
発売日: 2017年10月20日
ジャンル: インディーポップ、オルタナティブロック
概要
『New Estate』は、ドイツ・ハム出身のインディーバンド、Giant Rooksが2017年にリリースしたセカンドEPであり、彼らの音楽的なアイデンティティを本格的に確立した重要作である。
前作EP『The Times Are Bursting the Lines』で若さとエネルギーを爆発させた彼らは、『New Estate』において、より緻密なソングライティングと洗練されたサウンドアプローチを見せている。
バンドのトレードマークである、フレデリック・リーフェンドの伸びやかで透明感のあるボーカルと、豊かなメロディライン、そしてリズムに重心を置いたダイナミックな演奏は、ここにきて一段と成熟を見せ始めた。
タイトル『New Estate』は、新たな領域、新たな居場所を意味しており、バンド自身が次なるフェーズに踏み出す覚悟を象徴している。
EP全体を通じて、成長への渇望と、それに伴う不安や期待がリアルに描かれているのである。
全曲レビュー
1. New Estate
EPタイトル曲にして、バンドの飛躍を予感させるキラーチューン。
軽快なリズムと高揚感のあるサビが、未来への期待と不安を鮮やかに描き出す。
リーフェンドのボーカルが、希望と迷いの間を自在に行き来する。
2. Bright Lies
夜の街を漂う孤独感と焦燥をテーマにしたミディアムテンポのナンバー。
ギターのリフが柔らかく光り、切ないメロディが胸に残る。
ポップでありながら、しっかりとした感情の重みを感じさせる曲である。
3. Chapels
スロウテンポで内省的なトーンを持つ楽曲。
「礼拝堂(Chapels)」という象徴的なモチーフを通じて、救いと孤独を静かに歌い上げている。
控えめなシンセのレイヤーが、楽曲に神聖な広がりをもたらしている。
4. Slow
タイトル通り、ゆったりとしたテンポで進む、叙情的なバラード。
時間の流れとともに変わりゆく感情の機微を、繊細なサウンドで描き出す。
ギターとピアノの掛け合いが美しく、聴き手を優しく包み込む。
5. 100 mg
焦燥感と欲望をテーマにした、攻撃的なエッジを持つインディーロックナンバー。
ビート感が強く、ライブでも映えるエネルギッシュな楽曲。
疾走感と内向きなリリックのコントラストが鮮やかだ。
6. Mia & Keira (Days to Come)
EPの締めくくりにふさわしい、希望と未来への眼差しを感じさせる一曲。
リリックには個人的な物語性が漂い、リスナー自身の記憶や願いと自然に重なる。
静かに広がるエンディングは、次なる一歩を予感させる余韻を残す。
総評
『New Estate』は、Giant Rooksが単なる若手インディーバンドから、真に世界へと羽ばたく準備を整えたことを示す作品である。
彼らの音楽は、ポップの親しみやすさを持ちながらも、決して表面的ではない。
リリックには常に、若さ特有の迷いと、それを乗り越えようとする誠実な意志が込められている。
また、サウンド面でも、ギター、シンセ、リズムセクションが緻密に絡み合い、シンプルな曲でも豊かな奥行きを生み出している。
『New Estate』は、これから成長していこうとするすべての人にそっと寄り添い、静かに背中を押してくれるような作品なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- Blossoms『Cool Like You』
ポップセンスと甘酸っぱい感情表現が魅力のインディーポップ作品。 - Nothing But Thieves『Nothing But Thieves』
感情の振れ幅をダイナミックに描くオルタナティブロック。 - The Kooks『Inside In / Inside Out』
若さと恋愛の揺らぎをキャッチーに切り取った名盤。 - Alt-J『This Is All Yours』
実験精神と繊細なメロディの融合が光るインディーロック。 - Milky Chance『Blossom』
柔らかく揺れるリズムとポップなメロディが心地よい。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『New Estate』は、Giant Rooksが自身の手で大きく関与したセルフプロデュース作品であり、ベルリンやローカルスタジオを中心にレコーディングが行われた。
制作にあたっては、「ライブ感を大切にする」ことが意識され、過剰な編集を避け、バンドの自然な演奏を活かすアプローチが取られた。
また、リリック作りにおいては、「普遍性と個人的な感情の交差点」を探ることがテーマとなり、リスナーそれぞれが自分自身の物語を重ねられるような余白が意図的に設けられている。
このような制作スタンスが、『New Estate』に漂う親密さと誠実さを支えているのである。
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