発売日: 2016年5月27日
ジャンル: インディーフォーク、オルタナティブロック
ニューヨークを拠点とするインディーフォークバンドBig Thiefのデビューアルバム「Masterpiece」は、そのタイトル通りに、彼らの才能と独特の感性を示した初の傑作だ。ボーカルのエイドリアン・レンカーが描く詩的で内省的なリリックは、喪失、愛、痛みといった深いテーマに触れ、バンドの繊細な演奏とともに生々しくリスナーの心に訴えかける。彼女の柔らかくも芯のある歌声は、温かさと鋭さを同時に帯び、聴く者に強い印象を残す。
このアルバムのサウンドは、フォークロックとオルタナティブロックを基盤に、時に荒々しいギターと、時に控えめなアコースティックサウンドが曲ごとに変化しながら心情を巧みに表現している。Big Thiefは、フォークミュージックの親しみやすさと、鋭い感情を突き刺すオルタナティブのエッジを兼ね備え、ただのポップソングでは終わらない、深く心に響く楽曲を作り出している。ここで描かれるのは、静かな痛みと温かな希望が共存する世界だ。
トラックごとの解説
1. Little Arrow
アルバムのオープニングを飾る「Little Arrow」は、アコースティックギターのシンプルな響きと、エイドリアンの優しい歌声が特徴の楽曲。静かに語りかけるようなイントロで、これから始まる物語への期待を高めてくれる。
2. Masterpiece
アルバムタイトル曲「Masterpiece」は、力強いギターリフとエイドリアンのエモーショナルなボーカルが融合した一曲。愛と別れをテーマに、彼女の歌声が心に深く突き刺さる。情熱的でダイナミックなサウンドが、聴く者を圧倒する。
3. Vegas
「Vegas」は、温かみのあるメロディとノスタルジックなリリックが印象的なトラック。夢のようなメロディに包まれながら、愛と孤独の狭間で揺れる感情が描かれている。静かながらも感情が溢れる楽曲だ。
4. Real Love
このアルバムの中でも特にインパクトのある「Real Love」は、荒々しいギターとエイドリアンの力強い歌声が心に響く。恋愛の生々しさや痛みが剥き出しにされ、圧倒的なエネルギーが放たれている。
5. Interstate
「Interstate」は、シンプルなアコースティックサウンドが中心の穏やかなナンバーで、旅や道中の孤独感を感じさせる楽曲。エイドリアンの歌声が温かくも切なく響き、心に染みる一曲だ。
6. Lorraine
ノスタルジックなギターと淡々としたリズムが続く「Lorraine」。愛する人への想いと喪失感が静かに語られ、リスナーの心に深い余韻を残す。美しくも悲しいメロディが印象的。
7. Paul
アルバムのハイライトともいえる「Paul」は、シンプルでありながらも感情豊かな楽曲で、恋愛における複雑な感情が描かれている。静かなメロディとエイドリアンの歌声が、心にじんわりと染み渡る一曲。
8. Humans
「Humans」は、激しいギターサウンドとリズムが特徴的で、エネルギッシュでダークな雰囲気が漂う。人間関係や自己に対する葛藤が歌われており、アルバムの中でも特に鋭いエッジが光る。
9. Animals
シンプルなサウンドでありながら、深いメッセージを持つ「Animals」。アコースティックな響きとモノクロームのようなリリックが、荒涼とした雰囲気を醸し出し、静かな力強さが感じられる。
10. Randy
「Randy」は、穏やかで優しいメロディが特徴のバラードで、失恋や喪失をテーマにしている。繊細なギターとエイドリアンの柔らかいボーカルが美しく絡み合い、心地よい悲しみが漂う一曲。
11. Parallels
「Parallels」は、軽快なリズムとシンプルなメロディが心地よく、日常に流れる淡々とした時間を映し出しているかのようだ。エイドリアンの落ち着いた歌声がリスナーに安心感を与える。
12. Black Diamonds
アルバムの最後を締めくくる「Black Diamonds」は、ゆったりとしたテンポで、どこか哀愁を帯びた雰囲気を持つ楽曲。エイドリアンの歌声が優しく響き、心に残る余韻とともに静かにアルバムを終わらせる。
アルバム総評
「Masterpiece」は、Big Thiefがデビュー作ながらもその独自の音楽性と高い完成度を見せつけたアルバムだ。エイドリアン・レンカーの詩的で内省的なリリックと感情豊かな歌声、バンドの繊細かつダイナミックな演奏が一体となり、愛や喪失、痛みといったテーマが真に迫る表現で描かれている。フォークロックとオルタナティブロックを基盤としながらも、単なるジャンルにとどまらない深みを持ち、リスナーに強い印象を残す。アルバム全体を通じて、温かさと切なさ、そして鋭さが絶妙に混ざり合い、デビュー作ながらもタイトルにふさわしい「傑作」に仕上がっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
繊細な歌詞と美しいメロディが心に染みるアルバム。親密な雰囲気と感情表現が「Masterpiece」に共通しており、フォークの温かさが感じられる。
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
内省的なリリックと深い感情を表現したフォークアルバム。エモーショナルな歌声が印象的で、Big Thiefファンにも響くはず。
The Greatest by Cat Power
シンプルで感情的な曲作りと、優しいメロディが特徴のアルバム。愛や喪失といったテーマを描き、Big Thiefのリスナーにもおすすめ。
Sound & Color by Alabama Shakes
ブルースやロック、ソウルが融合した一枚で、エモーショナルなボーカルが心に響く。豊かな音楽性と深い感情が、「Masterpiece」と通じる。
I See You by Angel Olsen
フォークとインディーロックを融合させたサウンドが魅力。切なくも力強いボーカルと、愛や孤独を描くリリックがBig Thiefのファンにぴったり。
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