ロサンゼルスの地で生まれ、独自のブルージーなサウンドと開放的なグルーヴでファンを魅了してきたロックバンド、Little Feat。
1970年代を中心にアメリカ音楽シーンで重要な役割を果たし、ジャム要素と乾いた南部の香りを融合させたその音楽性は、今なお多くのリスナーを惹きつけ続けている。
彼らはブルース、カントリー、R&B、ファンクなどをボーダーレスに取り込んだバラエティ豊かなサウンドを志向し、当時のロックバンドの中でも特にユニークな立ち位置を確立していた。
バンドの中心人物であったローウェル・ジョージの独特の作曲センスと、演奏陣の卓越した技巧が生むグルーヴは、一度耳にすると深く癖になるような魅力を持っているのだ。
本稿では、Little Featの背景、音楽スタイル、代表曲、アルバムの魅力、そして彼らが受けた影響や与えたインパクトについて、時代背景やエピソードも交えながら紐解いてみたい。
Little Featの背景と歴史
Little Featが結成されたのは1969年頃。
当時、ローウェル・ジョージはフランク・ザッパ率いるThe Mothers of Inventionに関わっていたが、ザッパの影響を受けながらも自らの音楽性を探求し、より自由度の高いバンドを作りたいと考えた。
そこにビル・ペイン（キーボード）、ロイ・エストラーダ（ベース）、リッチー・ヘイワード（ドラム）が合流し、最初期のラインナップが固まっていく。
彼らが所属したワーナー・ブラザーズは、イーグルスやヴァン・モリソンなどと並行して、当時ウエストコーストの新しいロックバンドを積極的に世に送り出していた。
Little Featは1971年にデビューアルバム『Little Feat』をリリースし、そこで見せた音楽性が当時のロックシーンに爽やかな衝撃をもたらしたのである。
ブルースのヘヴィさとカントリーの軽妙さが交差しながらも、ローウェル・ジョージが持つソウルフルなフィーリングが全体を包み込んでおり、音楽誌や評論家からは早くから高い評価を得ていた。
多彩な音楽スタイルとサウンドの特徴
Little Featのサウンドは、一言ではくくれないほど多面的である。
ブルースを基調にしつつ、ファンクやR&Bのグルーヴを取り込み、そこにカントリーテイストのスライドギターが乗ることで、独特の“都会と田舎”がミックスされた景色が浮かび上がるのだ。
ローウェル・ジョージの温かみあるボーカルとスライドギター、ビル・ペインによる多彩なキーボードアレンジ、リズム隊の作り出すタイトかつしなやかなグルーヴが合わさって、ドライヴ感とゆるやかさを同時に感じさせる音像を作り上げている。
その多層的なアンサンブルは、同時代の他のサザンロック系バンドとも一線を画し、聴き込むほどに浮かぶ味わい深さが魅力的なのである。
代表曲の解説
Little Featは数々の印象的な楽曲を世に送り出してきたが、ここでは幾つかの代表曲を取り上げる。
初期からファンの支持を集めているこの曲は、ローウェル・ジョージの繊細な作曲力と、やや物憂げで温かな歌声が際立つナンバーである。
トラックドライバーを主人公にした歌詞が描く孤独感や郷愁が胸を打つ一方で、メロディには開放感が漂い、不思議と旅への憧れをかき立てられる。
Little Featの代表的なアルバム『Dixie Chicken』のタイトル曲であり、ライブでもしばしば演奏される人気曲。
ニューオーリンズ的なファンキーさと、彼らの持つカントリー寄りのメロディ感覚が溶け合い、聴くと自然に身体が揺れてしまうような楽しさに満ちている。
ファンキーなベースラインとリズムワークが印象的な楽曲。
ローウェルのギターはもちろん、ビル・ペインのキーボードが曲全体を彩るように鳴り、バンドのアンサンブル感が存分に発揮されている。
この曲をライブで聴くと、観客と演奏陣が一体になった熱狂を体験できるのだ。
アルバムごとの進化と注目作
『Little Feat』（1971年）
デビュー作となるアルバム。
ローウェル・ジョージとビル・ペインが核となったバンドの“初期衝動”が詰まっており、ブルージーなナンバーから、のちのサザンロック色を感じさせる楽曲まで多様な音が詰まっている。
まだ荒削りな部分もあるが、その分、若々しい勢いと熱量が感じ取れる作品である。
『Sailin’ Shoes』（1972年）
デビュー作の延長にありながら、より洗練された楽曲が並ぶ印象の強いアルバム。
ローウェル・ジョージのソングライティングが円熟味を増し、ジャケットのイラストが示すようなサイケデリックな空気感もちらりと見せる。
タイトル曲Sailin’ Shoesはライブでの定番曲として人気を誇り、のちのバンド像を確立する上で大きな役割を担った。
『Dixie Chicken』（1973年）
彼らの傑作と名高い一枚。
