1. 歌詞の概要
「Maxwell Murder」は、アメリカのパンクバンド Rancid(ランシド) が1995年にリリースした3rdアルバム『…And Out Come the Wolves』のオープニング・トラックであり、パンク史上でも最も有名なベース・イントロを持つ楽曲のひとつとして知られています。
タイトルの「Maxwell Murder(マクスウェル殺人事件)」は、想像上の殺人犯マクスウェルという人物をめぐる物語であり、腐敗した権力と暴力の象徴としてその名が使われています。
歌詞はシンプルながら重たく、社会の腐敗、無法状態、正義の不在といったテーマを、極端に凝縮されたパンキッシュな語り口で描いています。スピード感のある演奏と共に、Rancidの世界観が一気に炸裂する開幕曲として、まさに“宣戦布告”のような役割を果たす楽曲です。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Maxwell Murder」は、Rancidのベーシスト マット・フリーマン(Matt Freeman) による驚異的なベースソロで知られており、この曲をきっかけに彼のテクニックは伝説化しました。
パンクというジャンルにおいて、ベースは単なる伴奏になりがちですが、本曲ではまるでギターのように自由奔放に駆け回るベースラインが、楽曲の核として機能しています。
タイトルは、おそらく ビートルズの「Maxwell’s Silver Hammer」 を皮肉ったもので、そこではユーモラスに描かれていた殺人者マクスウェルが、ここではリアルで血なまぐさい権力の暴力装置として登場します。
ティム・アームストロングとラース・フレデリクセンによるリリックは、現代社会に対する不信、特に警察、法律、政治といった“正義”の名を借りた暴力機構への怒りを簡潔に、そして鋭く描いています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics
“Maxwell can’t tell he’s in hell / He just got more lies to sell”
マクスウェルは自分が地獄にいることにも気づいてない
彼にはまだ、売るべき嘘が残っている
“Another record spinned to sell / My God, what the hell”
また新たな記録が売られる/なんてこった、これは地獄だ
“He got nothing he can sell / Nothing he can buy”
奴には売れるものも、買えるものも何もない
“Not a hope in hell / That’s why he’s gonna die”
地獄のなかには希望なんてない/だから奴は死ぬ運命にある
4. 歌詞の考察
「Maxwell Murder」は、約1分40秒という短さのなかに、社会への不信と暴力の構造を凝縮して詰め込んだ曲です。マクスウェルという人物は架空の存在ながら、現実社会における腐敗した権力者の象徴であり、彼が“嘘を売り続ける”という表現には、メディア操作、政治的プロパガンダ、警察の暴力性など、様々な要素が集約されています。
「Another record spinned to sell」というラインは、音楽業界そのもの、あるいは体制に迎合する表現者たちへの批判とも取れるもので、Rancidが自らの姿勢を主流とは一線を画す“ストリートの声”として定義していることが読み取れます。
そして「That’s why he’s gonna die」という結末は、マクスウェルという“悪の象徴”がやがて自滅するという予言でもあり、同時にそれを期待する語り手の反骨的希望と破壊衝動が込められているとも言えるでしょう。
Rancidにとって“死”とはただの終わりではなく、既存の腐敗を終わらせるための“解体”であり、そこにこそ彼らのパンク精神が息づいています。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “White Riot” by The Clash
体制への直接的な怒りを爆発させたパンク黎明期の名曲。 - “Police Truck” by Dead Kennedys
警察の暴力と堕落を鋭く描く、政治的ハードコアの金字塔。 - “Guns of Brixton” by The Clash
体制との衝突、暴力の連鎖をスカビートで描く暗黒バラッド。 - “Roots Radicals” by Rancid
Rancidのルーツと反骨精神を明るく描いたアンセム。 - “Too Much Pressure” by The Selecter
社会的プレッシャーと個人の苦悩をスカで表現した名曲。
6. “ベースで社会を撃て”:Rancidが奏でる反体制の序章
「Maxwell Murder」は、アルバム『…And Out Come the Wolves』のオープニングとして、Rancidが何者であるかを即座に突きつける“宣言”のような楽曲です。暴力的で混沌としたこの世界で、自分たちは何を信じ、何を拒否するのか。それを最短距離で伝えるために、彼らはこの曲を作ったのでしょう。
ベースソロという、パンクにしては異例のテクニカルなアプローチを冒頭に置き、“楽器を鳴らすことが反抗になる”というメッセージを体現した本作は、Rancidの音楽性と思想性の両方を象徴しています。
「Maxwell Murder」は、単なるスピード感あるパンクソングではありません。これは暴力的な権力とその腐敗に対する、音楽によるカウンターパンチなのです。マクスウェルという名の虚像を撃ち抜くことで、Rancidはリスナーにこう訴えます——
“お前はその嘘に加担する側か? それとも、それをぶっ壊す側か?”
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