Mr. Bojangles by The Nitty Gritty Dirt Band(1970)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Mr. Bojangles」は、アメリカ南部を舞台にした心揺さぶる物語を描いた楽曲で、Nitty Gritty Dirt Bandが1970年に発表し、彼らの代表曲として高く評価されています。オリジナルはJerry Jeff Walkerによって1968年に書かれたもので、Dirt Bandのカバーによって広く世に知られることとなりました。

この曲は、語り手が刑務所で出会った年老いた浮浪者「Mr. Bojangles」との出会いを回想する形で進行します。その男は、昔は踊り手だった人物であり、愛犬を亡くしたことへの深い悲しみを語りつつ、最後には踊り出すという強烈な印象を残す存在です。歌詞の中心には、「悲しみ」と「芸の精神」が交差する、アメリカ社会の影に生きた人物の姿が描かれています。

Mr. Bojanglesという名前は、有名な黒人タップダンサーBill “Bojangles” Robinsonに由来しているとされていますが、この歌に出てくる人物は、彼とは直接関係がなく、「Bojangles」という名前を用いた架空の人物です。彼は過去の栄光や哀しみを背負いながらも、踊ることを止めないという象徴的なキャラクターとして描かれています。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲の原作者であるJerry Jeff Walkerは、1965年頃にニューオーリンズで実際に浮浪者と一緒に留置所に入った体験を基に「Mr. Bojangles」を書き上げました。Nitty Gritty Dirt Bandによるカバーは、1970年のアルバム『Uncle Charlie & His Dog Teddy』に収録され、アメリカで大ヒットを記録。Billboard Hot 100で9位を獲得し、バンドの名を一躍知らしめるきっかけとなりました。

Nitty Gritty Dirt Bandは1960年代後半から活動していたフォーク・ロックバンドで、ブルーグラスやカントリーの要素を取り入れた音楽性で知られています。彼らの演奏は、原曲よりもややゆったりとしたテンポで情感豊かに構成されており、特にフィドルやアコースティックギターの旋律が、曲の物悲しさと温かみを巧みに表現しています。

この楽曲は1970年代のアメリカにおいて、カントリーやフォークの感性とポップの要素を融合させた象徴的な楽曲として、多くのリスナーに愛され続けています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、印象的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳とともに掲載します。

I knew a man Bojangles and he danced for you
彼の名はボージャングルズ、君のために踊ってくれた男だった

In worn out shoes
履き古された靴を履いて

Silver hair, a ragged shirt and baggy pants
銀髪に、ボロボロのシャツとだぶだぶのズボン

The old soft shoe
懐かしいソフトシュー(軽快な踊り)を見せてくれた

He jumped so high, jumped so high
彼は高く跳ね上がった、本当に高く

Then he’d lightly touch down
そして、ふわりと地面に降りたんだ

この部分では、Mr. Bojanglesの姿が情景豊かに描かれており、彼の外見や仕草、そして踊る様子がまるで映像のように浮かび上がります。

He said the dog up and died
彼は言った、「犬が死んだんだ」と

He up and died
突然死んでしまったと

After twenty years he still grieves
あれから20年、彼はいまだにその死を悼んでいた

この箇所は曲の中でも最も感情的な場面であり、彼の孤独と喪失が鮮烈に伝わってきます。

※引用元:Genius – Mr. Bojangles (Nitty Gritty Dirt Band)

4. 歌詞の考察

「Mr. Bojangles」は、アメリカ社会の底辺に生きる人々の声を代弁するような楽曲です。名前も明かされぬ語り手と、浮浪者のボージャングルズとの偶然の出会いが、詩的でありながらも非常にリアルな描写で語られていきます。

この歌の核心は、「芸」の力と「喪失」の記憶にあります。Mr. Bojanglesという人物は、かつての栄光や幸福を失ってもなお、踊ることをやめない。それは彼にとっての唯一の誇りであり、慰めであり、生きていくための手段であるとも言えます。

「20年経っても愛犬の死を悼む」という歌詞は、彼がいかに孤独で、そして心に傷を抱えて生きているのかを象徴的に示しています。同時に、そんな彼の姿を淡々と語る語り手もまた、何らかの痛みを知っているように思えます。

Nitty Gritty Dirt Bandによる演奏は、その物語性をより際立たせており、フィドルの旋律やコーラスの温かさが、Mr. Bojanglesの哀愁に深みを与えています。聴き終えた後に残るのは、誰もが心のどこかに持つ“失ったものへの想い”と、それでもなお前に進む姿の美しさへの共感です。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • City of New Orleans by Arlo Guthrie
    鉄道の旅を通じてアメリカの人々や風景を描いた、哀愁と郷愁が漂う名曲。

  • The Boxer by Simon & Garfunkel
    都市の孤独と人生の闘いをテーマにした、物語性の強いフォークロックの傑作。
  • Pancho and Lefty by Townes Van Zandt
    アウトローたちの運命を描いた、静かな語り口と深い叙情性が印象的な一曲。

  • Desperado by Eagles
    自由と孤独をテーマにした名バラードで、抑えた演奏と切ないメロディが心に残る。

6. この曲が与えた影響と永続する魅力

「Mr. Bojangles」は、リリースから50年以上経った今もなお、数多くのアーティストによってカバーされ続けている稀有な楽曲です。Sammy Davis Jr.やBob Dylan、Nina Simoneなど、ジャンルを超えた音楽家たちがこの曲に魅了されてきました。これは、単なるバラードではなく、アメリカにおける“ストーリーテリングの伝統”を体現するような作品だからです。

また、この曲のヒットによって、Nitty Gritty Dirt Bandはカントリーとフォークの垣根を越える存在として認識され、後の『Will the Circle Be Unbroken』といった伝説的な作品へとつながっていくことになります。

「Mr. Bojangles」は、人生の苦味と芸の美しさを同時に描いた、時代を超えて共感される名曲です。孤独や喪失に寄り添いながらも、人間の誇りと優しさをそっとすくい上げてくれるような、そんな力を持った作品です。

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