発売日: 1998年6月8日
ジャンル: R&B、ポップ、アーバン・コンテンポラリー、ヒップホップ・ソウル
概要
『Never Say Never』は、ブランディ・ノーウッドが1998年にリリースした2枚目のスタジオ・アルバムであり、
ティーン・アイドルから本格派R&Bアーティストへの脱皮を遂げた、キャリアの転機にして最高傑作の一つである。
前作『Brandy』で早熟な才能を証明した彼女は、今作でより深みのあるサウンドと成熟したリリックを手に入れた。
中心となるプロデューサーは当時絶大な影響力を持っていたRodney “Darkchild” Jerkins。
彼のモダンかつ洗練されたトラックと、ブランディのソウルフルかつ繊細なボーカルが融合し、
90年代R&Bを代表する革新的で洗練されたサウンドスケープが生み出された。
大ヒットシングル「The Boy Is Mine(with Monica)」は全米チャート13週連続1位を記録し、ブランディの存在を世界的なポップアイコンに押し上げた。
同作はグラミー賞にもノミネートされ、商業的にも批評的にも大成功。
このアルバムは、ティーンエイジャーが表現する恋愛や自己肯定のテーマを、R&Bの最前線で描ききった金字塔的作品である。
全曲レビュー
1. Intro
短くシンプルなオープニング。アルバム全体のクールで洗練された雰囲気を予告するような導入部。
2. Angel in Disguise
ブランディの多重録音によるコーラスが美しい、内省的かつ洗練されたスロージャム。愛の幻想と裏切りをテーマにした、ダークで感傷的な一曲。
3. The Boy Is Mine(with Monica)
R&B史に残るデュエット・ソング。恋のライバル同士が張り合うというテーマを、対話形式で表現。
キャッチーなビートと緊張感のある構成が話題を呼び、1998年を代表する大ヒット曲に。
4. Learn the Hard Way
失恋と後悔を、力まずに語るようなトーンで描いたバラード。控えめなアレンジがブランディのヴォーカルを際立たせている。
5. Almost Doesn’t Count
カントリー風のコード進行とアコースティックギターを取り入れた新機軸。
「“ほとんど愛してる”じゃ足りない」と歌うフレーズが心に残る、成熟した恋愛観を描いた名曲。
6. Top of the World(feat. Mase)
ヒップホップ・ソウルの代表曲。
名声とプレッシャーをテーマにしながらも、遊び心のあるビートで聴きやすい。
Maseのラップとブランディのボーカルの相性も抜群。
7. U Don’t Know Me (Like U Used To)
“もう昔の私じゃない”という変化と成長を告げる、強い意志を感じさせるミディアムチューン。後年の女性アーティストに影響を与えた一曲。
8. Never Say Never
アルバムタイトル曲にして自己肯定のテーマ曲。
どんなに苦しくても“絶対に諦めない”というメッセージを、静かで力強く届ける感動的なバラード。
9. Truthfully
嘘と真実の間で揺れる愛を描くバラード。ストリングスが映える繊細なアレンジと、心に染み入るボーカルが絶品。
10. Have You Ever?
ダイアン・ウォーレン作の大バラード。
“本気で人を想ったことある?”という問いかけが多くのリスナーの共感を呼び、シングルとしても大ヒット。
11. Put That on Everything
愛の真剣さと約束を描いたスローバラード。繊細な感情表現と声のニュアンスが、ブランディの成熟を物語る。
12. In the Car (Interlude)
ミニマルな語りのインタールード。後半へのつなぎとしての役割を持つ。
13. Happy
恋の高揚感を描いたポップ寄りのナンバー。明るさとリズム感が際立つ楽曲で、アルバムの中でも軽快な存在。
14. One Voice
シンプルなピアノバラード。社会的メッセージと希望を込めた楽曲で、アルバムのスピリチュアルな側面を象徴する一曲。
15. Tomorrow
未来への希望と再生をテーマにしたラストバラード。
穏やかで壮大なサウンドと共に、アルバムを優しく閉じる。
総評
『Never Say Never』は、90年代R&Bにおいて極めて重要な作品のひとつであり、
単なるティーン・シンガーから**真のアーティストへと成長したブランディの“決定的瞬間”**を記録したアルバムである。
Rodney Jerkinsの革新的なプロダクションと、ブランディの“ヴォーカル・アレンジメントの緻密さ”は、以降のR&Bスタイルに計り知れない影響を与え、
彼女は“ヴォーカル・バイブル”という異名を持つに至る。
甘さ、切なさ、強さ、祈り。
そのすべてが、時代を超えて聴く者の胸を打つ。
おすすめアルバム(5枚)
- Monica『The Boy Is Mine』
共演作と同時期にリリースされた、モニカの傑作アルバム。対照的な表現が聴き比べにも◎。 - Aaliyah『One in a Million』
ティンバランドによる革新的プロダクションと、成熟したR&Bの融合。90年代女性R&Bの金字塔。 - Toni Braxton『Secrets』
深いバラードとアーバン・コンテンポラリーが共存する名作。ブランディと同じ“感情の深度”を持つ。 - Destiny’s Child『The Writing’s on the Wall』
女性視点で語る恋愛観が共通。当時のR&Bサウンドの流行も共有。 -
Tamia『Tamia』
同時代の美声系R&Bシンガーによるデビュー作。バラードの美しさと洗練されたサウンドが魅力。
後続作品とのつながり
『Never Say Never』でブランディは商業的・芸術的頂点を迎え、
その後の『Full Moon』(2002年)ではR&Bにおける“ヴォーカルレイヤー美学”をさらに押し進めることになる。
しかし、すべての始まりはここにある──
『Never Say Never』は、ブランディが“声で世界を変えた”瞬間の記録なのである。
コメント