Lover Boy by Phum Viphurit(2018)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Lover Boy」は、タイ出身のシンガーソングライター Phum Viphurit(プム・ヴィプリット) による2018年の代表曲であり、彼の名を世界中に広めるきっかけとなった作品です。ファンク、ソウル、インディーポップの要素を軽やかに融合させたこの楽曲は、タイトルが示すように**“恋する青年”の心情を飾らずに歌い上げたラブソング**です。

歌詞は非常にシンプルで直接的ですが、そこにはPhumらしい軽やかなユーモア、さりげない情熱、そしてピュアな憧れの感情が詰まっています。恋人に対する一途で照れくさい思い、相手の仕草に振り回されながらも「君の“ラヴァーボーイ”になれたら」という願いが、心地よいリズムとともに描かれていきます。

決して劇的なドラマも、大きな感情の起伏もありません。けれど、そのささやかな日常の中に宿る恋の高揚感と温もりが、聴く人の心を自然と解きほぐしていくような、不思議な魅力を持っています。

2. 歌詞のバックグラウンド

Phum Viphuritは、1995年生まれのタイのシンガーソングライターで、幼少期をニュージーランドで過ごしたことから、英語とアジア的感性を融合させた国際的なポップセンスを持つアーティストとして注目を集めました。「Lover Boy」は、彼のセカンド・アルバムのリードシングルという位置付けでリリースされましたが、その独特のサウンドと映像センス、そして魅力的な歌声によって、YouTubeやSpotifyを中心に世界的なバイラルヒットとなりました。

特筆すべきは、Phumのアーティスト像が「都会的で洗練されたアジア人男性」としてではなく、少しシャイで、ナチュラルで、等身大の存在感を保っていることです。彼は「Lover Boy」を、自身の“ちょっと頼りない恋愛観”と“心の距離感”を描いた曲だと語っており、それは曲調の軽快さとは裏腹に、“臆病だけどまっすぐな愛”を歌っていることを意味しています。

MVもアジアの街角を思わせる映像美と、ゆるやかな人間関係の空気感を見事に捉えており、世界中のインディーファンから愛される理由のひとつとなっています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Lover Boy」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳を併記します。引用元:Genius Lyrics

“Wanna be your lover, lover / Mm-hmm”
君の恋人になりたいんだ、うん

“I’m often told I’m out of my mind”
よく「おかしいんじゃない?」って言われるけど

“You never take a chance, babe / And I know you won’t”
君は冒険なんてしないよね/でも、それが君らしいってわかってる

“So I say, ‘Why don’t you come a little closer?’”
だから、こう言うんだ「もうちょっとだけ近づいてみない?」

“Tell me if you want me / I’m yours tonight”
もし僕のことが好きなら教えて/今夜は全部、君のものだよ

4. 歌詞の考察

「Lover Boy」の歌詞は、そのシンプルさゆえに、普遍的な“恋の入り口”にいる人の感情を非常にリアルに表現しています。相手への好意を持ちながらも、自分に自信がない、踏み込めない、でもどうしても伝えたい——そんな甘酸っぱくて揺れるような恋心が、あたたかなファンクビートに乗せて届けられます。

“恋人になりたい”という願いは、誰しもが一度は抱くものです。Phumはその感情を、決してオーバーに表現せず、恥ずかしげに、けれど真っ直ぐに歌っているのです。「僕ってちょっと変かもしれないけど」「君が遠慮するのもわかってるけど」といった自己開示は、彼の音楽全体に通じる**“誠実な人間性”**の現れでもあります。

また、“少しの勇気”をテーマにしている点もこの曲の魅力です。彼は相手に一方的な想いをぶつけるのではなく、「もしよかったら、ちょっとだけ近づいてくれない?」と、相手の気持ちを尊重しながら距離を縮めようとする優しさを見せます。それは、現代における理想的な関係性のあり方——思いやりと共感による恋のはじまりを象徴していると言えるでしょう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • “Lover Is a Day” by Cuco
    甘くメロウなトラックと、ナイーブな恋心を描いた夢見がちなラブソング。

  • “Japanese Denim” by Daniel Caesar
    一途な愛をヴィンテージジーンズに重ねて描いた、ソウルフルなスロー・ジャム。

  • “Get You” by Daniel Caesar feat. Kali Uchis
    恋のミステリアスさと安心感を両立させたR&Bラブソング。

  • “Peach” by Kevin Abstract
    青春のきらめきと恋の痛みを、軽やかなトーンで描くインディーポップの佳作。

  • “Every Summertime” by NIKI
    90年代ソウルに現代的なローファイ感を加えた、胸キュン必至のラブソング。

6. “現代の恋する男”像を塗り替えるラヴァーボーイ

「Lover Boy」は、恋愛ソングというジャンルの中で、“自信過剰でも自己犠牲的でもない恋する男”という、これまでになかった新しい人物像を提示した楽曲です。Phum Viphuritは、この曲を通して、恋に落ちることの不安定さ、楽しさ、臆病さ、そしてささやかな勇気を、あくまで飾らずに、でもスタイリッシュに描いています。

特にアジアの男性アーティストとして、英語で恋心を歌い、国境を越えて共感を得たこの曲の存在は、グローバルポップの新しい潮流の中でも象徴的なものと言えるでしょう。人種や国籍を超えた“個としての魅力”がこの楽曲には詰まっており、インターネット以降の音楽文化を象徴する存在でもあります。

「Lover Boy」は、恋の始まりにある小さな鼓動や、口に出すのが照れくさい気持ちを、ふんわりと包み込むような優しさで描いた一曲。日々の喧騒に疲れた心を、すっと解きほぐしてくれるような、愛すべきモダン・ラブソングです。恋の喜びも不安も、こんなふうに軽やかに歌えたなら——きっとそれは、ほんとうの「恋する自分」を受け入れる最初の一歩になるはずです。

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