発売日: 2018年5月25日
ジャンル: シンセポップ、エレクトロポップ、インディーポップ
アルバム全体のレビュー
CHVRCHESの3rdアルバム「Love Is Dead」は、彼らにとって大きな転機となる作品だ。このアルバムでは、バンドはよりメインストリーム寄りのプロダクションを採用し、彼らのトレードマークであるエレクトロポップにポップロックやオルタナティブの要素を加えている。アルバム全体を通じて、バンドはこれまで以上に直球でキャッチーなメロディを追求し、歌詞のテーマも個人的な感情から社会的な問題へと広がっているのが特徴だ。
この作品のプロデューサーとして、Greg Kurstin(Adele、Siaなどのプロデュースを手掛けた人物)が参加しており、バンドのサウンドをさらに洗練し、より広いリスナー層にアピールすることを目指している。アルバムのタイトル「Love Is Dead」には、現代社会における愛の喪失や冷たさ、そして混乱した世界に対する失望感が込められており、CHVRCHESのこれまでの作品に比べて、よりシリアスでダークな雰囲気を帯びている。
また、このアルバムではこれまで以上にポリティカルな側面が強調されており、世界が直面する問題に対して失望感を表現しながらも、希望を失わない姿勢が描かれている。シンセの煌びやかさは健在だが、よりエッジの効いたビートや力強いリズムが強調され、サウンド面でもこれまでの作品よりも攻撃的な印象を受ける。
各曲レビュー
1. Graffiti
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、ノスタルジックなメロディが印象的で、過去の思い出とそれに伴う失望感がテーマになっている。「I’ve been waiting for my whole life to grow old」という歌詞は、青春時代の希望と大人になる現実とのギャップを切なく表現している。軽快なシンセサウンドが楽曲全体を包み込み、ポップな印象を与えている。
2. Get Out
リードシングルとなったこの曲は、Greg Kurstinがプロデュースしたキャッチーなポップチューン。強烈なシンセリフとシンプルなビートが特徴で、Mayberryのボーカルが感情の起伏を鮮やかに表現している。「Get out, get out, get out of here」という繰り返しが印象的で、関係性の中での苦悩や逃げ出したい感情がストレートに伝わってくる。
3. Deliverance
ポップでありながらも深刻なテーマを描いたこの曲は、宗教的なメタファーが歌詞に織り交ぜられており、救済や解放の追求がテーマになっている。リズムセクションが力強く、Mayberryのボーカルが曲のエモーショナルな要素を引き立てている。
4. My Enemy (feat. Matt Berninger)
この曲は、The NationalのボーカリストであるMatt Berningerをフィーチャーしたデュエットで、二人の異なる声質が絶妙に絡み合っている。内面の葛藤や対立をテーマにしており、シンプルなシンセサウンドが楽曲の感情的な重さを引き立てている。MayberryとBerningerのボーカルの掛け合いが、楽曲にドラマティックな深みを加えている。
5. Forever
エネルギッシュなシンセビートと、リズミカルなメロディが印象的なこのトラックは、失恋や別れをテーマにしているが、前向きなエネルギーを感じさせる。「I gave up on time, just like you said you would」という歌詞が、過去を振り返りつつも未来に向かう力強さを象徴している。
6. Never Say Die
「Never Say Die」は、アルバムの中でも特に力強いメッセージが込められた一曲。関係性の中で諦めない姿勢を描きながらも、激しいビートとシンセサウンドが楽曲全体にエネルギーを与えている。Mayberryのボーカルはここでも力強く、サビでの高揚感が印象的だ。
7. Miracle
CHVRCHESにとって初めての試みとなるロック寄りの曲で、迫力のあるビートとパワフルなサウンドが際立つ。歌詞は救済や奇跡を求める姿を描いており、「I feel like but I’m falling, but I’m trying to fly」というフレーズが、困難に立ち向かう決意を表している。ライブでも盛り上がること間違いなしのトラック。
8. Graves
社会問題に対するメッセージ性の強い曲で、現代社会が抱える危機や人々の無関心を批判している。軽快なシンセポップのサウンドが、歌詞のシリアスなテーマと対照的で、リスナーに深く考えさせる。Mayberryのボーカルは鋭く、歌詞の内容に説得力を与えている。
9. Heaven/Hell
アップテンポなリズムとキャッチーなメロディが特徴の一曲で、人生の中での葛藤やジレンマを描いている。天国と地獄のメタファーが使われており、選択肢に迫られた時の感情が鮮やかに表現されている。サビの盛り上がりが印象的で、リスナーを引き込む。
10. God’s Plan
シンプルなビートと重厚なシンセが絡み合うこのトラックは、宗教や運命に対する疑念をテーマにしている。「I’m not crying, I’m just trying」というフレーズが、感情を抑えながらも前進しようとする姿勢を示しており、アルバム全体のテーマと繋がっている。
11. Really Gone
アルバム中で最もミニマルなアプローチを取っている曲で、Mayberryのボーカルが静かに響き渡る。別れの後に残る虚無感を描いており、サウンドは控えめだが、感情の深さが強く伝わる。「I know that you’re really gone」という繰り返しが、楽曲の持つ切なさを引き立てている。
12. ii
短いインストゥルメンタル曲で、アルバム全体の雰囲気に不思議な余韻を残す。静かに流れるシンセの音が、次の曲への導入として機能している。
13. Wonderland
アルバムの最後を飾るトラックは、幻想的でドリーミーなサウンドが特徴だ。Mayberryのボーカルが穏やかに響き渡り、希望と不確実性の間で揺れる感情が描かれている。アルバム全体の締めくくりとして、希望の光を感じさせる一曲だ。
アルバム総評
「Love Is Dead」は、CHVRCHESがこれまで築き上げてきたエレクトロポップのスタイルを維持しながらも、ポリティカルで社会的なテーマに踏み込んだ意欲作だ。アルバム全体を通して、個人的な感情と世界に対する失望感が交錯し、メッセージ性の強い作品に仕上がっている。Greg Kurstinのプロデュースによって、サウンドはさらに洗練され、メインストリームでも受け入れやすいポップな要素が強化されている一方で、CHVRCHES特有の鋭さやエッジも失われていない。ファンにとっても新鮮で、社会的なメッセージを含んだ作品として評価されるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- “Melodrama” by Lorde
ポップとシリアスなテーマの融合が特徴的で、社会的なメッセージと個人的な感情が交差する作品。LordeのエモーショナルなボーカルがCHVRCHESファンに刺さる。 - “Masseduction” by St. Vincent
ポリティカルなテーマとインディーロックの要素が融合した作品。社会に対する疑問を投げかけながらも、エレクトロサウンドを活用している点が共通している。 - “The Altar” by Banks
ダークでシリアスなシンセポップの要素が強いアルバムで、個人的な葛藤や感情をテーマにした歌詞が印象的。CHVRCHESのファンにおすすめ。 - “How Big, How Blue, How Beautiful” by Florence + The Machine
壮大なサウンドと感情豊かなボーカルが特徴のアルバム。個人的な感情と社会的なテーマが絡み合う点で、CHVRCHESのスタイルに共鳴する。 - “Currents” by Tame Impala
サイケデリックなエレクトロポップが特徴のアルバムで、内面の探求や感情の変遷を描いている。CHVRCHESのシンセサウンドを好むリスナーにぴったり。
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