発売日: 1988年12月11日(日本:1988年10月21日)
ジャンル: ハイエナジー、ユーロビート、ダンス・ポップ
概要
『Nude』は、Dead or Aliveが1988年に発表した4作目のスタジオ・アルバムであり、グローバルな商業展開というよりも、日本を中心としたアジア市場を強く意識して制作された作品である。
前作『Mad, Bad, and Dangerous to Know』で築いたハイエナジー・スタイルをさらに推し進めつつ、日本のバブル期ディスコ文化におけるユーロビート/ハイエナジーへの需要と完璧に呼応した内容となっている。
プロデューサーにSAWの名はないが、当時のマイク・ストックとマット・エイトケンの流れを汲んだ音像は保たれ、デジタルで煌びやかなサウンドと機械的なビートが全編を貫いている。
そして何より、ピート・バーンズのヴォーカル表現がより「演じる」方向に振り切れ、性別や国境を超えたアイコンとしての姿が完成しつつあるのがこの作品である。
シングル「Turn Around and Count 2 Ten」が日本で大ヒットを記録し、本作はオリコンでも好成績を収めた。
その意味で、『Nude』はDead or Aliveが“世界のポップバンド”ではなく、“日本のダンスアイコン”として二度目の黄金期を迎える契機となった記念碑的アルバムなのである。
全曲レビュー
1. Turn Around and Count 2 Ten
日本を中心にヒットした代表曲。
極端にキャッチーなメロディ、手拍子のようなビート、そして繰り返されるタイトルフレーズが、ダンスフロア向けに最適化されている。
ピート・バーンズのヴォーカルも激しく、挑発的。ユーロビートとハイエナジーの完璧な融合形。
2. Give It Back That Love Is Mine
切なさを含んだメロディが印象的なラブソング。
「奪われた愛を返して」というフレーズが、ポップでありながらも悲劇的な響きを持つ。
サウンドは華やかだが、歌詞と歌い方には哀愁が漂う。
3. Baby Don’t Say Goodbye
デジタルシンセのアタックが強く、疾走感に満ちたダンストラック。
“さよならを言わないで”という恋の終わりへの抵抗が、ビートの中に埋め込まれている。
きらびやかな音像が1988年という時代をそのまま映している。
4. Stop Kicking My Heart Around
タイトルが示す通り、心をもてあそぶ相手への怒りと悲しみをぶつけるナンバー。
ヴォーカルは攻撃的で、コーラスとともに強い感情をリズムに乗せて叩きつけるように歌われる。
ダンスとドラマが融合した構成。
5. Come Home (With Me Baby)
のちにシングルカットされるアップテンポなラヴ・ソング。
クラブ向けの強力なビートと、“家に帰ろう”という直截な甘い誘いのリリックが合わさり、心地よい多幸感を生み出している。
SAWの系譜にあるメロディ構成が光る。
6. I Don’t Wanna Be Your Boyfriend
タイトルとは裏腹に、楽曲はポップでキャッチー。
“恋人になりたくない”という拒絶の言葉を、陽気なリズムに乗せて歌うことで、独特なアイロニーが生まれている。
バーンズのユーモアと反骨精神がにじむ一曲。
7. Get Out of My House
ラテン調のパーカッションが導入された異色のナンバー。
エスニックなテイストと怒りの感情が交錯し、“私の家から出て行け”というフレーズが一種の呪文のように繰り返される。
構成にドラマ性があり、舞台的な迫力を持つ。
8. I Cannot Carry On
バラード寄りのミッドテンポで、バーンズの弱さや疲弊を見せる楽曲。
“もう続けられない”というメッセージが、アルバム中でも異彩を放つ。
その告白性の高さが、逆に強さとして聴こえる。
9. My Forbidden Lover
Chicによるディスコ・クラシックのカバー。
オリジナルのファンクネスに比べると、テンポは速く、よりエレクトロ・ダンス寄りにアレンジされている。
Dead or Aliveのフェティッシュで官能的な美学がうまく反映された仕上がり。
総評
『Nude』は、Dead or AliveがSAWの手を離れ、自らのダンス・ポップ像を再構築した作品であり、同時に“日本で最も成功した英国バンドのひとつ”としての地位を確立した転機でもある。
その音楽性はハイエナジーとユーロビートに完全にシフトしており、もはやニューウェイヴという文脈よりも、“身体で踊るためのポップ”として独自の進化を遂げている。
ピート・バーンズの表現はますます演劇的かつフェティッシュに、そしてボーカルスタイルもよりエクストリームなものとなっており、歌詞や構成からはクラブ・カルチャーへの深いコミットメントと、ポップであることへの誇りが読み取れる。
この作品を境に、Dead or Aliveは“UKバンド”から“グローバルなダンス・アイコン”へと変貌を遂げた。
『Nude』は、まさにその化粧を施した鏡のような、魅惑と虚構と現実の入り混じるアルバムである。
おすすめアルバム(5枚)
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Mel & Kim / F.L.M. (1987)
SAW直系のハイエナジー・ダンス・ポップ。グルーヴとビートの快楽主義。 -
Samantha Fox / I Wanna Have Some Fun (1988)
同時代のセクシャルでアグレッシブな女性像とダンス・サウンドの融合。 -
Kylie Minogue / Enjoy Yourself (1989)
80年代末のポップ×クラブカルチャーを象徴する一枚。 -
Jason Donovan / Ten Good Reasons (1989)
“耳あたりの良さ”と“機械的美”のバランスが近似。 -
Tasha / Don’t Let Go (1987)
日本のハイエナジー・ムーブメントにおける秘蔵名盤。『Nude』の精神的隣人。
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