アルバムレビュー：Lunch, Recess & Detention by Marcy Playground

発売日: 2012年6月26日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アコースティック、フォーク・ロック

概要

『Lunch, Recess & Detention』は、Marcy Playgroundが2012年に発表したコンピレーション・アルバムであり、過去の未発表曲、アコースティック・ヴァージョン、Bサイド、リワークなどを集めた“裏ベスト”的な作品である。

バンドの名が示すように、「ランチ」「休み時間」「居残り」というタイトルは、少年時代や内面の子ども性を想起させる。そしてこのアルバムもまた、過去の記憶や感情に触れるような、親密でノスタルジックなトーンに包まれている。

本作には、1990年代後半から2000年代中盤にかけて制作された楽曲が多数含まれており、ジョン・ウィックスのソングライターとしての成長や変遷を振り返ることができる。また、アコースティック編成によって再構築された曲も多く、スタジオ・アルバムとは異なる“骨格の見える”アレンジが魅力である。

ジャンル的にはフォーク、カントリー、ローファイ・ロックなどの要素が強く、エレクトリックなMarcy Playgroundとは一味違う、木漏れ日のような音楽体験を提供してくれる。まさに“昼休みにこっそり聴きたい”ような、親密で柔らかなアルバムである。

シンプルなアコースティック・ギターに乗せて綴られる、教師らしき人物との記憶。
ユーモラスでありながらも、居場所を探すような寂しさがにじんでいる。

サーカスのピエロというイメージを使った、哀しげなバラード。
軽妙な言葉遊びの奥に、自嘲的な孤独感が潜んでいるのがMarcy Playgroundらしい。

『Shapeshifter』収録曲のオルタナティヴ・ミックス。
オリジナルよりもダークでフォーク色が強く、リリックの政治的な皮肉がより明確に伝わってくる。

ブルージーな楽曲をアコースティック化したことで、より乾いた風合いに。
ナルシシズムの裏にある脆さが引き立っている。

このアルバムでもっともスピリチュアルで幻想的な楽曲。
ストリングスのアレンジが施され、浮遊感と祈りのような響きが特徴的。

遊び心満点のスパイごっこソング。
アレンジが簡素化されたことで、リリックのシュールな面白さが前面に出ている。

タイトル通り、感情の爆発や破壊的な別れを描いたナンバー。
だがサウンドはあくまで静かで、怒りよりも虚しさが強く感じられる。

『Leaving Wonderland…』の終曲の別ヴァージョン。
ギターがより前面に出たミックスで、内省的な歌詞が一層引き立つ。

『Lunch, Recess & Detention』は、Marcy Playgroundの“裏面”を丁寧にすくい取ったアルバムであり、いわば感情のスケッチブックのような作品である。

ヒット曲や派手なサウンドを求めるリスナーには向かないかもしれない。
だが、彼らの静かなる魅力——詩的で、少し屈折しながらも正直な語り口——を愛する人にとっては、これほど濃密なアルバムもない。

選曲の幅広さからは、ジョン・ウィックスの内面の変遷や創作スタイルの柔軟性も垣間見える。
メジャーな成功を追わず、個人の体験や観察をそのまま歌にする姿勢は、時代が変わっても変わらない彼の誠実さそのものである。

“ランチ”“休憩”“居残り”という構成が示すように、このアルバムはまるで「学校の片隅で日記を読み返す」ような時間を与えてくれる。
懐かしく、ちょっと切なく、そしてとても静かで優しい。

『Lunch, Recess & Detention』は、ジョン・ウィックスのプライベート・アーカイブから集められた未発表音源やデモ、セルフ・アレンジ版によって構成されており、レーベルの介入がほとんどない自主性の強い一枚である。

制作にあたり、ジョンは「リスナーに親密な関係を築けるようなアルバムを作りたかった」と語っており、実際その言葉通り、ホームレコーディングの質感や個人の声の揺らぎが、そのまま“音楽”として昇華されている。

このアルバムは、Marcy Playgroundというバンドの“舞台裏”を垣間見る貴重な記録であると同時に、どこかで聴き手自身の記憶とも接続するような、私的で普遍的な音楽体験となっている。