
発売日: 2014年10月31日
ジャンル: フォーク、アコースティック
失われた幻想の果てに――8年ぶりに帰還したDamien Riceの円熟の一作
2006年の『9』以来、長らく沈黙を続けていたアイルランドのシンガーソングライターDamien Riceが、8年ぶりに発表した3rdアルバム『My Favourite Faded Fantasy』。プロデューサーには、Radioheadの『OK Computer』を手掛けたNigel Godrichを迎え、これまでの作品よりも洗練されたサウンドスケープが際立つ。
本作は、愛の喪失と再生をテーマに、より緻密なアレンジと壮大な構成を伴った楽曲が並ぶ。シンプルな弾き語りスタイルから一歩踏み出し、オーケストラを取り入れた壮大な音作りが、彼の感情表現をよりドラマティックに彩っている。
全曲レビュー
1. My Favourite Faded Fantasy
アルバムの幕開けを飾る、静かなイントロから壮大な展開へと変化するタイトル曲。過去の恋愛への郷愁と後悔を歌い上げる歌詞が、ダミアン・ライスらしい儚さを感じさせる。
2. It Takes a Lot to Know a Man
9分を超える大作。ゆったりとしたピアノとストリングスが絡み合い、次第に壮大なスケールへと発展していく。人間関係の複雑さや、自分自身を理解することの難しさを描いている。
3. The Greatest Bastard
アコースティックギターとストリングスが美しく調和する楽曲。タイトル通り、自己嫌悪と後悔に満ちた歌詞が胸を締めつける。Riceの優しくも痛切な歌声が際立つ。
4. I Don’t Want to Change You
シンプルなメロディの中に、別れ際の寂しさと受容の感情が込められた一曲。水面を漂うようなギターとストリングスが、静かに心を揺さぶる。
5. Colour Me In
繊細なピアノとストリングスが印象的な楽曲。過去の関係を振り返りながら、誰かに色を塗られること(=影響を受けること)への葛藤を歌っている。
6. The Box
ミニマルなギターから始まり、徐々に壮大なサウンドへと展開する。社会的なプレッシャーや、自分を押し殺して生きることの苦しさを表現した楽曲。
7. Trusty and True
アルバムの中でも特にエモーショナルな楽曲。後半にはコーラスが加わり、カタルシスを感じさせるドラマティックな展開を見せる。許しと再生のテーマが強調されている。
8. Long Long Way
静寂の中で語りかけるような楽曲。アルバムの締めくくりにふさわしく、遠くへと去っていくような余韻を残す。
総評
『My Favourite Faded Fantasy』は、これまでのダミアン・ライスの作品の中で最も洗練され、深みのあるアルバムだ。プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチの手腕もあり、シンプルなフォークサウンドに壮大なストリングスやピアノを融合させた楽曲が、ダミアン・ライスの持つ内省的な世界観をより劇的に引き立てている。
『O』や『9』の荒削りで激情的な表現とは異なり、本作ではより円熟味を増した歌詞と構成が際立つ。愛の喪失や自己嫌悪といったテーマは変わらないが、それをより大きな視点で捉えた深い洞察が感じられる作品だ。
繊細なフォークサウンドが好きな人はもちろん、壮大なアレンジが施されたシンフォニックな楽曲を好むリスナーにもおすすめ。
おすすめアルバム
- Sufjan Stevens – Carrie & Lowell (2015)
- 繊細なフォークと深い内省を描いた、静謐ながらも強烈な感情を持つ作品。
- Bon Iver – 22, A Million (2016)
- フォークに実験的なアプローチを加えたアルバム。Riceの新境地と共鳴する部分が多い。
- Radiohead – A Moon Shaped Pool (2016)
- ナイジェル・ゴッドリッチのプロデュースによる、繊細で壮大なサウンドが特徴。
- Glen Hansard – Didn’t He Ramble (2015)
- Damien Riceと同じくエモーショナルなフォークスタイルを持つアーティストの傑作。
- José González – Vestiges & Claws (2015)
- アコースティックギターを基調にした、内省的で美しい作品。
“`
- アコースティックギターを基調にした、内省的で美しい作品。
コメント