Never Can Say Goodbye by The Jackson 5(1971)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Never Can Say Goodbye」は、The Jackson 5が1971年にリリースした切なくも美しいバラードであり、“別れ”という普遍的なテーマに対して、子どものような純粋さと、驚くほど成熟した感情表現をもって挑んだ作品である。歌詞の中で語り手は、何度別れを言おうとしても言えないまま、感情に押し流されてしまう自身の弱さと葛藤を繰り返し表現している。

「Never can say goodbye(どうしてもさよならが言えない)」というフレーズが何度もリフレインされる構成は、恋人を失いたくないという想いの強さと、感情の迷いを如実に物語っている。論理ではなく感情に支配された人間の姿を、そのまま素直に歌い上げることで、リスナーは語り手の内面に深く共感させられる。特に若きマイケル・ジャクソンの切実なヴォーカルは、少年らしさと大人びた情緒が交差する特別な説得力を持っている。

この曲が特別なのは、単なる失恋の歌ではなく、「別れが正しいとわかっていても、それでも言えない」という“矛盾した心の動き”をそのまま歌にしている点にある。それは、恋の終わりだけでなく、人生のあらゆる「別れの瞬間」に寄り添ってくれる、心のバラードでもある。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Never Can Say Goodbye」は、作曲家クリフトン・デイヴィス(Clifton Davis)によって書かれた楽曲で、もともとはモータウンの別のグループ(The SupremesやThe Four Tops)向けに書かれたが、最終的にThe Jackson 5のために録音されることとなった。1971年にリリースされ、Billboard Hot 100で2位、R&Bチャートでは1位を記録する大ヒットとなり、グループにとって「I’ll Be There」に続くエモーショナルな代表作として定着した。

この時点でマイケル・ジャクソンはまだ12歳だったが、その歌声は年齢を超越しており、まるで何度も恋愛を経験してきた大人のような表現力を発揮している。そのギャップこそが、曲の持つ切なさと純粋さをより際立たせている要因のひとつでもある。

後年、この曲はグロリア・ゲイナー(1974年)によってディスコ・アレンジでカバーされ、別の文脈でも再評価されたが、原曲であるThe Jackson 5のバージョンは、失恋バラードの王道として今なお高い評価を受けている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Never Can Say Goodbye」の印象的な一節を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。

Never can say goodbye / No no no no, I never can say goodbye
どうしてもさよならが言えないんだ/いや、本当に——僕には無理なんだ

Even though the pain and heartache / Seem to follow me wherever I go
どこへ行っても、痛みと悲しみが僕を追いかけてくるとしても

Though I try and try to hide my feelings / They always seem to show
どんなに感情を隠そうとしても、いつも表に出てしまう

Then you try to say you’re leaving me / And I always have to say no
君が別れを告げようとしても、僕はいつも「嫌だ」って言ってしまう

Tell me why / Is it so?
どうしてこんなに辛いんだろう?

引用元:Genius Lyrics – Never Can Say Goodbye

4. 歌詞の考察

「Never Can Say Goodbye」の本質は、“理性ではわかっていても、感情がどうしても追いつかない”という人間の弱さ、矛盾、そして希望のなさにある。主人公は、自分にとって別れが必要だということを理解している。繰り返し訪れる痛みや悲しみからも逃げたいと願っている。しかし、相手を愛しているがゆえに、その決断ができない。

この葛藤は、まさに誰もが一度は経験する感情であり、その“ぐらつき”や“迷い”をありのまま歌詞に乗せている点に、本作のリアリティと魅力がある。とくに“Try to hide my feelings / They always seem to show”という一節は、感情の抑制がいかに難しいかを示す象徴的なラインであり、マイケルの透明感ある歌声がその脆さを引き立てている。

また、“No no no no”という繰り返しには、単なる否定以上の“祈り”のような響きがある。別れたくない、けれどどうにもならない——そんなどうしようもなさが、抑揚のあるメロディとともに胸を打つ。それは、恋愛に限らず、人との別れ、時間の流れ、過去との決別など、あらゆる“失う瞬間”に対する人間の本能的な拒絶を映し出している。

※歌詞引用元:Genius Lyrics – Never Can Say Goodbye

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • I’ll Be There by The Jackson 5
    “そばにいる”と誓う愛の形。別れの反対側にある献身的なメッセージが共鳴する。

  • Ben by Michael Jackson
    友情と別れ、孤独に寄り添う少年期の名バラード。情緒の繊細さが共通。
  • It’s So Hard to Say Goodbye to Yesterday by G.C. Cameron
    別れの辛さを静かに語るソウルの名作。“さよなら”の重さが直撃する。

  • Let’s Stay Together by Al Green
    離れたくない想いを真っ直ぐに伝えるラブソング。情熱と抑制のバランスが絶妙。

6. さよならを告げられない者たちのために

「Never Can Say Goodbye」は、恋愛バラードというジャンルを超えて、“人間の根本的な未練”を描いた普遍的な歌である。別れの理由がどれほど明確でも、愛が続く限り“さよなら”を言うことは決して簡単ではない。その複雑な心の動きを、あどけないマイケル・ジャクソンの歌声が丁寧に、そして誠実に語りかけてくる。

この楽曲の本当の強さは、感情を整理したり、合理化したりするのではなく、むしろ“整理できない気持ち”に寄り添ってくれるところにある。別れたくない、でもそうしなければいけないかもしれない——そんな曖昧で複雑な心に、この歌はそっと手を差し伸べてくれる。

“どうしてもさよならが言えない”——それは弱さではなく、愛した証。その感情を否定せず、そのまま肯定してくれるこの歌は、別れに傷つくすべての人のために、今日も静かに鳴り続けている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました