発売日: 2013年4月16日
ジャンル: アートロック、インディーロック、エクスペリメンタルロック
アルバム全体の印象
『Mosquito』は、Yeah Yeah Yeahsがさらに音楽的冒険を続けながら、過去の荒々しいパンクのエネルギーと新たな実験的アプローチを融合させたアルバムである。デビュー作『Fever to Tell』から『It’s Blitz!』に至るまでの進化を経て、バンドはサウンドの多様性をさらに追求。本作では、ダブ、ゴスペル、エクスペリメンタルな音響効果を取り入れるなど、予測不能な展開が続く一枚となっている。
カレン・Oのカリスマ的なボーカルはこれまで以上に多面的で、エネルギッシュなシャウトから、繊細で儚い表現まで幅広く聴かせてくれる。プロデュースには、これまでのパートナーであるデイヴ・シティックに加え、ジェイムス・マーフィー(LCDサウンドシステム)やドクター・オクタゴン(クール・キース)といった新たなコラボレーターを迎え、多層的なサウンドスケープを実現している。
『Mosquito』は、カオスと秩序、狂気と美が絶妙に交差する作品である。その結果、バンドのこれまでのキャリアを総括するようなトラックと、これまでにない実験的な楽曲が同居し、挑戦的ながらもリスナーを魅了するアルバムとなった。
トラックごとの解説
1. Sacrilege
アルバムの幕開けを飾るゴスペル色の強い楽曲で、カレン・Oの歌声と壮大なコーラスが融合している。「And I plead and I pray」と繰り返されるフレーズがスリリングで、曲が進むにつれてエネルギーが高まる構成が印象的。大胆でドラマチックな一曲だ。
2. Subway
地下鉄の走行音を取り入れたミニマルなトラック。穏やかでメランコリックなメロディが、カレンの落ち着いたボーカルと重なり、静謐な雰囲気を醸し出している。都会の孤独感や日常の憂鬱を感じさせる一曲。
3. Mosquito
タイトル曲で、バンドの荒々しいエネルギーが炸裂するトラック。カレンが「I’ll suck your blood!」と叫ぶユーモラスで挑発的な歌詞が、全体のカオティックな雰囲気を引き立てている。ノイズギターとリズムセクションの暴力的なサウンドが圧巻。
4. Under the Earth
ダブとエクスペリメンタルなサウンドが融合したトラック。重低音のベースラインが楽曲の基盤を作り、不穏な雰囲気を漂わせる。リズムの反復がリスナーをトランス状態へと誘う。
5. Slave
歪んだギターリフとカレンの力強いボーカルが際立つロックトラック。歌詞には葛藤や自己犠牲がテーマとして含まれており、バンドの原点に戻るようなエネルギーが感じられる。
6. These Paths
電子音が支配的なエクスペリメンタルトラック。反復的なリズムと幽玄なボーカルが絡み合い、サイケデリックな空気を作り上げている。瞑想的で非日常的な体験を提供する一曲だ。
7. Area 52
宇宙的なテーマとカオスなサウンドが印象的なトラック。曲全体に漂うユーモアと攻撃性が、バンドの実験的な一面を強調している。タイトルが示すように、非現実的な雰囲気が魅力。
8. Buried Alive (feat. Dr. Octagon)
ラッパーのドクター・オクタゴンをフィーチャーしたトラックで、ヒップホップとロックの要素を巧みに融合。歪んだギターと重いビートが、ユニークなコラボレーションを際立たせている。
9. Always
軽やかで希望に満ちた雰囲気を持つ楽曲。アルバムの中で最も親しみやすい一曲で、ポップなメロディが際立つ。歌詞には未来への期待と感傷が込められており、聴く者の心を温める。
10. Despair
「絶望」というタイトルとは対照的に、楽曲は徐々に高揚感を生み出す構成になっている。カレンのボーカルは感情的であり、クライマックスで放たれるエネルギーが聴き手を揺さぶる。
11. Wedding Song
アルバムの最後を飾る感動的なバラード。カレン・Oがプライベートな結婚式のために書いたとされるこの曲は、愛の深さと穏やかさを描き出している。アコースティックなアレンジが、アルバム全体の狂気とは対照的に美しい余韻を残す。
アルバム総評
『Mosquito』は、Yeah Yeah Yeahsがさらに多様な音楽性を探求しつつ、彼ららしい荒々しさと感情的な深みを保った作品である。シンセやノイズ、ゴスペル、ヒップホップといった異なる要素を大胆に取り入れながらも、全体として一貫した実験精神が感じられる。カレン・Oの表現力豊かなボーカル、ニック・ジナーの型破りなギターアプローチ、ブライアン・チェイスの躍動感あるリズムが、アルバムを通じて鮮やかに響く。
『Mosquito』は聴くたびに新たな発見があり、Yeah Yeah Yeahsの音楽的多様性と創造性を改めて実感させる。挑戦的でありながらもリスナーを引きつける力を持つこの作品は、バンドの進化の過程を示す重要な一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Masseduction by St. Vincent
エクスペリメンタルでありながらポップさを保ったアルバムで、『Mosquito』の冒険心と響き合う。
The Eraser by Thom Yorke
ミニマルなエレクトロニックと感情的な表現が特徴で、Yeah Yeah Yeahsの実験的な側面が好きな人におすすめ。
Random Access Memories by Daft Punk
ジャンルを超えた音楽的探求が、『Mosquito』と共通するスピリットを持つ。
Mezzanine by Massive Attack
ダークで重厚なサウンドスケープが、『Mosquito』の不穏な雰囲気に共通する。
In Rainbows by Radiohead
感情豊かで実験的なサウンドが、Yeah Yeah Yeahsの創造的な一面と調和する名作。
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