ニューオーリンズや南部音楽のテイストが色濃く出ており、ファンキーかつ香ばしいサウンドが耳に心地よい。
ローウェル・ジョージの作曲能力はもちろん、キーボードのビル・ペインがジャズやゴスペル的な要素を取り入れ、これまで以上に幅広い彩りをもたらしている。
タイトル曲のほか、Two Trainsなどもしなやかなリズムを楽しめる名曲で、バンドとしての完成度が高いと評価されている。
『Waiting for Columbus』（1978年）
Little Featのライブ盤として最も有名かつ高い評価を得ている作品。
スタジオ音源では味わえない躍動感と即興性が詰まっており、様々なバンドがライブアルバムを出すなかでも“一際輝く名作”と呼ばれる存在である。
観客との熱気、バンドメンバー同士の掛け合い、その時々のアドリブの妙が一体となり、聴き手を熱いステージの真ん中に誘ってくれるようなエネルギーを放っている。
影響を受けたアーティストと音楽的背景
ローウェル・ジョージ自身はブルースやR&Bからの影響が大きく、さらにフランク・ザッパと活動を共にした経験から、複雑なリズムやユーモアを感じるトリッキーなアプローチも持ち合わせていた。
キーボードのビル・ペインはジャズ的なフレージングやゴスペルのコーラスワークを参考にするなど、一人ひとりのルーツが濃厚で多彩であることが、バンド全体のサウンドを豊かに彩っている。
また、カントリーロックの流れを汲むイーグルスやグラム・パーソンズ、サザンロックの雄であるオールマン・ブラザーズ・バンドと同時代を生きていたため、南部音楽のエッセンスも積極的に取り入れていた。
LAの都会的なシーンと南部の土の香りをハイブリッドに融合したのが、Little Featの真骨頂だったとも言える。
Little Featが与えた影響
Little Featの演奏スタイルやアンサンブルは、1970年代から80年代にかけて多くのミュージシャンに影響を与えた。
彼らのファンク寄りのリズムとロックの融合を取り入れたバンドは少なくなく、例えばディキシー・チックスやザ・ドゥービー・ブラザーズなど、アメリカ南部を軸にしながらも幅広いジャンルを取り入れるグループにとってのお手本のような存在となっている。
さらに、ローウェル・ジョージの濃厚なスライドギターとソウルフルな歌声は、女性シンガーのボニー・レイットやリンダ・ロンシュタットなどにもリスペクトされており、彼女たちがカバーを試みるなど交流も生まれていった。
ジャムバンドの文化が花開く90年代以降は、PhishやWidespread Panicなどにも一種の“ルーツ”として評価され、ライブにおける即興演奏の盛り上がりを継承したと見る声もある。
バンドの危機と再生
1979年にローウェル・ジョージが急逝し、一時はバンドの活動が困難になる。
しかし、残されたメンバーはLittle Featの音楽を絶やすことなく継承し、何度かの休止やメンバーチェンジを経ながらも活動を続けてきた。
時代の変化や音楽シーンの流行とは別のところで、こだわり抜いた演奏と音楽性を守り抜いている姿勢は、ファンにとって心強い存在だったと言える。
オリジナル要素とエピソード
- ローウェル・ジョージはフランク・ザッパから「君の音楽は面白いから、もっと自由にやるべきだ」という助言を受けたという逸話がある。 その一言がきっかけで、Little Featの結成を本格的に考えたとされる。
- バンドはツアー先でしばしばセッションを行い、地元のミュージシャンをゲストに招いて一晩限りの“特別なライブ”を披露するのが恒例だったことも、根強い支持を集める理由だ。
- ライブ会場では、時に南部のケイジャン料理やバーベキューを取り入れたフードコーナーを設け、音楽と食の宴を同時に楽しむ文化が生まれたとも言われている。
まとめ
Little Featの音楽は、ブルースやカントリー、R&Bといったアメリカ音楽の根底を支える要素を柔軟にミックスしながら、どこか都会的で洗練された響きを宿している。
ローウェル・ジョージの早すぎる死やバンドの存続危機を乗り越えつつも、大切に守ってきた音楽的精神は、多くのアーティストやリスナーに影響を与え続けてきた。
そのサウンドを深く味わうほどに、新たな発見や喜びが湧いてくる点こそ、Little Featというバンドの真骨頂なのだろう。
彼らの楽曲を耳にすると、アメリカの広大な風景を旅するような気分になり、ファンキーなリズムに心を弾ませながらも、どこか懐かしい郷愁感に包まれる。
時代が変わっても色褪せないグルーヴを持つLittle Featは、今この瞬間に聴いても、新鮮で温もりある刺激を与えてくれる存在なのである。
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