
1. 歌詞の概要
「Missing」は、1996年にリリースされたNo Mercyのデビューアルバム『My Promise』(米国盤では『No Mercy』)に収録された楽曲である。タイトルの「Missing(喪失、行方不明、恋しさの意)」が示す通り、楽曲全体に通底するテーマは「愛する人を失った痛み」と「再会への願い」である。
この曲は、別れによって空白となった日常の中で、かつての温もりや記憶を求めて彷徨うような感情を描き出している。愛する人の不在がもたらす孤独と喪失感は、淡々とした語りではなく、情熱的なボーカルと共にあふれ出し、その「欠如」の感覚をリスナーにまざまざと体験させる。
2. 歌詞のバックグラウンド
No Mercyは、90年代のユーロポップおよびラテン・ポップの潮流に乗って登場したアメリカのボーイズグループで、ドイツのプロデューサーであるフランク・ファリアンがプロデュースを手がけている。彼らの代表曲は「Where Do You Go」「Please Don’t Go」などのアップテンポなナンバーで知られるが、一方で「Missing」のようなバラードやミドルテンポの楽曲では、彼らの音楽的な深みと感情表現の豊かさが際立つ。
「Missing」はシングルカットこそされなかったものの、アルバムの中で印象に残る一曲として、ファンの間では“知る人ぞ知る”名バラードとされている。サウンドとしてはアコースティック・ギターを基盤に、繊細なストリングスや控えめなパーカッションが彩りを添え、ノスタルジックな空気を醸し出している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’ve been missing you
君がいなくなってから、ずっと寂しさに包まれているEvery moment feels so cold
一瞬一瞬が、凍えるように孤独なんだI keep dreaming you’re back again
君が戻ってくる夢ばかり見てしまうBut I wake up alone
でも目が覚めると、また一人なんだMy heart is aching
胸が張り裂けそうに痛むよ
引用元:Genius Lyrics – No Mercy / Missing
4. 歌詞の考察
この曲の核心にあるのは、「喪失を抱えながら生きるということ」である。ただの恋愛の終わりではなく、心の一部を失ったような深い悲しみが描かれており、その表現には真摯さと静かな痛みが滲んでいる。
特に「I keep dreaming you’re back again」というラインには、現実が受け入れられないほどの恋しさが凝縮されており、夢の中でだけ逢える相手との儚い再会にすがるような切実な感情が伝わってくる。これは“失恋”というより、“喪失”という言葉のほうがふさわしいほどの深さを持っている。
また、「My heart is aching(心が痛む)」という単純なフレーズは、誇張のない言葉だからこそ、聴く者の心に直接響く。悲しみの表現において、技巧的な言葉よりも、むしろこうした“素直な痛み”こそが、人の心を打つのだと改めて気づかされる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Un-break My Heart” by Toni Braxton
失った愛を取り戻したいという切実な願いがこもったソウルフルなバラード。 - “Against All Odds” by Phil Collins
別れた恋人への執着と、戻ってきてほしいという願いを歌い上げた名曲。 - “Everytime” by Britney Spears
後悔と喪失が入り混じる繊細なラブソング。 - “Hard to Say I’m Sorry” by Chicago
謝りたいけれど言えない、愛する人への複雑な感情を綴った曲。 - “Missing” by Everything But The Girl
まさに“Missing”というテーマを持つ同名曲。クラブ・リミックスも有名。
6. 余韻の中の再会願望――バラードとしての奥行き
「Missing」は、愛の終焉や別れを描いたバラードの中でも、特に“静かな悲しみ”に焦点を当てている。ドラマティックな展開や大げさな演出ではなく、日常の中でふと感じる寂しさや、ふとした瞬間に蘇る記憶の温度が、この曲の中心にある。
そのため、聴いていて自然と自分の過去の記憶や喪失と重ねてしまうような、そんな普遍性と個人的体験の交差点にある楽曲とも言える。日常のどこかにぽっかりと空いた穴をそっと見つめ、そのままにしておくことを受け入れる。そんな感情の過程を、音楽というかたちで丁寧に綴った曲である。
No Mercyが持つラテンポップ的な華やかさとは異なり、この「Missing」では、グループの静かな表現力と内面性の豊かさが最大限に引き出されている。悲しみの中にも美しさが宿ることを教えてくれる、そんな優しくも力強い一曲である。
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