アルバムレビュー：Never Mind the Ballots by Chumbawamba

アルバムレビュー

2025.06.15

発売日: 1987年5月1日
ジャンル: アナーコ・パンク、ポリティカル・パンク、DIYロック、ポストパンク

概要

『Never Mind the Ballots』は、イギリスの急進的アナーコ・パンク集団、**Chumbawamba（チャンバワンバ）**が1987年に発表したセカンド・アルバムであり、
“選挙幻想の全否定”をテーマに据えた、極めて挑発的な政治音楽のマニフェストである。

タイトルはもちろん、Sex Pistolsの『Never Mind the Bollocks』を捩ったものであり、
“選挙？ふざけるな”というメッセージを込めた、痛烈な代議制民主主義批判のパンク宣言となっている。

前作『Pictures of Starving Children Sell Records』ではチャリティ文化や偽善的なポピュラー音楽を標的とした彼らが、
本作ではさらに視野を広げ、労働党・保守党を問わず“政治家という存在そのもの”への不信と怒りを剥き出しにする。

リリース当時、イギリスではマーガレット・サッチャーの強権的政策と、反サッチャー運動の高まりが交錯しており、
本作はそのどちらにも与しない形で、“政治そのものが機能不全である”という徹底的なアナーキズムの立場を貫いている。

1. Always Tell the Voter What the Voter Wants to Hear
アルバム冒頭を飾る、選挙演説の皮肉的模倣。
候補者の言葉がすべて“嘘”であることを前提とし、聴き手の政治的怠惰さすら挑発する痛烈なイントロダクション。

2. Come on Baby (Let’s Do the Revolution)
陽気な曲調に反して、内容は反資本主義のアジテーション。
レボリューションをダンスのように繰り返す表現が、パンクの皮肉とポップの楽しさを巧みに融合している。

3. The Wasteland
階級社会の荒廃を描いた一曲。失業、ホームレス、社会的不平等を、苛立ちと哀しみを込めて訴えるアナーコ・バラッド。

4. Today’s Sermon
実際の政治家の演説をサンプリングし、音楽の中で崩壊させる構成。
サウンド・コラージュによって“言葉の空虚さ”を暴露する、実験的な一曲。

5. Ah-Men
宗教と政治の癒着を批判。タイトルは“アーメン”の皮肉であり、信仰がいかに国家装置と結託して人々を支配するかを暴く。

6. Mr. Heseltine Meets His Public
当時の政治家マイケル・ヘゼルタインを風刺したトラック。
街頭演説と抗議者の声が交差し、政治と民衆の不協和音をあらわに描く。

7. If Voting Changed Anything, They’d Make It Illegal
本作の核心的メッセージを掲げた名曲。
“投票で本当に社会が変わるなら、そもそもそんな制度は許されない”という逆説的なフレーズは、アナーキズムの格言として語り継がれている。

8. The Candidates Find Common Ground
“政党が違っても、結局は同じ資本主義の犬”という視点を持つ風刺トラック。
形式的にはインタビュー風だが、すべてが偽善で構成されていることを浮き彫りにする。

『Never Mind the Ballots』は、チャンバワンバという集団が単なる“怒れる若者のバンド”ではなく、
徹底した思想的立場を持つアクティヴィズム音楽集団であることを証明したアルバムである。

この作品では、「選挙によって社会を変える」という幻想が真っ向から否定され、
むしろ「構造そのものを壊さなければ何も変わらない」という過激で純粋な政治意識が提示される。

それは暴力ではなく、声とリズムと皮肉と詩で組み立てられた抵抗の形であり、
選挙のたびに政治に絶望する現代の私たちにも刺さる、“制度批判のパンク教材”としての力を今なお持っている。

『Never Mind the Ballots』以降、チャンバワンバはサウンドを徐々に変化させ、
1990年代には『Anarchy』『Tubthumper』でより大衆的な表現に移行していくが、
その**“ポップを使って体制批判を拡張する”という思想の軸**はこの作品で確立された。

言葉とビートで「民主主義」を問うこのアルバムは、チャンバワンバの原点にして、
現代にこそ再び聴かれるべき、音による投票拒否声明なのである。