発売日: 1980年4月
ジャンル: AOR、ブルーアイドソウル、ソフトロック
概要
『Middle Man』は、ボズ・スキャッグスが1980年に発表したアルバムであり、
1970年代後半からの都会的なソウル/AOR路線をさらに洗練・完成させた作品である。
プロデューサーには引き続きビル・シュネーを迎え、演奏にはジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ルカサーらTOTO人脈が全面的に参加。
結果として、極めてタイトで磨き抜かれたアーバンサウンドが、全編にわたって展開されている。
70年代末から80年代初頭という時代背景は、ディスコブームの終焉と、
より洗練された「アーバン・コンテンポラリー」なポップスの台頭という二つの流れを抱えていた。
『Middle Man』は、そうした時代の空気をたしかに掴みながらも、ボズならではの温かみを失わずに表現してみせたアルバムである。
シングルカットされた「Breakdown Dead Ahead」や「Jojo」はいずれもヒットし、
『Silk Degrees』に続く商業的成功を記録した。
全曲レビュー
1. Jojo
アルバムを象徴するアーバン・ダンスナンバー。
ナイトクラブの熱気と孤独を描いたリリックに、タイトなリズムと流麗なメロディが絡み合う。
2. Breakdown Dead Ahead
ギターリフが印象的なロック寄りの力強い一曲。
「このままでは破綻する」という切迫感が、エッジの効いたサウンドと共に迫る。
3. Simone
甘くメロディアスなミディアムバラード。
「シモーヌ」という女性への切ない思いを、繊細な歌声で紡いでいる。
4. You Can Have Me Anytime
アルバム中でもひときわロマンティックなスロウナンバー。
惜しみない献身を歌うリリックと、柔らかなアレンジが胸を打つ。
5. Middle Man
タイトル曲にして、本作のコンセプトを象徴するナンバー。
人と人の間で揺れる存在=”Middle Man”というテーマが、哀感を帯びたメロディに滲む。
6. Do Like You Do in New York
ファンキーで軽快なグルーヴが心地よい。
ニューヨークの洗練された生活スタイルを羨望する視線が描かれている。
7. Angel You
しっとりとしたソウルバラード。
恋人への純粋な賛美を、温かなトーンで表現している。
8. Isn’t It Time
爽やかで明るいポップチューン。
前向きな未来志向が、伸びやかなサウンドに乗せて描かれる。
9. You Got Some Imagination
リズミカルで軽妙なナンバー。
都市生活者たちの皮肉混じりの夢想を、洒脱なタッチで描いている。
総評
『Middle Man』は、ボズ・スキャッグスのキャリアの中でも、最も”都会的な輝き”を放つアルバムである。
『Silk Degrees』で開いたAOR路線をさらに推し進め、
『Down Two Then Left』で見せた内省的な陰りを少し後ろに引き、
ここではより明快で、ドライヴ感のあるポップスが全面に打ち出されている。
それでも、単なるヒット志向のアルバムにはならなかった。
すべての楽曲に漂う、ボズ・スキャッグス特有の憂いと温もり。
都市の光と影、華やかさと孤独、そのすべてをさりげなく滲ませる大人の表現が、ここにはある。
エレガントなグルーヴと、洗練されたミュージシャンシップに支えられた本作は、
AORというジャンルの中でも最も完成度の高いアルバムのひとつとして、今なお高く評価されている。
夜のドライブ、静かな夜更け、あるいは眩しい昼下がり。
どんな時間にも、さりげなく寄り添ってくれる――そんな懐の深さを持った一枚である。
おすすめアルバム
- Christopher Cross / Christopher Cross
アーバンで瑞々しいポップサウンドを堪能できる名盤。 - TOTO / Hydra
『Middle Man』を支えたミュージシャンたちのバンドによる、ハイレベルなAOR作品。 - Donald Fagen / The Nightfly
洗練された都会の夜を描いたAORの金字塔。 - Michael McDonald / No Lookin’ Back
ソウルフルで洗練された80年代型AORの代表作。 - Gino Vannelli / Nightwalker
大人の感性に響く、メロウでリッチなサウンド。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Middle Man』の制作には、ロサンゼルスのトップミュージシャンたちが結集した。
ジェフ・ポーカロの緻密なドラム、スティーヴ・ルカサーのセンスあふれるギターワーク、
デヴィッド・ペイチの巧みなキーボードアレンジ――これらが、ボズ・スキャッグスの洗練されたヴォーカルと絶妙に溶け合った。
また、レコーディングでは最新鋭のスタジオ技術が駆使され、
クリアでありながら温かみを失わないサウンドデザインが徹底された。
アルバムジャケットに写るボズのクールな佇まいも、80年代の都会的イメージを見事に象徴している。
すべてが高い完成度を持つ『Middle Man』は、ボズ・スキャッグスというアーティストが時代を超えて生き続ける理由を、
あらためて教えてくれるアルバムなのである。
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