アルバムレビュー：Not Like Other Girls by S.O.A.P.

発売日: 1998年3月18日
ジャンル: ユーロポップ、ティーン・ポップ、ダンス・ポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
6. 制作の裏側

概要

『Not Like Other Girls』は、デンマークの姉妹デュオS.O.A.P.（Sisters of Asian Power）が1998年にリリースしたデビューアルバムであり、
90年代後半のユーロポップ黄金時代に現れた“異色のポップユニット”の代表作である。

プロデューサーは、Aquaの「Barbie Girl」を手がけたソレン・ラスムセン。
この時点で音の方向性は明確で、キラキラとしたシンセ、跳ねるようなビート、キッチュなユーモアが全編を貫く。
だがS.O.A.P.は、AquaやCartoonsとは一線を画し、よりガーリーでクール、時にシニカルな視線を持ったティーンエイジャーの物語を描いていた。

アジア系デンマーク人の姉妹というルックスも注目を集め、特に「This Is How We Party」は日本を含む世界中のチャートを席巻した。
“普通の女の子とは違う”ことを肯定する姿勢は、ポスト・スパイスガールズ時代のガールパワーの新たな形を体現している。

全曲レビュー

This Is How We Party

イントロのシンセから爆発的な多幸感を放つ、90sポップのマスターピース。
週末の自由と友達との絆を祝う、いわば“ティーンの国歌”のような存在。
「これが私たちのパーティのやり方」＝誰にも縛られない生き方への宣言でもある。

Ladidi Ladida

語感の楽しさが前面に出た、キッチュで軽快なポップチューン。
しかし歌詞には、退屈な日常から抜け出したいという潜在的な願いが込められており、
単なるおふざけにとどまらない魅力がある。

Stand by You

アルバム中でもっともエモーショナルなスローナンバー。
「あなたのそばにいる」と繰り返す言葉には、友情とも恋愛とも取れる多義性があり、
10代の揺れる心情を繊細に捉えている。

Not Like Other Girls

タイトル曲。ギターとエレクトロの要素を取り入れた異色作。
「私は他の子たちとは違う」と繰り返すそのスタンスは、
周囲に合わせることを強要されるティーンにとっての救済のような一曲である。
ガールズポップにありがちな「可愛さ」ではなく、「個性」を祝福する姿勢が光る。

Romeo & Juliet

現代版ロミオとジュリエットの恋愛観をポップに描いたミディアムチューン。
「悲劇じゃなくて、もっと自由な関係がいい」と歌う内容は、
恋愛至上主義を脱した若い世代の価値観を先取りしていたようにも思える。

Simon Says

子供向け遊び「シモン・セズ」をモチーフにしたナンバー。
命令に従うことへの皮肉と、そこからの逸脱をテーマにしており、
従順さへの疑問をユーモアで包んだ反抗歌といえる。

Mr. DJ

クラブを舞台にした軽快なダンスソング。
歌詞の主人公は“DJに好きな曲をかけてほしい”と願いながら、
自分の世界に飛び込みたいという欲望を暗喩的に表現している。

Deep in My Heart

ポップでメロディアスなバラード寄りのトラック。
失恋後の心情を“深い海”にたとえており、ティーンならではのロマンティシズムが滲む。

Ain’t No Doubt

ややR&B寄りのアプローチが新鮮。
確信を持った愛の表現がテーマで、全体の中でやや大人っぽいトーンを担っている。

総評

『Not Like Other Girls』は、ティーンポップとユーロダンスが交差する90年代後半の音楽シーンにおいて、
軽やかでありながら芯のある“ポップの逆説”を突いた名作である。

Aquaのような明るい狂騒性とも、Spice Girlsのような明快なフェミニズムとも違い、
**もっと日常的で、もっと現実的な「女の子像」**を描こうとしたS.O.A.P.のスタンスは時代を先取りしていた。
その結果、10代のリスナーたちはただの消費者ではなく、共感と解放を感じることのできる主体的なリスナーとしてこのアルバムを受け取ったのだ。

全体としての完成度はやや「シングル偏重」ではあるが、
逆に言えばそれは、90年代ポップアルバムの醍醐味でもある。
ヒット曲が生き生きと輝き、それを支える多様な楽曲が並ぶという構図こそが“時代の音楽体験”だったのだ。

6. 制作の裏側

プロデューサーはソレン・ラスムセンを中心としたデンマークのポップ職人集団。
Aquaのヒットを背景に、当時の北欧ポップ制作陣がこぞってS.O.A.P.のデビューに参加した。

レコーディングは主にコペンハーゲンで行われ、打ち込みとギター、そして姉妹のツインヴォーカルが中心。
ラップ的な要素や、ナレーション的パートを取り入れることで、子供向け過ぎないポップ性を追求していた点も興味深い。

ジャケットやMVに登場するポップなカラーリング、制服モチーフ、ファンタジー的演出は、
**現実と夢の境界線を曖昧にする90sポップ特有の“遊び心”**を象徴している。