1. 歌詞の概要
「Neighborhood #3 (Power Out)」は、アーケイド・ファイアのデビューアルバム『Funeral』(2004年)に収録された楽曲であり、同アルバムの中でも特にエネルギッシュで攻撃的な一曲である。タイトルにある「Power Out(停電)」は、現実の電力の喪失を意味すると同時に、精神的・社会的な「力の喪失」を象徴する。歌詞は停電の混乱の中で若者が彷徨い、孤立し、社会や大人たちの無力さを嘆きながらも、その状況に抗おうとする姿を描く。
「ネイバーフッド」シリーズの中でも本曲は最も直接的で暴力的なトーンを持ち、政治的・社会的な不満が強く表れている。停電という出来事は共同体の秩序を揺るがす事件であると同時に、大人たちの権威が崩れ去る瞬間でもあり、若者たちはその中で「新しい秩序」を模索する。その不安と怒りを込めたリフレインは、まさにアルバム『Funeral』が内包する死と再生のテーマの社会的側面を映し出しているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Funeral』に収録された「ネイバーフッド」シリーズは、アーケイド・ファイアの幼少期や故郷モントリオールの郊外の風景をもとにしながら、個人的な体験を普遍的な物語へと昇華させている。その中でも「Neighborhood #3 (Power Out)」は、実際にカナダで経験した停電や厳しい冬の記憶から着想を得ているとされる。
この停電は単なる出来事以上の意味を帯びている。暗闇に包まれた町は、人々の社会的な結びつきや倫理が揺らぐ空間となり、秩序の欠如がむき出しになる。バンドはこの「停電」を、社会の不安や若者の怒り、そして共同体の脆さを象徴するものとして描き出した。
音楽的には、ザラついたギターリフとドライヴ感あふれるリズムが強烈に鳴り響き、ウィン・バトラーの叫ぶようなヴォーカルが緊張感を煽る。ストリングスやシンセサイザーの陰鬱な響きも加わり、停電下の混乱と不安、そしてそこから立ち上がるエネルギーを音響的に体現している。
この曲は『Funeral』の中でも特にライブで盛り上がる定番曲として知られ、観客が一体となって歌い叫ぶ光景は、まさに暗闇からの連帯と再生の儀式のようでもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(引用元:Genius Lyrics)
I woke up with the power out
停電の朝に目を覚ました
Not really something to shout about
別に大声で叫ぶようなことじゃないけど
Ice has covered up my parents’ hands
氷が両親の手を覆い尽くしてしまった
Don’t have any dreams, don’t have any plans
夢もなく、計画もない
So I climb up a tree and I look out
だから木に登って外を見渡した
And I look out to the world
そして世界を見つめたんだ
And I look out to the world
世界を
この冒頭部分から伝わるのは、停電という物理的な暗闇と、夢や希望を失った精神的な暗闇が重ねられている点である。「氷に覆われた両親の手」という表現は、死や無力感を示す強烈なイメージであり、アルバムのテーマである喪失と再生を個人的かつ社会的なスケールで提示している。
4. 歌詞の考察
この曲は「停電」という比喩を通じて、社会や家庭の機能不全、そして若者の孤立と反抗を描いている。電気が失われることは、便利さの喪失以上に、共同体を成り立たせている目に見えない力が途切れる瞬間を意味している。
歌詞に登場する「両親の手が氷に覆われる」という描写は、家族の死を想起させると同時に、親世代の無力さを示しているようにも読める。その中で「夢も計画もない」と歌う主人公は、自らの未来が閉ざされていることに苛立ちを感じながらも、木に登って「外の世界」を見ようとする。これは暗闇の中でもなお光を探そうとする行為であり、絶望と希望が同居する瞬間である。
また「Power Out」というフレーズは、単なる停電ではなく、社会全体の力の喪失、つまり大人や権力者が若者に対して未来を示すことができなくなった状況を指していると解釈できる。その中で若者たちは混乱に巻き込まれつつも、連帯し、叫び、暗闇の中で自らの力を模索する。それは暴力的で不安定なものかもしれないが、同時に「新しい世界を生み出すための原動力」なのだ。
この曲がアルバム『Funeral』において果たす役割は、個人的な喪失(家族の死)を超えて、社会的な不安や共同体の崩壊をも包括的に描く点にある。つまり「死と再生」というテーマが、家庭から社会へと拡張される瞬間を象徴している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Wake Up by Arcade Fire
共同体の連帯と再生を最も壮大に描いた名曲。ライブでも必ずクライマックスとなる。 - Disorder by Joy Division
若者の不安とエネルギーをミニマルに描いたポストパンクの金字塔。 - Wolf Like Me by TV on the Radio
暴力的な衝動とセクシュアリティをエネルギッシュに表現した2000年代インディーの傑作。 - Rebellion (Lies) by Arcade Fire
「眠り」と「目覚め」をテーマに、社会への覚醒を訴えかける。 - House of Jealous Lovers by The Rapture
不安と熱狂が渦巻くダンス・パンクの代表曲。
6. 停電の暗闇から生まれた共同体の叫び
「Neighborhood #3 (Power Out)」は、アーケイド・ファイアが『Funeral』で提示した「死と再生」というテーマを、社会的なスケールにまで押し広げた重要な楽曲である。停電という混乱の中で無力さを突きつけられた若者が、それでも叫び声を上げ、仲間と共に連帯していく姿は、単なる寓話ではなく、時代を超えて響く普遍的なメッセージとなっている。
この曲は、暗闇と混乱の只中から生まれる「新しい共同体の息吹」を鳴らすものであり、その轟音は今なおリスナーに強烈な共鳴をもたらしているのである。
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