1. 歌詞の概要
「Live Again」は、Better Than Ezraの1998年のアルバム『How Does Your Garden Grow?』のラストを飾る深遠なバラードであり、アルバム全体の物語に静かな余韻を与える象徴的な楽曲である。タイトル「Live Again(再び生きる)」が示すように、この曲は喪失と再生、あるいは死と希望をめぐる主題を扱っており、音数を抑えた構成と切実なボーカルが、人生の儚さと、それでもなお続いていく命の輝きを描き出している。
リリックは、誰か大切な人を失った直後の時間を描いているようでもあり、あるいは死に瀕した者の内なる独白のようでもある。その曖昧さと普遍性によって、「Live Again」は聴き手一人ひとりの感情に静かに寄り添い、“もう一度始めること”の意味を問いかけてくる。Better Than Ezraにとっても、この曲は単なるアルバムのエンディングではなく、彼らの音楽が持つ“癒し”と“祈り”の側面を最も明確に示した作品である。
2. 歌詞のバックグラウンド
『How Does Your Garden Grow?』は、Better Than Ezraのキャリアにおいてもっとも実験的なアルバムとされ、サイケデリアやエレクトロニカ的な質感、ループ構造など、当時のオルタナティブ・ロックとしては挑戦的な音楽性を取り入れていた。その中で「Live Again」は、シンセやエフェクトを排した極めてシンプルな構成で収録されており、まるで聴き手と一対一で向き合うような親密さを湛えている。
フロントマンのケヴィン・グリフィンは、インタビューで「この曲は、何かを乗り越えた先にある“静けさ”を音にしたかった」と語っている。死別や喪失というテーマは、彼の詩世界にしばしば登場するが、「Live Again」ではそれが特にストレートに、そして静謐に描かれている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、本作の感情を最も象徴するパートを引用し、英語と日本語訳を紹介する(引用元:Genius Lyrics):
I need a sign
To let me know you’re here
「君がまだここにいると
僕に教えてくれる、そんなサインが欲しいんだ」
And all of these lines are being crossed
Over the atmosphere
「たくさんの境界線が
空の向こう側で交差している」
I need to know that things are gonna look up
Cause I feel us drowning in a sea spilled from a cup
「少しずつでも状況が良くなると知りたい
だって僕らはまるで、こぼれたコップの水で溺れているみたいだから」
この詩は、日常のささやかな絶望のなかに、宇宙的な孤独や問いを感じさせる構造になっている。“Spilled from a cup”という比喩は、圧倒的な悲しみによってではなく、“小さな出来事の積み重ね”が人を沈めることもある、という静かなリアリズムを含んでいる。
4. 歌詞の考察
「Live Again」が深く心を打つのは、その語りが極端に抑制されているからである。これは怒りや号泣の歌ではなく、ただ「もう一度生きていくためには、何が必要なのか」を、自分自身に問い続けるような歌だ。喪失の只中にある語り手は、死者との交信を求めているようでもあり、沈黙のなかにこそ答えがあるような気もしている。
特筆すべきは、この曲の“終わらなさ”である。コード進行も、歌詞の終わりも、はっきりとした終点を示さないまま、ただ波のように繰り返されていく。それは、人生の喪失が“決して解決しない問題”であることを反映しているようであり、それでも“それとともに生きていく”という選択を含んでいる。
「Live Again」とは、“生まれ変わる”という意味だけではない。過去の悲しみや記憶を完全に断ち切るのではなく、それらを抱えたまま、別の形で“生き直す”という静かな決意でもある。その姿勢が、この曲の誠実さと普遍性を支えている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Hurt by Nine Inch Nails / Johnny Cash
痛みを乗り越えようとする声が、静かに響く傑作。とくにJohnny Cash版は「老いと赦し」を描く。 - The Night Descending by Iron & Wine
夜の中で、喪失と再生を語りかけるようなフォークの静けさ。 - The Blower’s Daughter by Damien Rice
「愛が終わったあと」の余韻を、生々しい言葉と声で綴った名曲。 - No Surprises by Radiohead
悲しみを受け入れた先にある諦観と安らぎを、静かに歌い上げるバラード。 -
Colorblind by Counting Crows
感情を剥き出しにせず、むしろ“色のない感情”として描いた、ミニマリズムの美しさ。
6. “再び生きる”とは、失うことと共にある
「Live Again」は、Better Than Ezraの中でも最もパーソナルで、最も静かな“祈り”のような楽曲である。誰かを失ったとき、人はどうやって次の一歩を踏み出すのか。それは希望を持つことでも、前向きになることでもなく、ただ“何かを感じようとすること”なのかもしれない。この曲は、その微かな感覚の兆しを、息をひそめるように描いている。
日常の中で突然崩れ落ちる感情。取り返しのつかない瞬間。それでも夜が明ける。そんなとき、人は「再び生きる」ことを決意するのではなく、ただ“生きてしまう”。「Live Again」は、その“不可避の再生”にそっと寄り添う曲であり、悲しみを越えようとする者すべてへの、優しい手紙のような存在である。
「Live Again」は、決してドラマチックではないが、人生のひそやかな転換点を描く、まれに見る誠実な楽曲である。その沈黙の中に、深い共感と慰めが宿っている。聴き終えたあと、あなたはきっと夜空を見上げて、今日という日に、もう少しだけ意味を見出したくなるだろう。
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