1. 歌詞の概要
「Minute by Minute」は、The Doobie Brothersが1978年に発表したアルバム『Minute by Minute』のタイトル曲であり、マイケル・マクドナルド時代を象徴する代表的バラードである。歌詞のテーマは「愛の喪失と依存」。愛する人が去ってしまった後に、残された者が「一分一秒ごとに」その痛みや空虚さに向き合いながら生きていく様を描いている。
「Minute by minute by minute / I’ll be holding on」というリフレインは、執着と希望が入り混じった心情をストレートに伝える。前向きに立ち直ろうとするのではなく、時間の経過にしがみつくように「持ちこたえている」姿が描かれており、切なさと人間的な弱さが響き合う楽曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
1975年にマイケル・マクドナルドが加入して以降、The Doobie Brothersは大きな音楽的変化を遂げた。彼のソウルフルでジャジーな作曲スタイルは、従来のカントリーやロック主体のサウンドにAOR（Adult Oriented Rock）的な洗練をもたらし、都会的で内省的な方向へとバンドを導いた。
「Minute by Minute」はマクドナルドとレス・ダドリーの共作で、アルバムのタイトルにも冠された重要曲である。シングルとしてもリリースされ、Billboard Hot 100で14位を記録。アルバム自体はグラミー賞「年間最優秀アルバム」を受賞し、The Doobie Brothersにとって最も商業的成功を収めた作品となった。
同作からは「What a Fool Believes」が全米No.1を獲得しており、その影に隠れがちな「Minute by Minute」だが、実際にはマクドナルド時代のサウンドを最もよく体現している楽曲のひとつとされている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：The Doobie Brothers – Minute by Minute Lyrics | Genius）
Hey, don’t worry, I’ve been lied to
心配しないで、僕は嘘をつかれてきた
I’ve been here many times before
何度も同じ経験をしてきたんだ
Girl, don’t you worry, I know where I stand
大丈夫、僕は自分の立場をわかっている
I don’t need this love, I don’t need your hand
愛なんて必要ない、君の手も必要じゃない
Minute by minute by minute
一分一秒ごとに
I’ll be holding on
僕は持ちこたえている
It’s not like I’m so all alone
別にひとりぼっちってわけじゃない
歌詞は、虚勢を張りながらも結局は「まだ君を必要としている」という弱さを抱える人間の姿を描いている。繰り返されるフレーズが、執着と諦念の両方を際立たせている。
4. 歌詞の考察
「Minute by Minute」は、マクドナルド時代のThe Doobie Brothersを象徴する“都会的で内省的な愛の歌”である。以前の「Listen to the Music」や「China Grove」が自由や解放を謳歌していたのに対し、この曲はむしろ閉じられた空間での感情の葛藤を描いている。
歌詞では「愛はいらない」と強がりながらも、「Minute by minute / I’ll be holding on」と繰り返すことで、本当は愛にしがみつき、過去を手放せないことが明らかになる。この二重性こそが人間のリアルな心理であり、マクドナルドのソウルフルな歌声によって痛切な説得力を持って響いてくる。
音楽的には、洗練されたコード進行とジャジーなキーボード、リズム隊の滑らかなグルーヴが特徴であり、AORの典型例として後世に強い影響を与えた。特にこの曲の「繊細な情緒」と「都会的な響き」は、70年代末のアメリカ音楽シーンにおける大きな潮流を象徴している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- What a Fool Believes by The Doobie Brothers
同アルバム収録の大ヒット曲。愛のすれ違いを描いたバンド最大の代表曲。 - It Keeps You Runnin’ by The Doobie Brothers
マクドナルド加入後初期の代表曲。愛に翻弄される感情が共通する。 - Takin’ It to the Streets by The Doobie Brothers
社会的テーマを扱いながらもソウルフルな響きを持つ楽曲。 - Lowdown by Boz Scaggs
ジャジーで都会的なグルーヴが魅力のAOR代表曲。 - This Night Won’t Last Forever by Michael Johnson
70年代後半のAORバラード。切なさと前向きさの混在が共通する。
6. 「Minute by Minute」の象徴性
「Minute by Minute」は、The Doobie Brothersが70年代後半にサウンドを刷新し、AORの旗手となったことを象徴する楽曲である。トム・ジョンストン時代の直線的なロックから、マクドナルド時代のソウルフルでジャジーな響きへと移行する過程を決定づけた作品といえる。
また、この曲の歌詞が描く「強がりと依存」「諦めと執着」の狭間は、愛の普遍的な姿をリアルに切り取っており、多くのリスナーに共感を呼び起こした。
結果として「Minute by Minute」は、The Doobie Brothersがグラミー賞を獲得し、時代を超える評価を得るきっかけとなった重要曲であり、同時にAORというジャンルの代表的クラシックとして今なお聴き継がれているのである。
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