭に押され、80年代のアリーナ・ロックの王者という地位を失いかけていた。1996年の『Slang』では意図的に実験的な方向性を模索したが、ファンや批評家から賛否が分かれた。そこで1999年の『Euphoria』では、再び『Hysteria』や『Pyromania』を思わせる“クラシックDef Leppardサウンド”への回帰を目指したのである。
「Promises」はその象徴的シングルであり、全米Mainstream Rockチャートで1位を獲得。ラジオで大量にオンエアされ、バンドにとって1990年代後半を代表するヒットとなった。ギターリフ主体の明快なアレンジ、分厚いコーラス、そしてキャッチーなサビは、80年代的なDef LeppardのDNAを取り戻したことを強く印象づけた。
なお、この曲のソングライティングには、ギタリストのフィル・コリンと、後にカントリー／ポップ界で成功するソングライター、マット・ランゲ（かつての黄金期プロデューサー）の影響を受けたスタイルが見て取れる。つまり「Promises」は、過去の栄光と現在のDef Leppardをつなぐ重要な楽曲でもあった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

（歌詞引用元：Def Leppard – Promises Lyrics | Genius）

You made me promises, promises
君は僕に約束をした、数え切れないほどの約束を

Knowing I’d believe, promises
僕が信じてしまうとわかっていての約束だった

You knew you’d never keep
君は守るつもりがないとわかっていたのに

Promises, promises
約束、約束――ただの言葉

I’ve had enough of promises, promises
もううんざりなんだ、そんな約束には

歌詞の反復は、信じては裏切られるという無限ループを象徴しており、愛における「約束」という言葉の虚しさを痛烈に描き出している。

4. 歌詞の考察

「Promises」は、Def Leppardのラブソングの中でも特に“裏切りと失望”を強調した作品である。ここで歌われる約束は、愛の証としての前向きなものではなく、むしろ「嘘の象徴」として描かれている。語り手は「分かっていながら信じてしまった」自分を悔い、しかしなおその言葉が忘れられない。つまり、この曲は「愛への依存」と「裏切られる痛み」の間で揺れ動く人間の心情を突き刺す。
また、サウンドと歌詞の対比も重要だ。明るくキャッチーなメロディに乗せて悲痛な心情を歌うことで、聴き手は自然と口ずさみながらも、歌詞の痛烈さに気づくという二重構造になっている。これはDef Leppardが得意とする手法であり、「Pour Some Sugar on Me」などの享楽的な曲とは正反対のテーマを扱いながらも、同様に大衆性を持たせることに成功している。
さらに、「Promises」がリリースされた90年代後半という時代背景を考えると、グランジ的なシリアスさやオルタナ的な内省に対し、Def Leppardは自らの王道路線を再確認するかたちで応答した作品ともいえる。つまりこの曲は、単なる失恋ソングにとどまらず、バンドの自己再生を象徴するメタファーとしても読むことができるのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

• Love Bites by Def Leppard
  愛の痛みを官能的に描いた代表的バラード。約束と裏切りというテーマが響き合う。
• Bringin’ On the Heartbreak by Def Leppard
  初期の切ないバラード。裏切りの痛みをストレートに描いた作品。
• Foolin’ by Def Leppard
  愛に翻弄される不安と葛藤を描いた『Pyromania』収録曲。
• Don’t Cry by Guns N’ Roses
  愛の喪失と未練を壮大に描いたバラード。感情の昂ぶりが「Promises」と共通する。
• Bed of Roses by Bon Jovi
  誓いと裏切り、欲望と愛の狭間を歌う90年代の代表的バラード。

6. 「Promises」が象徴するもの

「Promises」は、Def Leppardが1990年代に直面した試練を乗り越え、“原点回帰”を果たした象徴的な楽曲である。サウンドは『Pyromania』や『Hysteria』を思わせるキャッチーさを取り戻しながらも、歌詞は90年代的なシリアスさを反映し、裏切りと愛の不安をテーマに据えている。
ライブでは観客が一斉に「Promises, promises」とシンガロングする場面が生まれ、悲しみのテーマを「共有する力」に転換することに成功している。
結果としてこの曲は、Def Leppardの90年代における再生と誇りを象徴するアンセムであり、ファンにとっては「もう一度自分たちのバンドが帰ってきた」と感じさせる決定的な楽曲となったのである。