1. 歌詞の概要
「Not Only Numb（ただ麻痺しているだけじゃない）」は、Gin Blossoms（ジン・ブロッサムズ）が1996年にリリースした2ndアルバム『Congratulations… I’m Sorry』に収録された楽曲であり、アルバム後半において“感情の麻痺”と“過去への未練”を描いた、内省的かつ鋭さを持ったナンバーである。
タイトルにある「Not Only Numb」は、「ただ感覚が失われているわけじゃない」という否定形で語られており、そこには“傷ついていることさえ感じられなくなった状態”に対する静かな反抗心が含まれている。
つまり、心が鈍くなったのではない――それは感じすぎて、壊れないために麻痺しているのだ。そんな感情の“防衛反応”を中心に据えた歌詞が、淡々としたロックサウンドにのせて語られていく。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲が収録された『Congratulations… I’m Sorry』は、Gin Blossomsにとって極めて重要なアルバムであり、1993年にバンドを離れたソングライターDoug Hopkinsの死という衝撃的な出来事を受けて制作された作品である。
Hopkinsの存在が欠けたことにより、アルバム全体はより内省的で、感情を抑えたトーンが支配しており、「Not Only Numb」もまたその文脈の中に位置づけられる。
歌詞には特定の出来事や人物は登場しないが、「ただ麻痺しているだけじゃない」という繰り返しには、“心がどこか壊れかけている”ことを自覚しながらも、なおも感情を持ち続ける意志がある。
それは、かつてHopkinsが描いてきたような、壊れそうな人間の“壊れきらない部分”を継承するかのような感触でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Not Only Numb」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“I don’t feel the same today / I’m just not thinking straight”
「今日はなんだか違う気がする / 思考がまっすぐじゃないんだ」
“Not only numb / Not only broken”
「ただ麻痺してるだけじゃない / 壊れてるだけじゃない」
“Some of me’s still here”
「まだここに残っている“自分の一部”がある」
“If you asked me what I wanted / I’d say it’s you”
「もし君が望みを聞いてくれたら / 僕は“君”って答えるよ」
“But it’s late, and I’m tired, and I’ve been here before”
「でももう遅いし、疲れてるし、こんなの何度目か分からない」
歌詞全文はこちらで確認可能：
Gin Blossoms – Not Only Numb Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Not Only Numb」は、Gin Blossomsの楽曲のなかでも特に“感情の鈍化”と“それでもまだ残っている何か”のあいだにある揺れを、誠実に描いた作品である。
とりわけ、「Some of me’s still here（僕の一部はまだここにいる）」というラインは、この曲の核心だ。
人は傷つきすぎると、痛みを感じることをやめようとする。だが、それでも“感情のかけら”は残り続ける。その痛みと救いの両義性が、この一文に凝縮されている。
また、「君が望みを聞いてくれたら、“君”って答えるよ」という告白には、明確な未練と再生の可能性がある。だが同時に、「でももう遅い」という冷ややかな諦めもセットで語られる。
これは、愛や夢が叶う可能性がないと分かっていながら、なおもそれを心の奥で捨てきれない人の“静かな苦しみ”である。
そして曲全体を通して「Not only numb（ただ麻痺してるだけじゃない）」という否定形を繰り返すことで、“心が動いていないふりをしているだけ”という微妙な心理状態を明かしている。
それは、自分の壊れかけた部分と対峙しながら、感情を完全に手放さない、ある種の“希望の残響”でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Push by Matchbox Twenty
関係の中で疲弊しつつも感情を手放せない、“痛みのあるリアリズム”を描いた名曲。 - Name by Goo Goo Dolls
自分を隠すことと、それでも誰かに気づいてほしいという願いが交錯するバラード。 - Bethamphetamine (Pretty, Pretty) by Butch Walker
感情が崩壊しそうな状態を、あえてポップに歌った苦味あるポップ・ロック。 - A Long December by Counting Crows
時間に希望を託しながらも、心の奥底では立ち止まっている人間の描写が共鳴する。 - Just a Day by Feeder
感情を遮断しながらも、何かを取り戻したいという焦燥が疾走感とともに描かれる。
6. “感じることをやめたくない人のために”
「Not Only Numb」は、痛みや疲労の末に“感情を凍らせている”状態の人間を描きながらも、そのなかにある“まだ感じたい”という意志を見逃さない作品である。
それは、“壊れていくこと”を否定するのではなく、“壊れきれないこと”の意味をそっと肯定してくれる。
この曲が持つ力は、絶望のなかに希望を提示するのではなく、“絶望のなかに希望がまだ残っていることを確認させてくれる”ところにある。
「Not Only Numb」は、“何も感じていないふり”の奥にある叫びを、誰にも聞こえない声でそっと歌いかける、Gin Blossomsならではの誠実なロック・バラードである。
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