1. 歌詞の概要
マドンナの代表曲の一つ「Like a Virgin」は、1984年にリリースされた2作目のアルバム『Like a Virgin』の表題曲であり、彼女を全世界的なポップアイコンへと押し上げた決定的な作品である。この楽曲は、恋愛や性、アイデンティティといったテーマをポップミュージックの中で大胆に再構築し、当時の音楽業界だけでなく社会全体に鮮烈なインパクトを与えた。
歌詞の中心にあるのは、「処女のように(Like a virgin)」という挑発的なフレーズである。この言葉は、文字通りの意味よりも比喩的な意味で使われており、過去に傷ついた経験を持つ女性が、真の愛に出会うことで、再び純粋な気持ちを取り戻す様を描いている。恋愛を通して新たな自分に出会う瞬間の喜びや驚き、そして性的・感情的なリセットというテーマが、軽快なダンス・ポップのリズムに乗せて表現されている。
「Like a Virgin」はその挑発的なタイトルと歌詞によって、当時の保守的な社会の価値観に強烈な揺さぶりをかけ、賛否両論を巻き起こしたが、それこそがマドンナというアーティストの核心であり、この曲は彼女の“自己演出”の幕開けでもあった。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Like a Virgin」は、マドンナ自身が作詞・作曲した曲ではない。作曲はトム・ケリーとビリー・スタインバーグのコンビによるもので、もともとはスタインバーグが自身の失恋と新たな恋の再出発を比喩的に綴ったものであった。彼はこの曲を「真実の恋に出会ったときに、まるで処女のように新鮮で無垢な気持ちになった」という心理状態を歌ったと語っている。
マドンナはこのデモに強い関心を示し、自分のアイコン的イメージと結びつける形でこの曲を採用した。彼女の意図は、性に関する固定観念を逆手に取り、女性のセクシュアリティや自律性を堂々と肯定することであり、結果的に「Like a Virgin」は単なるラブソングではなく、フェミニズムとポップの融合としての意味合いを持つことになった。
特に象徴的だったのが、1984年のMTV Video Music Awardsでの伝説的なパフォーマンスである。ウエディングドレス姿のマドンナが巨大なウェディングケーキの上で歌いながら腰をくねらせ、床を転げ回る姿は、視聴者の度肝を抜いた。これにより、彼女は「スキャンダラスな女性アーティスト」というレッテルとともに、“女性の自己表現”の新しいアイコンとしての地位を確立することとなった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的な歌詞の一部とその和訳を紹介します(出典:Genius Lyrics)。
“I made it through the wilderness / Somehow I made it through”
「荒野を抜け出してきたの / なんとかここまでたどり着いたわ」
(辛い恋愛や孤独の時間を経て、新たな出発地点に立ったことを示す)
“Didn’t know how lost I was until I found you”
「あなたに出会うまで、自分がどれだけ迷ってたかも気づかなかった」
(出会いによって初めて過去の孤独に気づくという感情の発露)
“Like a virgin / Touched for the very first time”
「処女のように / 初めて触れられたような感覚」
(比喩的に“新たな感情の目覚め”を描くフレーズ)
“You’re so fine and you’re mine / Make me strong, yeah, you make me bold”
「あなたは素敵で、私のもの / 私を強くするの、そう、勇気をくれるの」
(恋によって自信と力を得た女性の自覚)
“‘Cause only love can last”
「だって、永遠に続くのは愛だけ」
(愛によって救われるという、ロマンティックな信念)
このように、歌詞は一見ポップでセクシーだが、その裏には“再生”と“自己確立”という深いテーマが込められている。
4. 歌詞の考察
「Like a Virgin」の最大の特徴は、性と純潔、経験と再出発という二項対立をポップに再構成している点にある。「処女のように」というフレーズは、性的な経験の有無を表すだけでなく、“感情的なリセット”や“再生”の象徴として機能している。
過去に傷つき、信じることを忘れていた人間が、新たな出会いによって再び無垢さを取り戻す――それは宗教的な意味での「浄化」や「回心」にも通じる感情であり、マドンナはそれをセクシャルで挑発的な言葉に変換することで、従来の“女性らしさ”や“貞操”という概念を打ち壊している。
さらに、「Like a Virgin」は“女性が性について自由に語ること”のタブーを打ち砕いた画期的な一曲としても評価されている。それまでのポップソングでは、女性の欲望や性的主体性は暗示的に扱われることが多かったが、マドンナはそれを正面から引き受け、あえて挑発的に表現することで、ポップカルチャーにおけるフェミニズムの新しい形を提示した。
彼女が歌う「処女のように」は、決して“無垢さ”の回復ではなく、むしろ“選び取った再出発”としての純粋さであり、それこそがこの曲の根底にあるラディカルな魅力なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Material Girl” by Madonna
「Like a Virgin」と同時期に発表された楽曲で、消費社会と女性の自己認識をポップに皮肉った代表作。 - “I’m So Excited” by The Pointer Sisters
性的な喜びと解放感を前向きに表現したダンスナンバー。80年代女性ポップの王道。 - “Girls Just Want to Have Fun” by Cyndi Lauper
女性の自由と自己表現をテーマにしたアンセム的楽曲。 - “Express Yourself” by Madonna
後年のマドンナがより明確にフェミニズムを打ち出した楽曲。「Like a Virgin」の延長線上にある。 - “I Touch Myself” by Divinyls
女性の欲望と自己満足を率直に歌った挑戦的なナンバーで、「Like a Virgin」の系譜に位置づけられる。
6. 性とポップカルチャー:革命の始まりとしての一曲
「Like a Virgin」は、1980年代のポップミュージックにおける“革命”の始まりとも言える楽曲である。それまで「性的に挑発的な女性像」は男性の視線によって消費される対象だったが、マドンナはその視線を自らの手に取り戻し、自分の身体とセクシュアリティを“語る主体”となった。
それはポップミュージック史上、初めてのことではなかったにせよ、ここまで明確に、かつ大衆的に打ち出されたのは異例だった。結果的に「Like a Virgin」は、保守派の怒りを買いながらも、若い世代にとっては“自分を自由に表現していい”というメッセージとして受け取られ、ポップソングの在り方そのものを変えてしまった。
マドンナの「Like a Virgin」は、その大胆さ、挑発性、そして詩的なメタファーによって、単なるラブソングを超えて、性、女性性、再生、そして自由についての現代的な叙事詩となった。今聴き直してもなお、その革命的な輝きは色あせない。むしろ、誰もが“新しい自分”に出会う瞬間を求める今の時代にこそ、この曲は再評価されるべきである。
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