Nolita Fairytale by Vanessa Carlton(2007)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Nolita Fairytale」は、Vanessa Carltonが2007年にリリースした3rdアルバム『Heroes & Thieves』のリードシングルであり、**ニューヨークの街角での私的な生活と成長、そして再生をテーマにした“自伝的フェアリーテイル”**である。「Nolita(ノリータ)」とは、ニューヨーク・マンハッタンの小さな地区“North of Little Italy”を指す言葉であり、Vanessaがかつて実際に住んでいた場所でもある。

歌詞では、そのノリータの街を舞台に、自らの過去——名声と誤解に彩られた初期キャリア——を手放し、新しい自分として生きることを決意した瞬間が綴られる。これは**“少女のまま夢を見ていたプリンセスが、現実の中で自分の物語を描き直す”**というモチーフの元、成熟と自己再発見の物語として機能している。

一見して抽象的な表現が多いものの、歌詞には音楽業界への皮肉、名声と孤独、そして日常に潜む小さな魔法への信頼が同居しており、Vanessa Carltonが“ポップスター”から“ソングライター”へと生まれ変わる決意を示した歌である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Nolita Fairytale」は、Vanessa Carltonがメジャーデビューから数年後に抱えた音楽業界との軋轢、自身のアイデンティティへの疑問、そして“再出発”の精神状態をそのまま封じ込めた楽曲である。

デビュー作『Be Not Nobody』と大ヒット曲「A Thousand Miles」の成功により、一躍トップ・ポップスターの仲間入りを果たした彼女だったが、その後の作品は商業的にはやや苦戦し、レコード会社との方針の違いも顕在化していた。「Nolita Fairytale」は、そうした迷いと葛藤を乗り越えたCarltonが、“自分の物語は自分で書く”と決意した瞬間を音楽で表現した一曲だ。

ミュージックビデオの冒頭では、「A Thousand Miles」の有名な“移動式ピアノ”が車に轢かれて壊れるという演出がある。これは**「過去の象徴を壊し、新しい自分に向かう」**という明確なビジュアルメッセージであり、この曲が“自己解体と再構築”をテーマにしていることを象徴的に示している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Nolita Fairytale」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

I know
私はわかってるの

What I’m chasing
自分が何を追いかけているのか

I know
私は知ってる

That this is not a dream
これが夢なんかじゃないってことを

I live in a fairytale
私はフェアリーテイルの中で生きている

Somewhere too far for us to find
だけど、それは私たちには遠すぎる場所にある

Forgotten
忘れられたままの

The one who left behind
後ろに置き去りにしてきた“あの子”

And I don’t want the world to see me fall
誰にも、私が崩れるところなんて見せたくない

出典:Genius – Vanessa Carlton “Nolita Fairytale”

4. 歌詞の考察

「Nolita Fairytale」は、Vanessa Carltonにとって極めてパーソナルな“自己言及的作品”であり、その中心には**“現実と夢の境界で立ち止まる自分”**の姿が描かれている。

「I live in a fairytale」という一見夢見がちな言葉も、文脈の中では皮肉と決意が混ざったフレーズとして響く。かつては“おとぎ話のような成功”の中にいた自分。しかし今はその幻想を壊し、「これは夢ではなく、現実として自分の物語を生きるんだ」と強く主張している。

また、「The one who left behind」という一節では、過去の自分や見捨てられた夢、あるいは失われた純粋さへの追悼が込められており、それがこの楽曲全体に漂う郷愁と切なさを生んでいる。

さらに、「I don’t want the world to see me fall」というフレーズには、表舞台に立ち続ける者としての恐れと羞恥心、そして再起への強い意志が見て取れる。これは単に音楽キャリアの話にとどまらず、人生における再出発、挫折からの回復、他者の目との向き合い方など、誰しもが経験しうる感情と重なる。

つまりこの曲は、“自分という物語を語る勇気”を持った女性のバラードであり、Vanessa Carltonが作家として、そして一人の人間として歩み始めた地点を記録した重要な作品である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Extraordinary Machine by Fiona Apple
    芸術と自己表現の狭間で揺れる女性アーティストの独白。

  • Dog Days Are Over by Florence + The Machine
    過去の自分を捨て、新たな自分として駆け出す高揚感に満ちた一曲。
  • All I Wanted by Paramore
    葛藤と希望を繊細に描いた、強くて脆い内面を映し出すバラード。

  • Crescendo by Mitski
    小さな感情の積み重ねが人生を形作るというメッセージが響く作品。

  • Paper Bag by Fiona Apple
    現実と幻想のはざまで揺れる自分への皮肉と受容が巧みに描かれている。

6. “自分の物語を描き直す”ということ——「Nolita Fairytale」が指し示す新しい道

「Nolita Fairytale」は、Vanessa Carltonが過去の象徴を意図的に破壊し、自らの意思で再構築していく過程を音楽で描いた楽曲である。夢に酔っていた少女が、自らの物語を“書き換える”ために、ノリータという街で一歩ずつ現実と向き合う——その姿は、**“フェアリーテイルを生き直す勇気”**そのものである。

この曲は、サウンドの洗練とともに、Carltonの詞の成熟、音楽的な進化をも示しており、単なるポップ・ソングではなく、人生を一度壊し、再び築くことの尊さを描いた“再生の物語”でもある。

私たちもまた、時に過去の象徴を壊す必要がある。夢にすがるのではなく、夢を描き直すために。「Nolita Fairytale」は、そんなすべての“再出発する人”たちへの、静かで力強いアンセムである。夢と現実の交差点に立つすべての者に、そっと語りかけるような、知的で詩的な成長の歌なのだ。

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